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Gotch『Good New Times』インタビュー

──言葉のこともじっくりとお伺いしたいのですが、まずはアルバム全体のイメージについて訊かせてください。フォークやサイケがベーシックにありつつ、幅広い曲調の作品になっていますが、青写真はどの程度あったのでしょうか?

Gotch曲のモチーフとかイメージはわりと散らかってるというか、四散してると思います。それをどうやって束ねて行こうかって考えたときに、アンビエントワークのような、ノイズやドローンでまとめていこうと早い段階から考えてました。

──ソングライティングではなく、音像で統一感を出そうと。

Gotchただの弾き語りで成り立つような曲もあったので、それをどう面白くしようかって考えたときに、MIDIで書けないようなことをやるのがいいんじゃないかって思ったんです。スコアには書けないし、自分でも何をやってるんだかわからない、思い出せもしない。それって音楽的に素晴らしいことだと思うんですよね。

──「楽曲の中にエラーを内包してる」ってことでしょうか?

Gotchというか、エラーなんてないんだっていう考え方です。弦を擦った音とか、2度と同じ音は出せないですけれど、むしろ再現性なんてなくていいんじゃないかと思うんです。今の世の中は再現性にまみれてると思うんですよね。ライブでもCD通りやんなきゃとか、みんなコンピューターで録音された音源を再生して、家で感じられるのと同じことを現場でもやろうとしている。もちろん、生で人が歌ったり踊ったりしてるから、プラスアルファは絶対あるので、そこにはリアルタイムの素晴らしさが立ち上がっているとは思うけど、でもそういうことから解放されてもいいんじゃないかなって。アルバムを聴くことでしか体験できないものがあっていいと思うし、ステージに上がったらまったく違うアレンジでやり始めるのもいいと思う。だから、このアルバムは瞬間的なものというか、即興をちゃんと記録するみたいなテーマもあって。「生きてる」ってそういうことのような気がするんですよ。紛れもない今しかできないことを記録し続けるっていう、それこそが録音をする理由だと思うんですよね。

──あくまで、「そのときの記録」だと。

Gotch自分たちですら何をやったかよくわからないっていう、そういうものの方がマジカルな気がする。曲の構造はちゃんと存在するし、歌としても進んでいくんですけど、そこにまとわりついてる音や感情は刹那的なもので、今はそれにすごく心惹かれるんです。

──その意味では、プロデューサーだけでなく、エンジニアとしても参加したクリス・ウォラの存在は大きかったと言えそうですね。

Gotchもちろん、ここで今偉そうにしゃべってる考えも、クリスから触発されたことがたくさんあります。彼の最近のアンビエントワークスとか本当に美しいし、彼が考えたり感じたりしていることや、録音の方法はすごく刺激的でした。

──そもそもなぜ今回クリスを指名したのでしょうか? さっきおっしゃった考えがもともとあって、その適任者がクリスだと考えたからなのでしょうか?

Gotchもともとデスキャブにおける端正なプロダクションに興味があったんですけれど、自分のバンドのノイズやアンビエントの要素がこんなに膨らむとは思ってなかったんです。そこはクリスによって膨らませてもらったというか、もっとやっていいんだって思いました。どうしてクリスに頼んだのかっていうのは一言では言えないんですけど、でもデスキャブだったり、ラ・ラ・ライオットやナダ・サーフだったり、そういう自分が好きなバンドとの仕事ぶりから思うに、一緒にやったらいいものができるんじゃないかって確信はありましたね。

──クリスとのやり取りではどんなことが印象的でしたか?

