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サラーム海上 ×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

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後藤「ところで、サラームさんがワールド音楽にのめり込んだきっかけは何だったんですか?」

海上「子供の頃はシンセサイザーが大好きでした。今考えるとシンセサイザーが異世界の音楽だったからです。シンセは電気的に作られた実在しない楽器の音ですから。僕は自分の世界の外側にある音楽に惹かれていたんだと思います。高校生の頃は坂本龍一さんがラジオで番組をやっていて、そこでバリ島のガムランとかケチャとか、ブルガリアの女性コーラス、ピグミーのポリフォニーなどをかけていたので、それで随分知ったんです。その頃からレコ屋や図書館に行って民族音楽の棚をあさるようになって、イランの音楽やインド古典音楽なんかを掘り始めました。大学時代は下北沢のレコファンや渋谷のWAVEに通いつめ、アルバイトしたお金を全てレコード買うのに費やしてましたね。80年代の終わり、ちょうどワールド音楽のブームが始まった頃です。もちろん当時流行していたロックやパンクやポップも聴いてました。そして大学を出てそのWAVEに就職して、レコードを買う側から売る側になったんです」

密林のポリフォニー 〜イトゥリ森ピグミーの音楽
密林のポリフォニー〜イトゥリ森ピグミーの音楽

イトゥリ・ピグミー

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海上「ワールド音楽にハマると個々の国々や少数民族の宗教や文化の違いをある程度知らなければならないので、知れば知るほどに底なし沼にハマるようなものです(笑)」

後藤「全部の国の全部の音楽ジャンルですもんね」

海上「そうなんです。日本で言えばJポップからお琴、義太夫、ヒップホップ、沖縄音楽、アイヌ音楽、テクノまで、それを他の全部の国で網羅しようなんて元々無理なんですよ」

後藤「若くして、そういう音楽にハマると大変ですね(笑)。ワールドミュージック以外の音楽は?」

海上「聴きましたよ。中学一年の時にYMOに出会ってガツーンと来た、いわゆるYMO世代です。もちろんロックやニューウェイブ、パンクも好きでした。面白いのは、その頃好きだったニューウェイブの音楽家が今になってワールド音楽と繋がっていた事がわかる。スペシャルズとか、モノクローム・セットとか。メンバーにイギリス人も多いけど、移民も多いんですよ。東欧やインドの移民もいます。スペシャルズの2トーン・スカとか、今聴くと東欧のジプシー音楽みたいに聴こえる。それで調べ直すと、中心人物が東欧系移民だったりする。パンク、ニューウェイブはそれまでレコード会社が見向きもしなかった音楽家達が自分達でインディーズ・レーベルを作って活躍を始めた動きです。そこにはイギリスの階級社会から外れてしまった移民達も含まれていたんです。例えばワムのジョージ・マイケルはギリシャ人、もう一人はエジプト人なんです。そう考えると『ケアレス・ウィスパーズ』が世界中の演歌歌手達にカヴァーされている理由もなんとなく見えてきます。あれはギリシャ歌謡だったんです」

後藤「それは面白いですね、音楽の繋がり」

海上「ええ、後になって気づく事が圧倒的に多いですけどね。」

後藤「サラームさんがワールド音楽に惹かれる理由って何ですか」

海上「ワールド音楽を聴いていると"自分の知っているものだけが全てじゃない"と気づくことが多いんです。音楽が好きだという人は沢山います。でも、ほとんど全ての音楽好きの人が聴いている音楽はリズムは4拍子で、BPMは60〜180くらいの間の音楽だけ。世界には7拍子も11拍子もあるし、BPMが20の音楽も400の音楽もあります。そういう自分の知らなかった音楽を沢山聴き続けることで、自分の中にあった古い既成概念の壁が崩れて、その外側にある世界が見えてくる。それがワールド音楽の醍醐味の一つかな」

後藤「うん、それは楽しそうですね」

海上「例えば、西アフリカのサハラ砂漠周辺部から出てきた『砂漠のブルーズ』という音楽ジャンルが数年前から世界的に人気を集めているんです。マリやアルジェリアやモロッコのサハラ砂漠周辺に住むトゥアレグという少数民族の音楽です。今、エレキギターを持たせたら彼らにかなわないと言う人もいるくらいです。アフリカとサハラの文化、そしてアラブの文化が混ざっている。それを代表するグループ、ティナリウェンを聴いて下さい」

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ティナリウェン

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後藤「楽しいですね」

海上「そう。エレキギターを初めて手にした時の感動みたいなのがこの音楽には残ってる感じがする。それにアフタービートじゃなくて、拍の頭を手拍子するビート。日本の手揉みのビートに近いでしょう。彼らは子供時代にマリ政府によるトゥアレグ人の弾圧を受けて、命からがらに逃げ出した。その頃、リビアのガッダーフィー大佐がアフリカの少数民族をピックアップして、それぞれのアイデンティティを育てながら、軍事訓練を受けさせ、ゲリラに育てあげるという事をリビアで行っていたらしいんです。ティナリウェンのメンバーもその軍事キャンプで9ヶ月ほど訓練を受けたんです。でも、やはり自分達は音楽をやりたいとキャンプを抜け出して、地元に帰ってエレキギターを持ってティナリウェンというグループを作ったんです。ほら、ティナリウェンを聴いている人は偶然、今話題のガッダーフィー大佐と繋がりを持つんです。もう一つ、日本でも人気のイギリスのインド系のグループ、エイジアン・ダブ・ファウンデーションもガッダーフィー大佐をテーマにした曲を作っていて、それが日本でもヒットしたアルバム『パンカラ』に収録された曲の元となっている。ここでもガッダーフィー大佐です。ティナリウェンにしろ、エイジアン・ダブ・ファウンデーションにしろ、そんな事知らないで聴いてきたけれど、今になってガッダーフィー大佐と繋がってくるんです」

後藤「それは面白い!」

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