logo
岩崎 愛『It's Me』インタビュー

image001
(2016.03.30)

2006年5月にリリースした1stミニ・アルバム『雨が上がったら』から10年。岩崎愛が、フル・アルバムとしては意外にもキャリア初となる『It's Me』を3月16日にリリースする。
日常に起きる“喜怒哀楽"を歌に綴り、人肌を感じるような温かさを纏ったメロディに乗せ、ふくよかで滑らかな歌声で紡がれる全12曲。今回は、そんな彼女の楽曲に、小谷美紗子、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)、福岡晃子(チャットモンチー)、あらきゆうこ、下村亮介(the chef cooks me)、U-zhaan、啼鵬、ファンファン(くるり)、神谷洵平(赤い靴)、masasucks(the HIATUS/FULLSCRATCH/J BAND/ RADIOTS)他、幅広いジャンルのミュージシャンが参加し色を添える。またMIXエンジニアには、イギリスの「The Park Studios」にて、アイスランドのシンガー・ソングライター、エミリアナ・トリーニらを手掛けるジェイミー・クリセイを迎え、その場で音楽が鳴っているかのような奥行きと臨場感あふれる仕上がりとなった。1stフル・アルバムに込めた想いを岩崎愛が語る。

(インタビュー・文:千葉 明代)

──待望の初の1stフル・アルバムが完成しました。フルで12曲というのは、意外にもキャリア初なんですね。

「そうなんです。この作品の前の『東京LIFE』もミニアルバムだったので、早くたくさん曲の入ったアルバムを作りたいと思っていて。自分的には、好きなアーティストのアルバムは曲が多ければ多いほど好きなので、完成して嬉しいです」

──2012年9月『東京LIFE』から、後藤(正文)さんの主宰する『only in dreams』レーベルに所属し、愛さんの音楽を取り巻く環境に変化があったと思うのですが、この4年間どんな思いで過ごしていましたか?

「もともとの性格は、例えば好きな食べ物をずっと食べ続けるような、変化を好まないタイプだったんですけれど、だいぶ変わった気がします。もし嫌だったとしても、やらなあかんときってあるじゃないですか? それでやってみたら、わりと楽しかったってこともあって。誰かが“美味しい"って言ったものを食べてみたら案外美味しかった、みたいな積み重ねで、嫌いだったものが好きになったり、誰かにアドバイスをもらってとりあえずやってみたら、なるほど!ってわかったり。それまでは自分の世界は狭かったけど、広がった気はしますね」

──性格に柔軟性が出てきた?

「そうですね。今は何でも“やってみましょう"って、新たな一歩を踏み出すことに抵抗がなくなって、むしろ楽しめるようになりました。新しい案を持ってきてくれる人がいたら、すごく嬉しいし、“いろいろ考えてくれたんや"って思えるようになりましたね」

──曲を作るモチベーションは? 喜怒哀楽のどの感情が曲になりやすいですか?

「喜怒哀楽で言ったら全部ですね。哀しいときや腹が立ったとき、“この想いは、曲にするしか捌け口がない"って。感情が極まったときにその思いを吐き出したくて音楽になっていきますね。なんでもないときでも曲になったりはしますけど、たいだい曲になるのは、“感情の極み"ですね」

──生きていたら誰しもが感じる“感情の極み"から生まれる歌だからこそ、リスナーはそこに自分を重ねることができると思います。

「自分の歌は感情の捌け口で、日常の喜怒哀楽を歌にしているけど、聴き手の方にもそこに思いを重ねて心揺らいでくれたらと思っています。そういう意味では、投げかけに近いです。聴いてくれる方が、自分の中で変換して音楽として自分に投影して聴いてくれたら嬉しいですね。みんなに伝わる言葉で書くとありきたりになったり嘘っぽくなるだろうし、あまりにもパーソナルなことばかり書くと届かないだろうし、詞を綴るときの言葉のチョイス、そのへんは難しいなって思っています」

──今回のアルバムの制作、レコーディングは、いつくらいから始まったんですか? 

「かなり前から出来ている曲もあって、ライブで何度も披露して出来上がっていた曲もあります。アルバムには、今の自分が出るような歌を揃えました」

──今回のアルバムは、ゲストも多数参加されていますが、どういった経緯でゲストの方々は参加されたのですか?

「“叶わないかもしれないけど、一緒にやってみたい人を言ってみて"とスタッフから提案されて。ダメもとで曲によって“この人にお願いしたい!この人とやってみたい"ってお願いしたら、ありがたいことにほぼ叶いました」

──愛さんの中で、“この曲はこの人とやったらこうなるかな"っていうイメージはあったんですか?

「“この作品のどこかでこの人の音が入っていたらいいな"とは思っていて、どの曲に誰に参加してもらったらいいかは、ディレクターさんやスタッフのみんなと相談して」

──先に配信されている「嘘」には、小谷美紗子さんが参加されています。昨年ライブもご一緒されています。小谷さんは愛さんにとって憧れのシンガー・ソングライターだったということですが、どういうイメージをお持ちだったんですか?

