いきなり本題とは違うアーティストのMVですが、まずはこれを観てみてください。
Wheatusというバンドのパワー・ポップ/ミクスチャーの名曲「Teenage Dirtbag」です(注1)。ワン・ダイレクションもカヴァーしていた曲なので知ってる人も多いかも知れません。
ヘヴィメタ好きで学校でも冴えない存在の高校生男子が、ある女の子に恋したお話。恋い焦がれてはいるものの、彼女は学園のアイドルだしカマロを乗り回すような金持ちの彼氏もいるし、自分みたいなクズなんかその存在すら知らないだろうし振り向いてもらえるなんてあり得ないよな…と一人寂しく参加していたプロムでのこと。なんと彼女が自分のところに歩みよってきてこう言いました。「アイアン・メイデンのチケットが2枚あるから今度の金曜に一緒に行かない? わたしも…貴方と同じような人間(クズ)なの」…という夢のようなストーリー。最高です。
「プロム」ーー上のPVでも登場するこのイベント、検索すると「プロムナード(舞踏会)の略称で、アメリカやカナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティのこと」とあります。デコレーションされた体育館などで行われ、バンドやDJが参加し音楽で盛り上げ、投票でベストカップルを決めたりもしてるようです。日本人にはいまひとつ馴染みがないこのイベントですが、アメリカのティーンエイジャーを描いた映画でも度々そのシーンが登場してきているので、そういった映画を通してプロムの様子を垣間みることが出来ます。『プリティ・イン・ピンク』や『恋しくて』といった80年代のジョン・ヒューズ監督作品(いま40代の人たちは彼の映画作品を通してアメリカの学園文化を知り、憧れ(もしくは嫌悪)を募らせてきたと思います)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『シーズ・オール・ザット』、『25年目のキス』、新しめなところだとオルタナ世代を代表するソフィア・コッポラが監督した『ヴィージン・スーサイズ』等々数多くあって、最近だと『Glee』のシリーズでも何度か登場していました。
正装でばっちりキメて、お目当てのあの子を誘って意気揚々と繰り出すパーティであるというところからはもちろん、上記の映画作品群、そして例えば『キャリー』(注2)の主人公の女の子の、プロムの舞台で恥をかかされて幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされたその衝撃の勢いで、超能力で周りの人たちを次々と惨殺する…というその怒りの度合い(?)からも、アメリカのティーンエイジャーにとってプロムの存在がどれほど大きいかは、ひしひしと伝わってきます。
そのプロムを描いてきた作品の多くは、一見華やかにも見える学園生活や青春群像を描いてきたと同時に、スクール・カーストと言われる学校内の階級制度をもあぶり出してきました。その学園内ヒエラルキーを簡単に説明すると…
〈第1階層〉ジョックス、プリンセス
(男子は主にアメフトやバスケ、ホッケー部等で活躍して名を挙げているスター、女子は金持ちの娘でチアリーダーをやってるようなタイプ)
〈第2階層〉プレップス(名門大学を目指すような優等生)
〈第3階層〉バッドボーイ、フローター
(不良や一匹狼的存在。実は隠れた才能や容姿体力頭脳を持ってること多し)
〈第4階層〉ワナビー、プリーザー
(勝ち組の取り巻き。第1階層におべっかを使いつつ、ギークたちを蔑む)
〈第5階層〉ブレイン(ガリ勉)
〈第6階層〉ギーク、フリークス
(ナードも同義。音楽など自分の趣味に入れあげてしまって変わり者扱いされている子たち。オタク)
…こんな感じのようです(注3)。WheatusのMVでいえば、主人公がギーク、女の子がクイーンでその彼氏がジョックスといった具合です。
本稿の主人公、スカイラー・スペンスは自身のデビュー・アルバムのタイトルを『プロム・キング』と名付けました。プロム・キングとは、プロムの夜に人気投票で選ばれる、いわばミスター○○高校のような存在のことです。だいたいは上に書いた第1階層のジョックスがその名誉を手に入れることが多いようです。
この『プロム・キング』、まさにプロムの夜にかけたらハマること間違いなしのダンス・アルバムです。ゆったりめのBPMのディスコ・ビートを中心に、グルーヴィなファンクやガラージュ、ニューウェーヴや80年代ポップの要素もふんだんに取り入れたパーティ・レコード。もし自分がDJをやっていたら、毎回DJバッグに必ず忍ばせておきたくなるような一枚です。
まずはアルバムを代表するような2曲を。
この曲は去年の個人的ベスト・トラックでした。
みんなでサビのコーラスで「hoooo-!!!」と盛り上がったら楽しそうな曲です。
ディスコ、ファンク、ブギの魅力を詰め込んだようなダンス・チューンと並んで、80年代のきらびやかでロマンティックなムードに包まれたポップ・ソングも何曲か収められています。
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