logo
DJ保坂 壮彦 が選ぶ2013年 ベストアルバム

1. ランダム・アクセス・メモリーズ─ダフト・パンク

2. 超越的漫画─曽我部恵一

3. LIVE!─奇妙礼太郎

4. 森は生きている─森は生きている

5. 予襲復讐─マキシマム ザ ホルモン

6. OUT─YOUR SONG IS GOOD

7. パラコズム─ウォッシュト・アウト

8. ザ・レコーディング 〜ASIAN KUNG-FU GENERATION〜 at NHK CR-509 Studio─ASIAN KUNG-FU GENERATION

9. rainbow─asobius

10. Exai─オウテカ


1. ダフト・パンク / ランダム・アクセス・メモリーズ
 2013年を振り返るにあたって決して外すことの出来ない、世界規模で成功を遂げたアルバム。リリース当初の衝撃度があまりにも強かったので、聴き続けているうちに色褪せてしまうかもなぁと思っていましたが、これが全く色褪せない。聴けば聴くほど味が出る。彼等の作品をアルバム単位でここまで聴き倒したのは初めてです。今更あれやこれや語るほどもないでしょう。まあ、強いて言うならば、70年代にあったファンクの鳴りと響きの有効性を、2013年に提示した実験的作品であり、それが、結果的に、時空を超えて、大衆に求められることになったということでしょうか。単なるダンス・ミュージックではない、ポップ・ミュージックとして輝く金字塔として生まれ落ちた、必然のアルバムということです。はい、これ以上、言うこと無し!最高!

2. 曽我部恵一 / 超越的漫画
 このアルバムは、“何処かにいる誰かに向けて”として創ったアルバムではないのです。かといって、“自分自身に向けて”とかそういうものでもないのです。ただただ、唄いたいから唄ってみたという楽曲をコンパイルしたアルバムです。私小説的なものとでも言えばいいのかも知れませんが、そこにこそ万人が共感する普遍性が潜んでいるんだという逆説的なことを証明してくれたアルバムですね。「バカばっかり」なんて、ただひたすら、唾を吐いているだけなのに、ぐっとくる。いつの時代も、いつになっても、音楽というものを形式的な捉え方でカテゴライズしてしまいますが、そんなの無視してしまえば、これは、パンクですよ。2013年に生まれた、パンク・ロック・アルバムです。さらに、後にリリースされたシングル「汚染水」も最高。シンガーソングライターでありながら、天賦のビート・トラック・メイカーであることをアルバムでもシングルでも証明してくれましたね。素晴らしいです。

3. 奇妙礼太郎 / LIVE!
 DVD付き作品ではありますが、音源だけでも充分イケてる最高のライブ・アルバム。様々な形で作品をリリースし、ライブをこなしている彼ではありますが、やはり、トラベルスイング楽団を引き連れてのビッグバンドでの客演こそが真骨頂であるわけです。どんな音楽が好きな人でも、彼のライブを目の当たりにしたら、理屈抜きで、“音楽って楽しい!”っていう興奮を歓喜させられるという事実。それは、“音楽とはエンターテインメントなのである!”と、彼が全身全霊を振り絞って示しているからなのであります。そうそう。今後、音楽は、パッケージや配信以外でも、様々な形態によって、ひとつのコンテンツとして世に広まっていくでしょう。その中で、ライブというものの持つ意義と意味。音楽に付随するエンターテインメントというものの重要性。そこに、集中的にフォーカスされて続いて行くと思います。それを2013年に、ひしと体感させてもらったのがこの作品であります。

4. 森は生きている / 森は生きている
 とても知的で、かつ、緻密で、ましてや、時代錯誤してしまうような懐かしみも感じさせられつつも、ちゃんと“今”の音として鳴っているところが素晴らしい。そう、最近の新人邦楽アーティストに顕著なのは、良くも悪くも、ただただ、好きなことをやってみたらこうなった、という。そんなあたかも簡略的な姿勢で音を鳴らしている人達が増えた気がします。結果、そんな純粋性が功を奏し、未だかつて無い光を放つ音楽が増えたのは確かで。彼等もそんなアーティストであるのです。時代がどうだとか関係無く、本当に好きな本物の音楽を演ってみたらこうなったという顛末で。こんなにも健全で、素晴らしい音楽の可能性を開陳することが出来たっていうことです。まあ、彼等は、他の新人アーティストよりも抜きん出た音楽経験値の土壌がありすぎて、深すぎるくらい深いところから独自性を産み出している所以であるからして。希有な存在ですよね。そこがまた素晴らしいところなのですよね。

