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Gotch『Good New Times』インタビュー



──では、ここからは各曲について訊かせてください。タイトルトラックの“Good New Times”は〈ポケットにはジャック・ケルアック 新しい世紀のイメージを言葉にして僕らは歩むんだよ〉という歌詞から始まっていて、前編でも話が出たビート文学との直接的なリンクを感じさせますね。

Gotchビート文学のことはしばらく意識していて、どうやって新しいイメージで歌おうかってことはずっと考えてたんです。俺たちの魂はずいぶん前からある種の荒廃というか、虚無みたいなものにさらされていて。それは何もかも豊かそうに見えた50年代のアメリカ、オールディーズがあって、コカコーラがあってっていう時代に生まれたビート文学と繋がるところがあるというか、ロスト・ジェネレーションとビート・ジェネレーションは近いんじゃないかと思ってて。俺は勝手に「魂の解放運動」みたいな呼び方をしたいと思ってるんです。だって、大きなフェスとかに行っても、「これじゃない感」しかないですもん。「何だこのマスゲームは?」って。でも、誰のことも責めたくないじゃないですか? みんな楽しそうなのはわかるんだけど、でも何か違う。「みんな違ってみんないい」って言葉に感動したはずなのに、結局みんな同じことをしてるじゃないかって思うから、もっともっとみんな違っていい、もっともっと自由でいいんだっていう、それをどう音楽でアピールしたらいいのかっていうのは、今後もトライしていきたくて。

──そのためのヒントをビートニクに求めたと。

Gotchケルアックの『On The Road』って、「路上」って訳すのはちょっと違うんじゃないかと思ったんです。「我が道」とか「それぞれの道」みたいな意味もあるんじゃないかなって。「路上」って訳したくなるのはわかるし、間違いじゃなかったと思うけど、もうちょっと多角的な、いろんな角度から見ることができる言葉なんじゃないかなって。

──Gotchさんがビートニクの中で見出した「自由」のイメージはどういったものだったのでしょうか?

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Gotchもちろん、薬でもやって自由になろうぜって感じじゃないですよね。今の時代はそれをシラフでやらなきゃいけないんじゃないかなって。ネットの影響もあると思うけど、みんなどんどん写実だけが上手くなっていて、現実の厳しさだけがどんどんクリアに見えるようになってきてるから、ヒッピー的な逃避はもう効果がないと思うんですよ。写実的に描写された現実に尻尾を掴まれちゃう気がする。だから、俺たちはもう少しやり方を考えなくちゃいけなくて。もう逃避じゃないんだっていうね。バキバキに硬直した何かを緩ませていく以外に、俺たちが解放される瞬間っていうのはなくて、しかも現実から離れた場所ではなくて、現実の中で解放されないといけないと思うんです。

──なるほど。

Gotchこれって禅の教えにも近いんですよね。静かな部屋で瞑想して得られるものに何の意味があるのかっていう。「安禅、必ずしも山水を用いず」という言葉があるように。仏教にしても、大乗仏教みたいな、庶民と一緒に苦しみながら悟ってなんぼなんじゃないかって。美術館の中にあるものの美しさもわかるけど、音楽や表現って本来そういうものなんじゃないかな。

──今の「現実の中での解放」という話と、アルバムのアンビエントなサウンドには結びつきがあると言えますか?

Gotchどうなんでしょうね……そこは自分でもちゃんと分析できてなくて、サウンドに関しては、単純にこれが気持ちいいっていうか、数学的じゃないところに美しさがあるっていうことにみんな気づいてると思っていて。ヒップホップだってどうずらすかって考えてるでしょ?

──グリッドに合わせるんじゃなくて、そこからずれたものに気持ちよさを感じるっていうのはありますよね。

Gotchずっと鳴ってるノイズなんて、どこが始まりでどこが終わりかもわからないし、1分間同じ楽器から出た音がちょっとずつ変化しながら鳴ってて、それは言葉では捕まえられない。今回俺たちが鳴らしてる音っていうのは、村上春樹でも大江健三郎でも描写できないと思う。そこには圧倒的な情報量があるんだけど、言語的には一切回収できない。それが音楽の美しさだと思うんです。それをポップスでやるのは難しいっていうか、鳴らすことでしか意思を表明できないんだけど、そういう要素を楽しんでくれる人が一人でも増えたら演奏する側も楽しくなると思うし、自分たちが音楽をやるっていうことは、そういう運動の一部なのかもしれないなって。

──その感覚にどうにかして言葉をつけるなら、それが「Good New Times」だと。

Gotchそういうことですね。「何となくこの言葉が近い気がする」っていう感じです。「自分たちのやってることを一言で言い表してください」って言われたら、「Good New Times」かなあって。それぞれの曲や言葉、歌はどれも捨て置けないものだけど、今回の作品はその周りで鳴ってる何とも形容できない、音楽でしか形容できないフィーリングだったり、実際に鳴ってる音にみんなが何かしらを感じてくれたら嬉しいかな。

──少し斜めから見ると、ルイ・アームストロングの“What a Wonderful World”が、ベトナム戦争で世界が素晴らしくなかったからこそ書かれた曲であったように、世界がまだまだバッドでオールドだからこそ、“Good New Times”を歌う必要があったのかなって。

Gotchそういうのもありますよね。アルバム1枚通してあまりよくない瞬間が書き綴られていて、その中でやり直したり、調停者がさじを投げてたり、「それでも笑ってよ」って言葉があったり、前作から続く「生きることと死ぬこと」っていうテーマもあったり、そういうのは全部あまりよくない社会や世界の中で繋がってるんだけど、でも生きてる限りはその「良くなさ」に抗いたいなって。現実っていう分厚い本があるとしたら、その中の2?3ページは、俺たちがポジティヴなページを、読んでる人がフワッとゆるむようなページを挟めたらいいなって。最悪なものを最悪だって告発すること、そういう時代はもう過ぎて欲しいと思う。アノーニでアントニーが書いてることをみれば、まだまだある種の告発には力があると思うけど、でも俺はその先をやりたいと思ったんだよね。もちろん、あの人はとても慈愛に満ちた人で、最終的には愛があると思うから、そういうものであったらいいなって。

──表現の方法は違っても、「魂の解放」に向かってるという意味では、『Good New Times』も『Hopelessness』も通じるものがあるんじゃないかと思います。

Gotch嘆きながら、うなだれながらも、最後のところで踏ん張っていられればいいかなって。そういう感じがしますね。
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