千葉真子
×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
後藤
「現役では15年間ご活躍されて、その間辞めずに続けてこれた理由は何ですか?」
千葉
「30歳で引退をしたんですけど、実は私は走るのってあんまり好きではないんですね」
後藤
「そうなんですか!?」
千葉
「ゆっくり走るのは楽しいんですけど、早く走るのって本当に苦しいし練習は大嫌い。走るのが大好きだっていう選手の方もいらっしゃいますけど、私はどちらかっていうと嫌いなタイプです。でも、頑張って続けていると友達が増えたり外国に行けたりして世界が広がるから、走ることを全体として見ると好きだなと思うんです。それから、何かひとつの目標に向って一生懸命頑張っていると、達成感を得られたり自分のことがちょっとだけ好きになれたり。自分が輝ける場所、一番自分に向いているなと思ったのがマラソンだったので、続けてこれたんです」
後藤
「引退を決断されたときって、どんな気持ちだったんですか? 僕は、18歳くらいから音楽をやってきていますけど、音楽は競技ではないので引退っていう線引きが具体的にはないと思うんです。バンドの解散とかはあると思うんですけど、楽器をやりたければずっと続けられるし、なくなってしまうことはないので。マラソンも競技にしなければ、どこでもできる良さがあるとか思いますけど。こんな僕ですら、高校野球が終わったときはかなりの喪失感だったので、プロスポーツ選手の方が、引退するときのメンタリティってどういうものなんだろうって思って」
千葉
「引退レースが終わって次の日の朝、もう走らなくてもいいんだって思うと、ものすごく心が穏やかになりました。羽が生えたような気分で、今までできなかったこと、いろいろやりたかったこともあったので、最初はすごく楽しかったです。だけどやっぱり、他に何か一生懸命になれるもの、何か頑張れることがないと楽しくないですね」
後藤
「今、マラソンの代わりになっているものって何ですか?」
千葉
「でも、やっぱりマラソン、スポーツ関係ですね。今までは、自分がベスト・スマイルになるために走ってきましたけど、今はみなさんをベスト・スマイルにすること支えることが自分の喜びになっています。そういうのがなかったら、ものすごく喪失感に包まれていると思いますけど、運良くそれができる仕事をさせてもらっているので」
後藤
「マラソンの解説とかもされていますもんね」
千葉
「でも全然思い通りにできなくて、何て自分は薄っぺらい人間なんだっていつも思います」
後藤
「そういうことを思うんですね」
千葉
「思いますよ。諸先輩方のコメントには深みがあるので、それを聞いて落ち込みます。後藤さんのバンドの音楽を聴かせてもらいました。私は、“明るく元気に頑張ろう"的な感じが多いんですけど、後藤さんは等身大の自分を表現されるというか、素直に正直に自分を描かれていて、聴いていて癒されるというか」
後藤
「ありがとうございます。僕は、高校以来補欠のメンタリティなんです。“楽しい人達ばかりじゃない"っていうような、斜めに見てしまうところがあるんですよ」
千葉
「それはそれで、正直なことを表現されていることが素晴らしいなって思ったんです。私だって悲しいことも辛いこともあって、誰だってそういう思いはあるとは思うんですけど。それを歌にするから、そんなに暗く感じないというか、悲しくないっていうか。私はそう感じました」
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