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NADA SURF マシュー・カーズ インタビュー

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(2016.03.15)

“USインディーの至宝"とも謳われるパワー・ポップ界の重鎮、ナダ・サーフ。いよいよ活動20年のキャリアを数えるこの2016年、彼らから待望のニュー・アルバムが届いた。約4年ぶりにして8作目となるオリジナル・アルバム、そのタイトルも『YOU KNOW WHO YOU ARE』だ。これまでギタリストとしてサポートを務めてきたダグ・ギラードを正式メンバーに迎えての今作は、キャリアの節目を飾る集大成としての力強さと、新生ナダ・サーフとしての揚々たる意気に溢れて実に清々しく、まさしく傑作と呼ぶにふさわしい。当レーベル・only in dreams設立のきっかけであり、モチベーションともなったナダ・サーフの新作リリースを言祝ぐべく、バンドのソングライターにしてフロントマンのマシュー・カーズ(Vo.& G.)にたっぷりと話を聞いた。

(インタビュー・文:本間夕子)



──本当に素晴らしいアルバムですね。「この音楽を聴きたかった!」と心から思いました。

マシュー・カーズありがとう! だったら最高にうれしいよ。

──この『YOU KNOW WHO YOU ARE』は実に4年ぶりの新作リリースとなるわけですが、昨年1月に一度、ご自身のFacebook上で“新作がほぼ完成した"と報告されていましたよね? そのニュースにファンは驚喜したのですが、そのまま完成には向かわずに、さらに大胆なブラッシュアップがなされたと伺いました。

マシューそうなんだよね。たしかにFacebookに“あとは歌詞を少し足して、歌入れをするだけ"と書いた通り、僕自身ももうすぐ完成だと思っていたんだよ、当時は。そう思ってバースーク・レコード(Barsuk Records/シアトルに本拠を置くインディーレーベル。ナダ・サーフは2002年から在籍)のジョシュ・ローゼンフェルドにも音源を送ったんだ。彼からの返事が会話だったかメールだったかは、もうあんまり覚えていないんだけど、そこで言われたことがすごく鮮明に印象に残っていてね。彼は「うん、いいアルバムだね。ファンもきっと喜んでくれると思うよ」と言ってくれた。ただ、そのあとにちょっと意味深な間を置いて「でも、君の人生が変わるアルバムではないね」って(笑)。つまり、もっといい作品ができるだろ? って彼は言っていたんだ。

──それを受けて、マシューさん自身も「たしかにそうだな」と?

マシューうん、思った。とても辛辣な言葉ではあったけど、きっとジョシュもすごく勇気が必要だったはずなんだ。それでもはっきりと本当のことを言ってくれた。思ったことを誠実に伝えてくれるというのはお互いの信頼関係の上でも重要なことだし、存在としてとても大事だよね。例えばなんだけど、僕自身、作りながら「これは最高傑作だ」と確信するときもあれば、「確信はできないけど、そうだったらいいな」と思うときもあるわけで。だからといって「そうだったらいいな」の場合が傑作じゃないとは限らないんだよ。ただ、客観的にわからないというだけ。そういうときにはっきり意見してもらえるのは、ありがたいことだよ。で、そこから新たに5曲作って、すでにできていたものからは2曲減らして、という感じで、ようやく完成に至ったんだ。

──とはいえ、ほぼ完成していた作品をよりよいものにするのは大変なことだと思うんです。すぐに方向性は見えたんですか。

マシューそうだな……今、質問されて考えてみたんだけど、完成したものをもう一回作り直す機会ってなかなかもらえるものじゃないよね。それって逆に有意義なことだなと思ったんだよ。音楽に限らず、人生においてのビッグなイベントだったり、何かをやり遂げたりしたあと、例えば1年後に振り返ってみたときに「ああ、こうすればよかったな」って後悔することも多々あるだろ? でも、それをその場で手直しさせてもらえるってすごくラッキーだなって。ほら、大人になった今でもときどき小学6年生ぐらいからやり直したいなって思うのと一緒で、それを音楽で実践することができたのは本当によかった。しかもイチから全部作り上げるのではなく、ほぼ完成しているものをよりよくするための作業だから、今あるものをもとにしながら「思い切ってこうしてみたらどうかな?」とかリスキーなことにもチャレンジできたり、より自由に作品に向かうことができたんじゃないかなって。

──楽しんで取り組んでいらしたんですね。

マシューそう、とても!

──今回の経験がこれからの創作に対する新たなヒントになったりするかもしれない?

マシューそうかもしれないね。ちょっと話は逸れるけど、カントリー・ミュージックの都といわれるナッシュビルでの音楽作りに対する考え方って、音楽は尊いものっていうのではなく、とにかく1日に何曲も何曲も作ったら、10曲中9曲はパッとしなくても1曲ぐらいは光るものができるんじゃないかっていうノリなんだよ(笑)。僕はむしろ1曲を丁寧に仕上げてよりよいものにするっていう作り方だったんだけど、年齢とともにどんどんナッシュビル・スタイルもいいなと思うようになってきて。考えに考えてやっと1曲作るよりも、とにかくアウトプットしていくほうが自然にいいものが生まれる気がしてね。

──へぇ! 面白いですね、それは。

マシューよく「僕は全然クリエイティヴじゃないし……」っていう人がいるけど、そういう人だって眠れば夢を見るし、夢ってそれ自体が奇妙でクリエイティヴなものだったりするじゃない? しかも夢を見ているその人自身が監督であり、役者であり、照明係であり、脚本家でもあるわけで(笑)。そう考えたら誰だってクリエイティヴな部分を持っていると思うんだよね。眠っている間でさえクリエイティヴでいられるんだから、音楽制作に関しても無意識のうちにいいものが出てくることだってあるかもしれないって。 

──1曲にのめり込むより、そうやって作るほうが客観的に作品を見られそうですね。

マシューそうなんだよね。常に客観的であることは大事だと思うし、客観的であることによって自分の中でちゃんと完結できると思うんだ。だからって僕がそうだというわけではないんだけどね。自分でそうだと言い切ってしまうのは、ちょっと偉そうな気がするし(笑)。ただ、それを理想として求めていくことは大事なことなんじゃないかなって思ってる。
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