この曲などはロマンティック・ポップの王様プリファブ・スプラウトの遺伝子を受け継いだような曲です。MVも上2つに較べてしっとりめの仕上がり。
(ロマンティックという意味で言えば、スカイラー・スペンスという名前も、ウディ・アレン映画の最高傑作のひとつ『世界中がアイ・ラヴ・ユー』の登場人物から取られていて、しかもドリュー・バルモアがエドワード・ノートンとめでたく結婚した後の名前というロマンティックさ…!というところにもかなりグッときます。以前はSaint Pepsiという名前で活動していましたが、改名宣言した時のトレイラーにも映像がふんだんに使用されていました)。
スカイラー・スペンスことライアン・デロバティスは、アーティスト写真やインタヴューを見る限り、プロム・キングの栄冠に輝くスクール・カースト第1階層にいるようなタイプではなかったようにも見えますが(失礼)、このインタヴュー から察すると、プレップス的存在だったのかも知れません。育ち良さそうだし。ジョン・キューザック(注4)にもちょっと雰囲気似てます。
一方で、自身もおそらく相当な音楽オタクであり(それはバンドキャンプなどで聴くことが出来る、サンプリングネタを多く含んだ膨大な作品群からも感じ取れる)、ギークの気持ちもよくわかる優等生…的な立場だったのではないかなと想像します。自分がこのアルバムの音に一番惹かれるポイント、それは、キラキラしたダンス・ミュージックでありながら、どこか可笑しくて情けなくて、ナードやギークたちにも寄り添うような優しさも持っているところなのですが、その理由はそんな彼の青春時代に依るところも大きいのではないかとも思います。先に挙げた2曲のMVの登場人物もそんなナード感とロマンスが満載だし。
学校生活の楽しさや華やかさ、煌めきと同時に、その裏側に潜んでいる苦い思い出や暗黒歴史もしっかりと掬い取っている音楽。彼の音にある切ない響きからはそんなことも感じます。と同時に、学校生活から卒業してしまう寂しさと、新しい生活への希望や期待や興奮や不安なども謳っているように思えます。大人になることも悪くないよ…と新しい扉を目の前に開いてあげているような。ロックやポップ・ミュージックとはそもそも学校では教えてもらえなかった新しい何かを見せてくれるものではなかったか…ということも思い出したりもして(注5)。
この原稿を書きながら、まもなく活動休止するthe telephonesのことも少し思い出しました。石毛くんがこのアルバムを気に入っているというところもありますが、彼らの音もまた、パーティやライヴが終わってしまったあとの切なさや寂しさを知っている音楽だったとも思うからです。楽しい時間はいつか必ず終わってしまう。だからこそいまここにいる時間をとことん楽しんで踊り尽くそう…甲高い「Disco--!!!」の叫びはその合図の言葉でした。ぽろぽろと涙を流しながら、でもにこにこ笑いながら踊ってる…そんな子たちの姿が浮かんでくるような音楽でした。彼ら自身もどこか可笑しくてナード感もある子たちだったし。海外の音楽とのリンクという扉も開けてくれていたし。
「Affairs」のMVでも日本の昔のCM映像が使用されていたり、Saint Pepsi時代の代表先的な音源『HIT VIBES』(フリーダウンロード出来ます)でも山下達郎をサンプリングしていたり、先に挙げたインタヴューによると菊池桃子がやっていたラ・ムーにも大きな影響を受けていたり、音楽ブログ『GORILLA VS. BEAR』にポストされていた影響を受けた/好きな曲の中で、マザー・グースという山下達郎が過去にプロデュースした女性グループの曲も挙げていたりして、日本のポップ・ミュージックにもかなり造詣が深いスカイラー・スペンス。その音が馴染みやすい音になっているのはそういった部分も大きいのかも知れません。
tofubeatsがリミックスを手がけていたりして、Sugar’s Campaignとか最近の所謂シティ・ポップ(この言葉そろそろ死語になりそうな気もしますが)に括られているアーティストが好きな人には確実に響くでしょうし、3曲目のタイトル・トラックのイントロなんてサカナクションを思い出すし(途中で「インナーワールド」のカッティング・ギターをサンプリングしたような音も出てくる)、そういったキーワードに引っ掛かった人たちにも聴いてみてもらいたいと思います。…というか、個人的に今年のベスト・アルバム最有力候補と思ってるくらい素晴らしいアルバムなので、みんな絶対聴いて欲しいと願っています。是非。
(注1:ちなみにこのWheatusの1stは名盤なので興味あればこちらも是非)
(注2:一昨年公開されたリメイク版の『キャリー』はクロエ・モレッツの可愛さを観るだけでも価値はありますが、ホラー映画としてのクオリティはオリジナル版のが断然上なので、これから観る人にはオリジナルをおすすめします)
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