oid_logo

icon_mailmagazine
HOME » INTERVIEW » Turntable Films オフィシャルインタビュー(前編)

icon Turntable Films オフィシャルインタビュー(前編)

Turntable Films オフィシャルインタビュー(前編)

もはや国家とかエリアで音楽をわける時代は終わって、すべてはグローバル・ポップなんですけど。ただ、それぞれにローカルな訛りがあって、それが醸し出すアイデンティティこそが魅力だと世界中の多くの人々が思うようになった時代だから。実際、この作品には、日本独特の文化風土のシグネチャーが刻まれているアルバムだと思うので、いわゆる凡百のJ-POPよりもこれは胸を張って日本の音楽だっていう。

井上「お、メモっとこ。「日本の音楽だぞ、この野郎」って(笑)。」

(笑)では、タイトルについて教えてください。これはフランス語で、読み方はエルビエ?

井上「うん、エルビエ。」

植物園を表すHerbier、エルビエをタイトルに冠した理由を教えて下さい。

井上「街を歩いているときに、すごい歴史が感じられる16世紀くらいの押し花が売っていて。額に入っていたんです。すごくいいなと思って見ていて、これは何ていう名前かなと思っていたら、Herbierって書いてあったんですよ。小文字で書いてあったし、その字面がすごく奇麗に感じたんですよね。で、調べたら、植物図鑑、押し花とかいう意味で。そのとき、花とか植物にやたらと惹かれていたんですよ。パッと見たらシンプルだけど、近くで見れば複雑で、いろんな色があって、構造がそれぞれ違ったりして、そういうのが自分の作る音楽なり、好きな音楽に紐づいていったから。じゃあ、名前はこれにしようと。今回やろうとした音楽の世界にも繋がっているし。シンプルに見えるけど、近くで見たら複雑になっているっていう。」

アートワークを手掛けているJon Kokoは元々スウェーデンのマルメにいらした方らしいですけど、彼のイラストでアートワークを形にしようと思った動機と経緯を教えてください。

井上「経緯をまず言うと、インスタを見ていたら〈ジャグジャグウォー〉がM.C.エッシャーのずっと回っているやつ(実際に作ることが不可能な、延々と循環する構造物を描いた騙し絵)みたいなイラストをアップしていたんですよ。赤ちゃんから最後は遺灰になって、また赤ちゃんになって、みたいに人間の成長を循環する形で描いているもので。シュールでユニークで、すごく面白いなと思っていたら、それがJon Kokoの作品だったんです。彼の絵って、日本的な要素があるんですけど、外国の人なので外国の人が描く浮世絵というか、文化がすごい混ざっている絵がたくさんあって。僕はそれの逆パターンで、日本人でそういう音楽をやろうとしているところがある。それで、お願いしたんです。Jon Kokoさんの絵と自分の音楽が繋がる言葉をイメージ・ワードとして挙げて、作ってくださいっていう感じで。」

じゃあ、それぞれ今回のアルバムの推し曲3曲とそのポイントを教えてください。

井上「被って申し訳ないですけど、“Disegno”、“A Day of Vacation”、“Stein & Burg”です。

その心は、やはり新しいことをやって、その達成感があるから?

井上「そうです。成功したかどうかよりも、今聴いても面白い。」

同意です。じゃあ、谷君、お願いします。自分の曲は入れてくださいね、これはアルバムに不可欠な曲なので。

「そうですね(笑)。じゃあ、“Disegno”、“At the Coffee House”、“Summer Mountain”で。」

いいセレクトですね。アルバム最後の“Summer Mountain”もオーセンティックなポップ・ソングとして完成度が高い曲なので。ただ、井上くんが挙げてくれた3曲がアルバムの中核を成しているとして、それ以外の曲はいくつくらいの音楽的ディメンションに分かれているというイメージなんでしょうか? 

井上「“The Silence”は、当初は(岩本)岳士がプロデューサーしてたCLOUD CHAMBREに提供しようとしていた曲なので、まったく別なところから出てきた曲で。あとは、「流石にここまで行ったら、実験し過ぎているかも」っていう邪な気持ちが湧いてきて(笑)。もうちょっとポップにした方がいいんじゃないかっていうタームがあって。その3つっていう感じですね。でも、それをやったのは“Summer Mountain”くらいかもしれないですけど。「日本語の歌詞の曲がひとつもないな」と思って。でも、結局そこでも新しいことやろうって、半分切り捨ててるんですけど(笑)。」

写真

じゃあ、ボーナス・トラック扱いの3曲についても聞かせて下さい。少し意外だったのは、“Pale Moon Rag”と“Hollywood”。特に“Pale Moon Rag”はこれまでもタンテが得意としてきてた高速のシャッフルというか、スウィングするビートを持ったブルーグラス風の曲で。すごくいい曲ながら、アルバムから漏れたのも納得なんですけど。ただ、やはりこの辺りの曲は作っておきたかった?

井上「こういうビートの曲でライヴでやるのが一曲しかなかったから、もう一曲作ってライヴで繋ぎたかったんですよ。ちょっと違った方法論じゃないですけど、ウェスタン・スウィングをパンク、オルタナ・カントリー経由にしたアイデアでやったパターンに今回はして。この2曲が繋がったらライヴ的にいいなという発想ですね。遊びながらやった感じです。」

“Hollywood”は、がっつり8ビートで、途中からスネアの裏打ちのビート。乱暴に言えば〈スタックス〉的な。なおかつ、ギターがディストーションを思いきり踏んでる。こういう曲って今までありましたっけ?

井上「あそこまでやったのはなかったと思います。ああ、言われたら思い出しました。いろいろ凝った演奏をチョロチョロして、ワーッと歌って、またチョロチョロ弾くのが嫌やから、すんごいシンプルで、演奏しながら簡単に歌える曲がやりたかった(笑)。ほんで、シンプルな8ビートでリフ一発みたいな。そんな感じでした、そう言えば。」

banner_s
『Taxi Driver』Music Video / Gotch