サラーム海上
×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
海上
「もう一つはウクライナ出身のジプシーの血を引くユージン・ヒュッツという人が中心となってニューヨークで結成されたジプシーパンクバンド、ゴーゴル・ボルデロ。サマソニやフジロックにも出演していて、ユージンをあのマドンナがえらくお気に入りで、彼女の映画『ワンダーラスト』に主役として抜擢しています。音はジプシー・パンクで、プロデュースはロックの導師リック・ルービンです」
後藤
「リック・ルービンがプロデュースしちゃうと、もはやワールド音楽ではないですね」
海上
「フジロックやサマソニではほぼパンク扱いでしたから。ロックという共通言語が通じるおかげで、日本の若いパンクスまで彼らの音楽を聴き始めたのも良い面です。一方で音楽がどんどん均質化してしまう危険性もありますが」
トランスコンチネンタル・ハッスル
ゴーゴル・ボルデロ
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海上
「もう一つ、ロック系の音楽としてオススメは、僕のイスタンブールの友人であるババズーラの新作も。彼らはトルコの民謡やベリーダンス音楽を元にしたダブ・ロックなんですよ」
後藤
「これジャケットが良いですね。聴きたいです。トルコ民謡が気になっていたので」
海上
「ライブではジプシー系のパーカッショニストが一人、リズムのループとパーカッションが一人、そしてボーカリストは三味線に似た民族楽器サズをエレクトリック化して、それをかき鳴らしながら歌うんです。ベリーダンサーや女性歌手も参加しています」
後藤
「(ジャケ内写真を見ながら)おお、サズにピックアップが付いているんですね! どんな音がするのか聴いてみたいですね。この楽器をトルコに行って買って帰りたいくらいです!」
ババズーラ
※今年4月に日本盤が発売される予定。
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後藤
「これは良いですねえ! 民族的な要素がちゃんと入っているし。トルコは宗教的には?」
海上
「イスラーム教です。トルコは産油国を除けば中東のイスラーム教国の中で最も経済成長も進んでいる国です。農業も工業もEUにとって不可欠の国として成長している。何よりもすごいのは1923年のトルコ共和国建国時に政治と宗教を完全に分離したんです」
後藤
「今まで行った中東の国の中で特に面白かった場所はどこですか?」
海上
「トルコのイスタンブールです。もう十数回行ってますが、音楽が本当に充実してます。トルコは一旦イスラーム教を脇に追いやって新たに作られた国なんですよ。古い伝統は一旦捨てたという所は日本とも似ています。民謡とかも国が作り直しちゃったりして、日本と似たような過程は踏んでいるんだけど、今も伝統音楽が強く残っている。新しく作られた政治的な首都アンカラに対して、2000年前から続く国際都市イスタンブールの存在が強かったんでしょう。吟遊詩人やら、オスマン帝国の宮廷楽士やら、それからロックンローラーやら、そういうダメな輩の吹きだまりのような退廃的な都市文化が早くから形成された。東京で言う下北沢とか高円寺みたいな場所の音楽文化が生まれたんです。それは他の中東諸国にはない。他の中東諸国では宗教や伝統に縛られて、基本的に目上の人間の言う事を聞く社会が続いている。それに対して、トルコは伝統を排除して出来上がった国だったから、音楽にもそういう多重構造が生まれたんです。メジャーなものに対してマイナーなもの、ジャズや西洋クラシック、そしてインディーズのロック、ヒップホップ、テクノまでもが育った。そういう音楽家が新しい音だけでなく、民謡の要素を用いている。だからイスタンブールは本当に楽しいですよ。下北沢や高円寺に居るような感じ」
後藤
「へえ、気分的にそうなんだ。お酒は飲めるんですか?」
海上
「ええ、トルコではラクというリキュールが有名です。夜になると居酒屋で演歌を聴いて涙ぐんでるオヤジ達だらけですよ」
後藤
「ではエジプトはお酒は?」
海上
「基本的にダメですね。五つ星ホテルに入っているナイトクラブやディスコではもちろん飲めますが」
後藤
「同じ中東でも何から何まで違うんですね」
海上
「ええ、一番音楽に困ったのはイエメンです。音楽のコンサート自体がないんです」
後藤
「それは?」
海上
「カセット屋は町にあるんですけど、コンサートとか一切アナウンスされない」
後藤
「ではイエメンでは生演奏を聴けなかったんですか」
海上
「最初一週間は何も聴けなかったんですけど、日本大使館の知人や知りあった地域の首長を通じて、結婚式場や彼らのサロンに呼ばれて、そこで弦楽器ウードの生演奏を聴けました。首長のサロンに行くと、白い伝統衣装で頭に輪っかを付けたオヤジ達が、カートと呼ばれる噛みタバコをくちゃくちゃ噛みながら、ウードの生演奏を聴くという場面に遭遇しました。中世の花鳥風月そのままの世界ですよ」
後藤
「町にサブカルチャーとしての音楽が無い?」
海上
「イエメンではゼロです」
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