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NADA SURF マシュー・カーズ インタビュー

──そうして完成したアルバム『YOU KNOW WHO YOU ARE』はマシューさんにとってどんな作品となりましたか。

マシューすごく満足してるよ。……って自分で言っちゃっていいのかな?(笑) でもホント「ここはどうかな?」と思うような箇所がどこにもないし、まったくもって迷いがない。あと、とても幅広い作品になってると思うんだよね。それこそバンドの歴史におけるその時代その時代のサウンドが反映されたような曲もあれば、まったく新たなものも入ったアルバムになってるんじゃないかな。

──今回からサポート・ギタリストだったダグ・ギラードさんが正式加入されてのレコーディングだったんですよね。それもバンドに新たな風をも起こす大きな要因となったと思うのですが。

マシューもちろん! ダグはバンドで唯一のジャズ的センスの持ち主なんだ。といっても彼がジャズを演奏してるという意味ではないよ。即興的というのかな、頭の中で思いついた音楽的なイメージを即座に表現できるんだよね。僕や他のメンバーはアイデアがあったとしても指遣いから考えなきゃいけなくて、そうこうしてるうちに、せっかく得たインスピレーションも忘れちゃったりするんだ(笑)。でもダグは思いついた瞬間に演奏できるから、すごくフレッシュで。そういう人がいると「このブリッジはいらないね」みたいな判断も、その場でより早く見えてくるんだよ。

──特にダグさんの存在が光った曲ってありますか。

マシュー「GOLD SOUNDS」だね(←即答)。これはとてもインプロビゼーション的かつトランス的な曲で。実はドラムのアイラ(・エリオット)には、なるべく何もしないようにって指示を出していたんだよ。彼は素晴らしいドラマーなんだけど、この曲に関してはあえてそう伝えた。アイラは「何もしなくて、どうやってこの曲に貢献したらいいんだ?」って、すごく抵抗を感じていたらしいけどね。でも、そう思うことで迷いが生じて、それだけ曲に緊迫感が走るんだよね。だから何もしないこと自体が曲に対する貢献になるってわけ。逆にダグはどうやって弾いているのかまったくわからないくらい、すごくカラフルで自由な演奏をしてくれて、結果、リズム的にはクラウト・ロックっぽいけど、ハーモニー的な部分はウエストコーストっぽいというか、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング的な雰囲気があって、その融合が面白い曲になったと思う。

──ドリーミーな聴き心地が気持ちよかったです。

マシューうれしいよ。僕にとってもたぶん一番好きな曲だな、これは。もちろん他の曲も大好きだけど。 image001


──歌詞についても質問させてください。ナダ・サーフの作品はメロディ・ラインの美しさやアンサンブルの緻密さ、パワーポップ・サウンドの心地よさに定評がありますが、歌詞の世界観にも心揺さぶられるものがあると常々感じていたのですが、今回はいつにも増して言葉のセンスが素晴らしくて。

マシューここ最近の2作くらいかな、新しいアプローチを試みているんだよね。歌詞が書き上がったら、それをキッチンのテーブルに並べてジーッと眺めてみるっていう。最初から最後まで何度も何度もじっくり見直して、これはちょっと違うかなと感じた歌詞は片っ端から削除していく。そうやってみて気づいたのは、「これは名作だ!」とか「超カッコいい!」って思いながら書いた歌詞ほど削除されちゃうってこと(笑)。制作中に自信過剰になるのは危険な兆候だなってわかったよ。冷静になってみると、なんてバカなことを書いたんだろうって思ってしまう。例えるならマッサージみたいな作業かな。体の中の凝っている箇所をほぐしたり、筋を伸ばしたりする感覚でおかしな歌詞を省いていって、最終的に整えるというね。

──面白いな。先ほどの曲作りの仕方に通じるものがある気がします。今回、特に感じたのは、自分というものの生き方、あり方を問うような、聴き手の内面に訴えかけてくる言葉が多く散りばめられているなということだったのですが、アルバム1枚を通じて何か歌詞として表現したいテーマなどはあったのでしょうか。

