田中「わかりました。じゃあ、今のところ、音楽的なことで何か訊き逃してしまっていることってあったりますか?」
長野「ギター・コード弾かないとか、そういうことはどうでもいいです」
高藤「アハハッ!」
田中「そっか、でもそういうこともちゃんと言っておかないと、聴き取ってもらえないのか」
長野「そうですね。タナソウさんのレヴューで好きなのは、楽曲をミュージシャン目線で分析している部分が必ずある、っていうことで。でも、それをやってる人が他にいないから。タナソウさんに会った時には、自分の楽曲の構築に対する意識を話しておきたいって思ってたんですけど。言っていいですか?」
田中「言ってください(笑)」
長野「ありがとうございます(笑)。ギターがコードを弾いて、ひたすらバッキングしながら、そこにメロディが乗ってるっていうのは、美意識的にあまり好きじゃないんですよ」
田中「っていうか、耐えられないっていうね」
高藤「アハハッ!」
長野「そう(笑)。『ないな』ってずっと思ってたんですよ。そういうものがなくても、メロディがあるから、曲のメロディ・ラインを引っ張るものはそれだけでいいじゃないか、っていう。でも、その意識で曲を鳴らしていると、他の人にとっては全然物足りないっていうか、スカスカに聴こえるっていう。隙間を埋めるものがない、足りない、っていうことを絶対言われるんですよ。でも、その隙間がいいんじゃないですか」
田中「その通り」
長野「だから、それをポップスでもっとやるべきっていうか。やるべき、っていうのはちょっと違うのかもしれないですけど」
田中「でも本当に、音が鳴っていない状態っていうのが、ポップ音楽を作る上で、ひとつの大きなポイントですよ。それをどう使うか。要するに、リズムの抜き差しだったりとか、上物の抜き差しみたいなもので、鳴っていない時に他の楽器が飛び出たりする。その瞬間のアンサンブルじゃなくて、時系列になった時のアンサンブルっていうのは、最大の武器のひとつ。で、それは欧米のロック・バンド、ポップスを作る人たちはすごく長けてるんですよ。日本の音楽にも、歌謡曲の時はそういう感覚があった。でも、90年代後半には、イントロから最後までずっと音が鳴ってるっていう。これ、たぶん流行なんですよ。単純に。まあ、その流行が加速しているのが不思議なんですけど(笑)」
長野「いつ終わるんですかね(笑)。でも、周りがそんなに言うなら、『じゃあ、コードで鳴らしてみよう』と思ったんですよ。でも、コードが鳴っているからって、安定して伝わるかと言えば、そういうわけでもなかったし。足りないっていうことに関しては、すごい突かれるんですけど」
高藤「そうだね」
長野「たとえば、ポリスとかのスカスカな感じ。あれはすごい。メロディがよくって、あれだけタイトで、隙間があって。あれがポップスにちゃんとなったら、相当すごいことだと思うんですけど」
高藤「でも昔はそうだったんだよね。大澤誉志幸とかやってたもんね」
長野「確かに。でも、そういうものも、もっと普通なものとして提示出来るのかな、って今は思うっていうか。たとえば、岡村靖幸とかはどうなんですかね? 岡村さんの音楽は、そんなわかりやすいわけではないじゃないですか? でも、好きな人は多くて、実際すごくいい。あの部分に反応できる感性があるのに、じゃあなんで、それがバンド・サウンドになった時に??同じ類のものじゃないんですけど??琴線に触れていかないっていうか、わかりづらいっていう処理のされ方をしてしまうんだろう、っていうのは、いまだにちょっとよくわからない」
田中「つまり、NOWEARMANと岡村靖幸の違い?」
全員「アハハハッ!(笑)」
BACK / NEXT