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クリス・ウォラ インタビュー

バンド脱退後初の作品で、しかもこれまでにあなたが関わったどの作品とも全く音楽性が異なっていて、驚く人は多いと思うのですが、これがあなたのデフォルト的な表現なんですね。

「そう思うよ。こういう変遷の渦中にある時、様々な疑念や不安を抱えている時、人間ってしばしば過去を振り返るものだよね。幼少期だったり少年時代だったり、2年前、5年前、10年前、15年前、はたまた30年前、それぞれ異なる時期の自分に立ち返って、その時々の自分の体験を検証する。これは『Tape Loops』を完成させるまで気付かなかったことなんだけど、1995年にベンと出会って一緒にプレイし始めた頃、僕はすでにこの手の音楽を作っていたんだ。ナマ楽器を使ったポップな表現を追求する一方で、独りであれこれ実験していた。そういう意味で『Tape Loops』は、なんらかの主張とか宣言とか、新しい出発と言うよりも、一種の“回帰"なんだよ。故郷に帰るような気分だね。デス・キャブ〜を通じて僕の音楽を知った人たちにとっては、聴き慣れないかもしれないけど、僕には極めて身近で親しみがある故郷なんだ。ほんと、すごく自然に感じられたよ」

昨今のデジタル主体の音楽制作へのアンチテーゼみたいなところも、多少あったりするんでしょうか?

「う〜ん、デジタルなアプローチそのものと言うより、デジタルなアプローチの“ペース"に対するリアクション、なのかな? 今の音楽は、僕にはすごく威圧的に感じられて、聴き手に多くを要求する。しかも、わざと高圧的でパワフルに作られているようなところがある。でも僕は、強引に聴くことを要求するんじゃなくて、そっと招き入れてくれるような音楽に興味があった。アナログ・テープは、その“招く"という要素を備えていると思うんだ。テープであるがゆえに、あくまでフィジカルなプロセスであり、テープのループを作る作業はゆっくりと進行し、急がずに深く考えながら決断をしてゆく。忍耐力も必要だよね。忍耐力を育て、養うプロセスなんだ。だから願わくばリスナーのみんなにも、このアルバムを聴いて、そういう忍耐力を自分の中に見出してもらえたらうれしいね。もちろん、それを強制するつもりはさらさらないんだけど!」

起承転結の流れが曖昧で、非常に直線的に進行するこのような曲を構築する際は、当初からあなたの中に何らかの意図やゴールを描いて、取り組んでいるのでしょうか?それとも、成り行きに任せる自然発生的なプロセスなんですか?
Catfish and The Bottlemen

「かなり自然発生的だと言えるね。もちろん意図するところもあって、最終目標は、僕の中の一部分と、僕にとって大切なんだけど接点を保ち続けるのが困難な一部分と、うまく接点を保つ手助けになるような音楽に辿り着くーーというもの。だから、作りながら、何かがうまくいっている時はピンと来る。“これだ!"と実感できて、それを徹底的に追及するべきだと僕に知らせてくれる。それを美しく潤色し、育てるべきだと。と同時に、プロセスそのものは自然発生的でもあるよね。なにしろモノとして実在するテープのループを使うわけだから、コントロールできる面も多少あるけど、大方は、偶然の展開に任せるしかない。技術的に、いかに編集するかによって結果は変わる。テープをどんな風にくっつけるかによって。アナログ・テープという媒体そのものに、曲の構成は左右されるんだ。従ってある程度は運命任せで、コントロールすることを諦めなくちゃいけない。“こういうものを作るぞ"とどれだけ意図しても、最終的に生まれる音は当初の意図とは全く違うかもしれない。じゃあ、そこに意味があるのか、美しいのか、価値があるのか、僕は判断し、価値があると感じたら作業を続行して曲の形に仕上げる。どちらにせよ僕にとってはこの上なくパーソナルで、ある意味でスピリチャルなプロセスだったよ」

たった独りで音と向き合って作業をするわけですから、当然そうなりますよね。

「うんうん。独りだし、でも寂しくない。うまく言えないんだけど、僕は、自分自身に寄り添うことができた。今振り返ると、本当に楽しいレコーディングだった。非常に重要で、意味深い時間だったよ」

じゃあ、曲のタイトルにもそれぞれパーソナルな意味があるんでしょうね。

「ああ。極めてパーソナルだ。インストゥルメンタルな作品においては、言葉のひとつひとつが大きな意味を持つ。正確じゃなきゃいけないんだ」

ちなみに冒頭の曲『Kanta's Theme』の“Kanta"は、日本と関係があるんですか?

「うん!っていうか、このアルバムに収められた曲の多くは、ルーツを辿ると日本に行き着くんだよ。そもそも僕の父親はボーイング社に務めていて、全日空や日本航空と仕事をしていたから、しょっちゅう日本に出張して、毎回たくさんのお土産を持ち帰ってくれたんだ。日本のオモチャだったり、音楽だったり、絵や写真だったり、カルチャーに関わるものだったり。だから幼い頃からすごく日本に親しみを抱いて育った。それに学校にも日本人の交換留学生たちがいて、彼らに大きなインパクトを与えられたんだ。で、2012年に妻とプライベートな旅行で日本に行ったんだけど、本当に素晴らしい旅だったよ。これまでに訪れたことがない地方にも足を延ばしたし、神戸に住んでいる交換留学生のひとりと再会もしたんだけど、なんと対面するのは1981年以来でね(笑)。たまたま母がずっと連絡をとっていたんだよ。そして、彼と息子が関西をあちこち案内してくれたりもして、子供の頃の自分に立ち返るきっかけになった。中でも今回の日本旅行で最大の収穫と言えるのは、三鷹の森ジブリ美術館だね。長い間宮崎駿の作品のファンだったんだけど、あの美術館に溢れていた感動や希望、好奇心、或いは飽くなき美へのこだわりに僕は圧倒されてしまった。だって今どき、ヴィジュアル・アートに関わる施設で一切コンピューターを目にしないなんて、信じがたいことだよね。特に、アニメーションの歴史に関する展示の部屋が素晴らしくて、もう言葉では言い表せないくらいだよ。とにかくあまりにも感動した僕は、旅から帰ってきて宮崎作品を改めて見ていて、その時に興味を抱いたのが『となりのトトロ』に登場するカンタって男の子だったのさ。そんなに主要なキャラってわけでもないんだけど、僕に強く訴えかける存在で、照れ屋であがり性で、草壁家の姉妹とどう接していいのか分からなくて困惑しているんだけど、好意を抱いていて、いいことをしたいと願っていて、実際にトラブルが起きた時には助けにやってくる。そんなカンタの描き方や、あのストーリーにおける彼の立ち位置に僕は無性に共感して、あの曲の誕生につながったんだよ」


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