マシューダイレクトには書いていないかもしれないけど、わりと触れているのは“直感を信じること"かな。自分と自分の直感との関係性ついてのことなんだけど。最近、それがちょっと変な感じで、何かを決断しなければいけないのに、直感では、はっきりわからないことが多いんだよ。2つの相反する直感が浮かんできてしまったりとか。「直感を信じろ」っていうタイプの人はよく「とにかくやればいいんだよ」とか「自分の思った通りにやってみろ」って言うけど、それが何だかわからないときだってあるよね。そういう場合はどうしたらいいんだろう? っていう想いがあって、歌詞の中でそうした葛藤に触れていたりもするんだ。『YOU KNOW WHO YOU ARE』っていうアルバムのタイトルもそう。自分が誰なのか、自分はどうしたいのか、どうしてこう感じるのか……もし、それがわからないときは、ちょっと落ち着いて、充分に睡眠を取って、おいしいものを食べて、そのへんを散歩したりして。そうすれば答えが見えてくるかもしれないよっていう。このアルバムにテーマがあるとしたら、そんな感じかな。

──マシューさん自身も常にそういったことを自問自答されているんです?

マシューそうだね、常に考えてる。たぶん自分の中で、こうありたいと思っている自分と現状の自分との間に距離があって、その距離を感じるからこそ常に考えているんだろうね。さっきも言ったみたいに自分の中できちんと完結できていたら、こんなことは考えなくていいんだろうけど。やっぱりまだまだ完結できてないんだよ。だから考えちゃうんだね。

──もうひとつ思ったのが、歌詞の中の“僕"と“きみ"、実は両方ともひとりの自分のこと、つまりどちらもマシューさん自身だったりするんじゃないかなって。“僕"という主観的な内なる視点と、“きみ"という俯瞰的な視点、ふたつの視点で心の中のことや身の回りの出来事を見つめているように感じられたりもしたのですが。

マシューたしかに、そういうふうにも捉えられるかもしれない。全世界的に共通の考え方ってあると思うんだよ自分の中にある要素で他の人にも共感できること……自分の中のちょっとおかしな部分が、まったく一緒ではなくても、どこかしら他の人とかぶっていたりとかね。ただ、“僕"と“きみ"が実は同じ自分なんじゃないかっていうことに関してはしっかりと考えていたわけじゃないから、今こうやって聞かれたのをきっかけに、もうちょっと考えてみることにするよ。答えは次回、お会いしたときでいい?(笑)

──はい、楽しみにしています。ちなみに今回、マシューさん的に「これはいいものが書けた!」と特に手応えを感じた歌詞はありますか。1行でも1語でも構わないのですが。

マシューそれって本当は自分の中でこっそり思うべきことなんだけど……(笑)。

──すみません(笑)。

マシュー「FRIEND HOSPITAL」かな。友達にカメラマンの女性がいて、彼女とはプラトニックな関係なんだけど、とても大事な存在なんだ、お互いに。彼女はロサンゼルス、僕はニューヨークに住んでいて、例えばどちらかが落ち込んでいるときに「ちょっと“friend hospital(友達病院)"してくれない?」って相手の家を訪れて、ご飯を作ってもらったり、話を聞いてもらったりするっていう。そうやって相手の面倒をみ合うことを僕たちは“friend hospital"と読んでいるんだ。これは僕たちが作った造語なんだけど。

──そうだったんですね。普通の感性ではなかなか出てこないような、すごい言葉だなと思ってたんです、“friend hospital"って。

マシュー彼女はそういった造語を他にも書き留めていて、この曲の歌詞の“wild sadness new weakness"もそのひとつ。だから厳密にはこれは僕が書いた歌詞ではなく、ふたりで話していたことを彼女が書き留めていたものってことになるわけ。それはさておき、この同じブロックの最初の3行、“so much better that we're not together / 'cause i will not lose you / or be the blues to you(僕ら、一緒じゃない方が、ずっといい / だって、きみを失うことがないから / あるいはきみを失って憂鬱になることも)"の歌詞がまさしく僕たちの関係を物語っている気がしてるんだよ。きっと、ふたりがロマンチックな関係になってしまうと、この状態は壊れてしまうんだ。それは異性であっても同性であってもそうだと思うんだけど、もちろん友達だって喧嘩はするよ? でもロマンチックな感情が入っていると、よりいろんな問題が生じやすくなるものだよね。ここに書いてある通り、大切な相手を失いたくないから、この関係でいられて本当によかったって思うんだ。

