石井光太
×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
後藤
「本当にそうですよね。最近、僕は一神教とは遠い、アニミズムに興味があります」
石井
「アニミズムって、ごく個人の宗教ですよね。昔、うちの爺さんが冬に死んで葬式をした日の夜に、蝿が一匹飛んできたんです。その時に、そこにいた人間がみんな、その蠅を“爺ちゃんが帰ってきた"って言ったんです。客観的に考えたら、帰ってくるわけがないですよね。だけども、一個人の中では、その瞬間、その蠅が一種の神様、爺ちゃんの代わりになったわけです。そういう神様って、本来は必要だと思うんですね。イスラムの売春婦の話だってそうです。例えば、10歳くらいのストリートチルドレンの売春婦の子が、おっさんに、お金は要らないから抱いてくれって言う。こちらから見たら、そんなの道徳的に出来るわけないだろって思うわけです。でも本人からすれば、今まで誰にも相手にされなくて、でも、お客さんならばその時だけはかわいいねって言ってくれて布団の中で寝かせてくれる。その子にとって、その瞬間だけは、お客さんが神様になるわけです。それがもちろん良いとは言ってないですけど、その瞬間は大切にしなきゃいけない。僕の目に見える人間の愛おしさっていうのはそこにあるんです。僕はその瞬間、かわいそうとか悲惨といった考えが全て消えて逆に愛しく思えてくるんです。あるいは、蠅を見て爺ちゃんだって話していた親族も愛おしいくなる。そういうことを美しいって言い表せるのって、文学や音楽しかないと思うんです。」
後藤
「光太さんは、視点が独特ですね。グッと話が入ってきます。やっぱり、ジャーナリストですね」
石井
「ズケズケと言っちゃいますからね(笑)」
後藤
「僕達は、理想主義的な側面がどうしてもあるので、その光太さんの斬り口はすごなって思いますね」
石井
「僕は音楽のほうが羨ましいですけど……。お互いにないものねだりですね(笑)」
後藤
「何歳くらいから、海外に行くようになったんですか?」
石井
「海外には大学に入ってからですね」
後藤
「初めは、旅費は自分で出してですか」
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