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Turntable Films オフィシャルインタビュー(前編)

例えば、先行シングルにもなっている“A Day of Vacation”はいわゆるポップ・ソングの構成とは全然違いますよね。イントロのシンセのリフがあって、Aパート、Bパートがあって、リズム・ブレイクがあるところからのコーラスがあって。で、アウトロもまた別のパートだっていう。この構成はどういう風に組み立てていったんですか?

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井上「当初から三部構成にしたくて。ただ、違う曲がバラバラに繋がっているんじゃなくて、自然に繋がっているものをイメージしていたんです。一番初めにAの部分が出来たんですけど、Cの部分でもやりたいことがあって。で、このAとCを繋げるBって何かな?って。そういう感じで作っていました。3曲の違う曲を無理やり繋げているとも言えるんで、繋ぎ目だけ、どう行けば奇麗に繋がるかな、っていう感じでしたね。」

2020年に日本からリリースされた曲でこんな構成を持っている曲って1曲もないと思うんですけど。

井上「確かに。僕はすごく褒められると思ってたんですよね。よくやりましたね、って(笑)。」

僕の個人的な価値観からすると、ポップ・ソングを書く上でもっとも重要なポイントは、曲全体の尺と、構成だと思ってるんですね。で、この曲を聴いたら、あれ?あれ?あれ?みたいな(笑)。「こんな曲、誰も書いてへんやん!」みたいな驚きがありました。

井上「ありがとうございます(笑)、それを初めてのリアクションとしたいと思います。」

「でも、そんなに違和感はなくて。プログレっぽい感じじゃないですか。何分以内にこの3つの展開があって、みたいな。そういうのって普段から聴いてると、あっ、こうしたいんや、って慣れてくるから。ただ、パートごとに全然違う曲が入っているのはわかっていたので、それぞれのパートごとで自分なりのイメージを持ってやっていましたけど。全体の構成に対する驚きっていうのは、僕はあんまりなかったですね。でも確かに、バンドものであんまりそんなのはない気がするな。」

ないと思う。ただ、特に井上君の中ではプログレ的なものをやろうっていう意識はなかったわけでしょ?

井上「ないです、ないです。おもろいのを3つ、くっつけたろって思ってたくらいですね。しかも、バレへん感じで。」

でも逆に言うと、普通のポップ・ソングとまったく異質な構成だと、誰もがあまり気づかずに聴けるというのも、完成度の高さと受け止めるべき気もします。

井上「そう思いたいですけどね(笑)。奇麗に作り過ぎたと自画自賛するわけじゃないですけど。もっとバレるようにやったらよかったな、そんなら(笑)。」

じゃあ、“Disegno”の方がよりビートとベースラインを軸にしたパートがわりと続くので、ミニマル感があると思うんですけど。ただ、すごく印象的なリフが入りますよね。あのリフは6つで数えてるの?

井上「6です。なんで8でやらなあかんの? みたいな感じで。じゃあ6にしようと思いついて。でも、わかりやすい変拍子じゃなくて、大袈裟に言えば、微妙に時空がズレてるけど、そこに生きている人間はそれに気づいてない――そんな感じのことをやりたいと思っていました。その2曲は特に。」

この2曲に関して何か具体的なリファレンスはあったんですか? もしくは、出来上がった“Disegno”や“A Day of Vacation”が結果的に近くなったと感じる作品を挙げてもらうことは出来ますか?

井上「僕の中で“Disegno”はLCDサウンドシステムなんですよ。“A Day of Vacation”は恥ずかしげもなく言えばスフィアン・スティーヴンスです。ブルーノ・ペルナーダスとかもそうですけど。でも、わかりやすくチェンバー・ポップみたいなのを今やるのって、僕はダサいと思っていたので。わりとそういうのをやろうとしている人はたくさんいるけど、スフィアンほどは上手くいってない。ダーティ・プロジェクターズみたいにやりたくて、大体みんなが失敗するように、そこに勝負仕掛けに行くのって勝つ気がないと無理だと思うので。だから、スフィアンみたいにやれるとは1ミリも思ってないです。でも、ああいう複雑な万華鏡みたいな模様の動き方は参考にはしてますね。」

この“Disegno”っていうタイトルは、デザインのイタリア語ですよね。これは、曲の作り方も含めて、デザインっていうイメージもあったっていうこと?

井上「うん。配置を考えてる、みたいな(笑)。でも、それをそのままわかりやすくタイトルにするのもダサいなと思って、すぐ読めへんやつにしてやろうと思って。なんか気になりません? 普通に全部英語で、2曲目だけ何か書いてあったら。これ、なんて読むんやろう?って。だから、「俺、やりましたよ」感を隠すのと、ひねくれているのと(笑)。」

じゃあ、最終的に、谷君が書いた曲は――。

「自分が歌っている1曲だけです(“At the Coffee House”)。」

この曲はアルバムの中でももっともメロディと和声重視のオーセンティックなポップ・ソングに仕上がっていて、アルバム全体の中でも絶妙なスパイスになってると思うんですけど、最終的に谷君の曲が1曲だけになったっていうのはどういう経緯なんですか?

「この曲をTurntable Filmsでやったら面白そう、うまくハマりそうと思える曲が他にはあまり見当たらなかったんです。今年は自分のソロ・アルバム(KENT VALLEY名義の『MOMENTARY NOTE』)も出したんですけど、他に用意した曲は、結局そちらで使ったりして。あと、制作中に自分が交通事故で足を折って、入院とかしていて、アルバムの作業をしていたときにちょっと気分が削がれたというのもあって。だから、結果的にこの1曲に集中することになったって感じですかね。」

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『Taxi Driver』Music Video / Gotch