──ある意味、ロマンチックな関係以上に特別な存在ですね。

マシュー逆に「Animal」の“'cause i need you like / a string needs a kite / to get to the sky(だって僕にはきみが必要 / 糸には凧が必要なように / そうじゃないと、空に届かない)"って3行は逆にちょっとロマンチックなことを書きたくて、書いてみた歌詞なんだよ。本来なら人間も独立していて、誰を必要とすることなくひとりの大人として生きていくべきなんだけど、本当に必要かどうかは別として、愛というものはやっぱり大事だなって思ったりもするから。ま、凧は糸がなくたって、空に舞い上がることはできるんだけど、それは置いておくとして(笑)。

──ところで、バンドとしてのキャリアが今年で20年となりますが、具体的に今、どんな心境でいらっしゃいますか。

マシュー年を取るとともに心に平和が宿るんだなって……そんなの誰も教えてくれなかったけど(笑)、実際そうなんだなと感じているよ。実はこれ、このアルバムのサブ・テーマでもあるんだけど、僕は人間ってこの恐ろしい世界に生きている動物だと思っていて。僕らは動物的な本能でこの世の中が危険だということを察知しているわけだけど、でも、ここまで生きてきちゃうと、そうでもないのかなって思えるようにもなってくるんだ。例えばミュージシャンをはじめ、クリエイティヴな人間っていうのは、何か素晴らしい作品ができると「これはもう二度と作れないかもしれない」って焦りを持つものなんだけど、今ではもうそうした焦りは僕にはなくて、ただ作品を作ること、それ自体が自分のやることだと受け止められるようになってきてる。その作品が上手くできているのか、全然そうでないのかは別として、自分は今後もそうやり続けていくだけなんだって、そういう安定感が心にあるんだよね。すごく安らかな気分だ。だから今作の中でも、そういうふうに言ってる曲はあるんじゃないかな。

──そうした境地にたどり着いた今、この傑作と呼ぶにふさわしいアルバムが生まれたことにも大きな意味を感じます。では最後にもうひとつ。“USインディーの至宝"と呼び慕われているナダ・サーフですが、これからも軸はインディーに置いて活動を続けていかれるのでしょうか。

マシューたしかにインディーでずっとやってきてるけど、別にメジャーを否定してるわけではないんだ。初期にはメジャーに在籍していたこともあるし、大好きな友達もいるし、もしも僕が普通に仕事をするんだったらメジャー・レーベルのA&Rもやってみたかったことのひとつでもあるしね。ただ、どうしても運営側とアーティスト側とがビジネスの関係になるから、その中での自分たちの立ち位置がどこなのか見えなくなってしまったんだ。足元がグラグラ揺れているような感じがして、これはちょっと危険だなって。そういう感覚を懐かしいとはもう思わないしね(笑)。それに今のレーベルで一緒に仕事をしている人たちがみんな大好きだし、お互いに理解し合えている。音楽業界ってテニスに例えるとしっくりくるんだけど、要は相手次第なんだよ。相手がちゃんとボールを返してくれないとゲームが続かない。もちろん自分もそうで、いきなりワイルド・ショットを打ってしまうと、どうにもならないからね。そうなるとアルバムのリリースすらもできない状態になってしまうじゃない? 僕らはこのインディー界でテニスをし続けたいなと思ってる。ファンも含めた、たくさんの大切な相手とね。 

──今後も変わらずそうあり続けてください。そしてまた素晴らしい音楽が届けられることを心待ちにしています。

マシューThank you very much! アリガト。

──来日公演もぜひ! 

マシュー了解(笑)。そうできるといいね。


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