Gotchとても知的な人でした。「オブリーク・ストラテジーズ」っていうブライアン・イーノが作ったカードをずっと持ってて、みんなに配ってくれるんですよ。そこにはヒントになるような短い言葉が書いてあって、カードが配られる度にみんなの意識が少し変わるんですね。「これは英語圏の人だから恥じらいなくやるんだよなあ」って思いました。ポエトリーに対するリスペクトがある人たちだから、短いセンテンスをいろんな角度から見たりできる。日本語だと、自己啓発カードみたいになっちゃうというか、もっと啓示的なフィーリングになっちゃうと思うんだけど、英語のやり取りのされ方って面白いなって思いました。彼がスタジオで発する言葉も空気をすごくよくしてくれて、「Nice work」だったり「Cool」だったり、ちょっとした言葉で場を緩ませるというか、そういうのもよかったですね。
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──今の話は本作で英詞が重用されていることにもつながりそうですが、そもそもなぜ今回英語で詞を書いてみようと思ったのでしょうか?

Gotchもうちょっと開いた音楽をやってみたいと思ったんです。アジカンでフー・ファイターズのスタジオで仕事をしたときに、エンジニアから「次は英語でやりなよ」みたいなことを言われたんですよ。俺たちの曲を鼻歌で歌いながら、「英語の曲も作ってくれ」って。「そうだよね」って(笑)。メロディーの良さとか、曲の面白さっていうのは、どこに行ってもある程度のフックは用意できてるんだなってわかって、だったら、もう少しユニバーサルなものを目指してもいいのかなって。

──アジカンで海外でのライブをしてきた経験も大きそうですね。

Gotch日本語のバンドだけど、世界中の人が聴いてくれてるって意識はあって。ヨーロッパでも南米でもツアーができたし、たぶんアメリカでもお客さんがある程度は入ると思う。だから、世界に対する意識は年々高まっていて、もう少し歩みを進めて、英語の歌を書くってこともやってみたいと思ったんです。

──もともとは洋楽に対する憧れがあったけど、Gotchさんは逆に「日本語」にずっとこだわってやってきたわけで、その上で改めて「英語」に取り組むっていうのは、ある種覚悟の要ることだろうなって。

Gotchいろいろ経てますよね、その辺はね(笑)。最初は欧米のロックに憧れて音楽を始めて、インディのときはわけのわからない英語で歌ってたわけですけど、その後に日本語をやりたいと思って、何年も格闘して、自分なりに言葉に対する考え方やアイデンティティを確立して、その上でもっと開いた、外国語でちゃんと詞を書きたいって思ったんです。何周か回った後ですよね。まあ、今やってみる価値があると思ったっていうか、売れる売れないとか関係なく、トライアルとして今やってみたいと思ったんです。

──英語で書くにあたって、何かを参考にしたりはしましたか?

Gotchリファレンスとして何かを読み返したりはしなかったです。ここ何年かは好きで買ったレコードの歌詞カードを読んで、わからない単語があったらノートに書き出したり、曲を作ってるときは、毎朝30分でも1時間でも英語の勉強をしてから仕事するようにしていました。でも、制作が終わったらやっぱりサボりますね(笑)。前に細美くんが「英語は毎日5分でも続けてやんなきゃダメだよ」って言ってて。彼は頭もいいし耳もいいし、スーパーマンだから、俺みたいなどんくさいやつはとにかくやるしかないって思うんだけど、語学は難しいですね、やっぱり。

──例えば、去年だと「コートニー・バーネットの歌詞がいい」みたいな話をしたと思うんですけど、そういうところからの影響があったりは?

Gotchああいう子がいると、英語で書くことに緊張しますよ。聴く人は俺が日本人だとか関係なく、同じ土俵で読むわけだし。書くっていうのは何語だって恐ろしいことですよね。まあ、英語で歌うってこと自体が丸ごと比喩だと考えれば、なんだって歌えるなって思いました。“Lady In A Movie”とか、何の歌かよくわかんないだろうけど、丸ごと形容詞として言葉を持ってきてるような行為に近いというか、丸ごと言い換えてるっていうかね。日本語でも詞を書くっていう時点である種の比喩なんだけど、さらにもう一度違うチャンネルで書き直すみたいな。自分の中で2回変換してる感じ。だから、これはある種の思考実験みたいなものだなって思いました。ともかく、面白味なんて見つければいくらでもあるから、やりたいときにやりたいことをやるのが一番いいと思いましたね。

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