「小谷さんは、アルバムを聴いて生粋のシンガー・ソングライターっていうイメージがあって。前に新宿のイベントでたまたまライブをお見かけした時に、グランドピアノの前にスッと座って、“この曲をちゃんと歌えるまで、相当時間がかかったけど、最近歌えるようになってきた"と言って歌った曲がものすごい失恋ソングで、その場の空気が一変したんです。“ホントにすごいな"って驚いて。『嘘』は、スーパー失恋ソングなので、“弾き語りのほうがいいんじゃないか?"って思っていたんですけど、ディレクターさんや社長が“バンドでやろう"って言ってくれて。“一緒にやったらおもしろそうな人誰や?"って考えて、失恋ソング・・・・・・“小谷美紗子さんだ!"と。私は小谷さんとは面識はなかったんですけど、お願いしたら快く受けてくださって。レコーディングもめちゃ楽しくて夢のような時間でした」

──本当に胸に刺さる楽曲で、ひとりで聴いていると涙腺が崩壊しそうです(笑)。小谷さんのピアノ、そして愛さんと小谷さんの声の重なりが情感豊かでとにかく沁みます。歌の中の主人公の迷い、揺れが、ふたりの声の揺らぎに表れているようで。

「ありがとうございます。ホントは、もっと小谷さんに歌ってほしいくらいの気持ちだったんですけど、小谷さんに歌ってもらうなら絶対この部分っていうのは自分の中で決まっていました」

──聴いた人に、インパクト、爪痕を残す曲ですね。

「聴いた人の心に刺さってくれていたら嬉しいですね」

──収録曲についてお話を伺いたいのですが、1曲目は「knock knock」。始まりから愛さんの声がワッと耳に入ってきて、これから音楽へ向う決意表明のような想いを感じる1曲でした。

「“(自分には)何にもないわ"って思ったときに書いた曲ですね。あるのはギターと歌だけやなって思ったら、yeah!って思えて。何にもなくなったほうが、音楽に気持ちが向くっていうのはあるんですよね。歌える状態であれば、何があっても大丈夫って。2〜3年前にちょうど引っ越して、何もない部屋にギターだけ担いで行って出来た曲ですね」

──愛さんが参加されていた東北地方太平洋沖地震後に立ち上がったプロジェクト「HINATABOCCO」で出会ったというmasasucks(the HIATUS/FULLSCRATCH/J BAND/ RADIOTS)さんがギターで参加されています。

「masasucksさんに参加してもらいたいけど、どの曲に合うのかが自分でわからなくて。そしたら、社長が“『knock knock』じゃない"ってアドバイスをくれて。弾いてもらったら、すごく良くて曲が華やいだ感じになりました」

──2曲目は、「woman's Rib」。レコーディングメンバーは、キーボードにちゃんMARIさん(ゲスの極み乙女。)、ベースに福岡晃子さん(チャットモンチー)、ドラムにあらきゆうこさんという女性メンバーでレコーディングされています。

「これはもう女の人だけでプレイしたいなって決めてたんですよ。全員女性だけでやるのは初めてだったんですけど、念願叶ってホントに嬉しいです。自分が下手過ぎて、ブースで見えへんように泣きました。女性ミュージシャンは、迷いがない、潔いし。子宮でリズムをとってるのかなっていうような、流れるような気持ちのいいリズム隊でした」

──歌詞には現代を生きる女の子の逞しさとそんな人達へのアイロニーが含まれていて。

「今時のじゃないですけど、女の子のくだらなさと強さが歌いたくて。最初、仮タイトルがめちゃダサかったんですよ。『女は強し』っていう(笑)」

──演歌のタイトルみたい(笑)。

「もうちょっとカッコいいの付けようって、“『ウーマン・リヴ』とかいいんじゃない?"って言われて。“Women's Liberation"=女性解放運動っていうのを後で知って、そんな大それた感じじゃないって思って『woman's Rib』にしたんです。女の子の図太さを骨にかけて、駄洒落みたいにしたんですよね(笑)」

──3曲目は「最大級のラブソング」。ライブでも御馴染みの楽曲です。啼鵬さんのバンドネオンも効いています。

「最初、“アコーディオンが入ったらいいかも"って話したら、ディレクターのタイチ(中村)さんが、“バンドネオンがいいんじゃない? 素晴らしい人を知っているから紹介できる"って言ってくれて、啼鵬さんにお願いしました。バンドネオンが入ると一気にヨーロピアンになりますね」

──5曲目「涙のダンス」は、ストリングスが入っていて、徐々に熱を帯びていくアレンジが聴き手の熱も上げていくようですね。

「この曲を作ったときは、そんなに明るい気持ちの状態ではなく、でもこの曲を作ったことで解毒したじゃないですけど、吐き出した感じで気持ちよかったです」

──“泣きながら踊るしかない"と繰り返し歌うパートに強さと切なさを感じました。

「そのパートの演奏も面白くて、今回ストリングスを演奏してくれたみなさんにイメージを伝えるのに、私が楽譜を書けないので言葉で全部説明しました。“草原が広がるイメージ"とか“狂気が迫ってくるような"とか(笑)。それでも、みなさんに伝わって一発OKでした」
NEXT

INTERVIEW TOP
MAGAZINE TOP
[MENU]
NEWS
DISC
ARTIST
MAGAZINE
MAILING LIST
CONTACT
HOME

Copyright(C) Spectrum Management Co.,Ltd. All rights reserved.