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サラーム海上 ×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

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海上「僕はトルコやモロッコにはしょっちゅう行っているのですが、エジプトは15年ぶりだった。それは今のエジプトには『シャバービー』しか残っていないんじゃないか思っていたから。でも、カイロに行ってびっくりしました。新しいライブハウスがどんどん開いていたんです。それは4〜5年前からの新しい動きでした。

伝統音楽の公演がある一方で、インディーズのロックバンドやヒップホップのDJのライブなんかもあったりして、カイロに着いた翌日に、その後の13日間の予定が音楽取材だけで埋まっちゃったんです! やっぱ来てみない事にはわからない!と、舞い上がりましたよ。でも、なぜこの数年間でそんなにライブハウスが増えて、インディーズ系のライブが見られるようになったかと言うと、それはムバラク前大統領がエジプトで敷いていた『アメとムチ』的な政策の『アメ』のほうだったんです。

一方でパンや食肉の値段が何倍にも高騰したり、どんどん人々の生活が行き詰まり、経済がダメになってきた。そういう事から気を反らせるために、文化事業にちょっとだけテコ入れしていたんです。

例えばヘビーメタルはイスラーム法的に禁止なんですけど、ディストーションを踏まなければOK(笑)、叫ばなければOKに変わった。エジプト初の女性のヘビーメタルバンドMascaraはアコースティックなセットならライブを行って良いと。僕はそうした『アメ』のほうだけ見て、わくわくしながら毎晩音楽取材をしていたのですが、その間にエジプト国民は『ムチ』のほうに対する怒りが沸点にまで達していたんです。それが1月25日にガツーンと爆発してしまった。1月28日に夜間外出禁止令が出てからは、毎晩ホテルの部屋に閉じ込められて、アルジャジーラやCNNを見るしかやることがなかった。でも、それは僕が新しい音楽を求める力よりも、エジプト人が社会の変革を求める力のほうが圧倒的に大きかったのだから仕方ない。逆に音楽と社会の変革はリンクしているということを改めて確認しました。

日本に戻って、2月11日のムバラク退陣と同じ時期にエジプトの若いインディーズのロックバンドの歌手が発表した『Sout El Horeya 自由の声』という歌がYOUTUBEに発表されたんですけど、そのビデオクリップがすばらしい出来なんです。革命の起こったタハリール広場を舞台にして、革命に参加した人達、老人にオヤジに、女性に子供達、一人一人に一節ずつその歌を歌わせていくんです。出てくる人みんなケガをしている。それに本当に革命の最中に撮られている。そして全員がなんとも言えない笑顔で写っている。"この国の全ての通りから、自由の声がわき上がる"という歌詞なんですけど、既に英語、スペイン語、そして日本語字幕付きのビデオもアップされています」

後藤「それは聴いてみたい!」

[動画を見る]

海上「僕はこの曲はジョン・レノンの『イマジン』の2011年版になるんじゃないかと思うんです。エジプト方言のアラビア語で歌われているから、アラブ諸国20数ヵ国、3億人の間で歌詞の意味が理解される。3億人がこの曲とエジプトの革命を手本にする可能性があるんです。それはジョン・レノンやボブ・マーリーが英語で歌ったおかげで全英語圏に広まったのと同じ意味があると思うんです。
それと反対に第一線で活躍してきた歌手達はムバラク前大統領を賛美するミュージック・ビデオを作っていたんです。まあ本人の意志と関係なく利用されただけなのかもしれませんけれど。それを知って思ったのは、僕が最近の『シャバービー』に興味をあまり持てなかったのは、体制に与した音楽、体制に利用された音楽だったからかも」

後藤「政府によって何かしらのコントロールがされていたと?」

海上「全ての人気歌手達が旧体制側だったとは言わないですよ。でも作られた音楽というのはなんとなく感じ取れるじゃないですか?」

後藤「そうですね」

海上「でも逆に、それはエジプトまで行ってみて初めてわかった。日本にいてインターネットを見ているだけではそこまではわからなかった、見えなかった」

後藤「わかります。『NOW ARABIA』は"NOW HIT USA"みたいな感じなんですね」

海上「そうです。その中にももちろんイイ音楽はあります。でも僕はもっと等身大の自分の思いをしっかり持って自分の音楽を演奏する音楽家のほうが好きなんです。先進国で『インディーズ』と呼ばれるような音楽が」

後藤「アラブの音楽や文化は特に今になって気になりますよ。時代的なものかもしれませんが」

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