5. マキシマム ザ ホルモン / 予襲復讐
 凄く売れたみたいですね。レンタル禁止、配信禁止というリリース形態で。採算度外視でしょうに。でもそれが彼等の音楽をちゃんと伝播させるのには真っ当なやり方だったと思います。とにもかくにも音楽に詰め込まれた情報量は半端ない。付属のブックレットだって、読み倒すのにアルバムを通して聴く以上の時間を要するし。ていうか、昔から彼等はいつでもそうだったけど、ここまでやらなきゃ伝わらないという決死の意志の塊が極限までにアルバム全編に込められていて、激しく優しく愛おしい作品になっているのです。だって、こんなにも激しい轟音が鳴り響いているのに、何故か泣けるし、清々しさも感じ取ってしまうのですよ。どう聴いても、こってり満載なはずなのに、です。不思議です。いや、キッズだろうがおじさんだろうがおばさんだろうが関係無く、いくつになっても未だに男子女子な人間ならば、そう感じるんじゃないでしょうかね。うん。そう思います。

6. YOUR SONG IS GOOD / OUT
 ユアソンってこういうバンドだったよねって。インストで勝負すべきバンドだったよねって。ずっと思い続けていて。久しぶりの新作が、これで。やっぱり、聴いて納得いたしました。とてつもない、傑作アルバムです。「奇妙礼太郎 / LIVE!」のコメントにてライブのことを書きましたが、この作品はライブ・アルバムではないけれど、アルバム全編がライブしています。生き生きしています。そして、時として哀愁も漂うしね。それがまたいい味を出してるんですよね。結果、心と身体が揺さぶられるのです。キャリアが長いにもかかわらず、まだまだ進化するんだね、ここまで強靭になれるんだね、と。感じさせられてしまいました。圧巻であります。

7. ウォッシュト・アウト / パラコズム
 今年は、ザ・フレイミング・リップスも、アーケイド・ファイアもアルバムをリリースしまして。共に素晴らしい作品であったのですが。音楽に潜む、音楽から決して離れようとしない“儚さ”というもの。音楽で夢想させてくれる要素が、2アーティストの新作から感じることが出来なくて。それが時代というものなのかも知れないけれど、このアルバムには、あったのです。だからとても愛おしく狂おしいほど好きになってしまいました。浮遊感抜群の楽曲群。過度なメランコリックも無く、過剰なシンコペーションもなく。お腹いっぱいになってしまうほどの音数も多くなく。淡々と。ひたすら夢心地な世界へと誘ってくれます。たまには、音楽を聴いて、現実逃避をしたいものなのです。それも音楽の魅力なんです。

8. ASIAN KUNG-FU GENERATION / ザ・レコーディング 〜ASIAN KUNG-FU GENERATION〜 at NHK CR-509 Studio
 00年代を駆け抜けたロックバンドがひとつ区切りを向かえたんだよなぁって。2013年の彼等の活動を振り返るとそんな感慨深い想いが駆け巡ります。しかし、スタジアムのライブ大成功も含めて、このヒリヒリとした緊迫感が張り詰めたスタジオライブを耳にすると、そんな回顧録に思いを馳せて、感傷的な感情を抱いている場合じゃないよなぁと。そんな気づきを突きつけさせられるのであります。初期曲も最新曲も同等の温度差で痛快なロックミュージックとしてライブしている事実。今後どういう足跡を刻むか解らないけれど、解散や活動休止という手段を選ばずに10年代もそれ以降もずっと駆け抜けて欲しいなぁって切に願います。いや、この場を借りて、懇願いたします。ASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドが生き続ける限り、それ自体がロックの希望となり光り輝いていくと信じておりますので。

9. asobius / rainbow
 ミニ・アルバムだけれども選んでしまいました。キラキラしてるんですよ。上へ、上へ。ひたすら昇り続けるように。音楽が高いところに向かって鳴っているのです。それは、地に足が着いてない、軽い音楽という意味では無くてね。音楽の力で、“絶望の地から希望に手を伸ばせ!”というような感覚です……。ここで、手前味噌ながら、私が、昨年のベストアルバム選出の時にコメントした言葉を引用させて頂きます。“ニューカマーに関しては、業界の不況とは相反するように、生きのいいバラエティに富んだアーティストが沢山現れるような気がします”と、書きました。その代表格が彼等であります。それと、「森は生きている / 森は生きている」のコメントにて書いた、好きなことをそのままやってみましたという姿勢が彼等にも溢れていると思います。2014年に改めてベストアルバムとして取り上げられるような作品がリリースされることを期待しています。いや。必ずしやリリースされることになるでしょう!

10. オウテカ / Exai
 トム・ヨーク首謀のアトムス・フォー・ピースが正式にアルバムをリリースしたということで。それはそれで、言わずもがな、グウの音もでないほど素晴らしい作品だったのでありますが。この御大の新作に辿り着いてしまった瞬間、全てが氷解してしまいました。恥ずかしながら、彼等が未だ現役で、世紀をまたいでコンスタントに作品をリリースしていることを忘れていました。そんなこともあって久しぶりにこの作品を聴いたのですが。鼓膜を入り口として、脳味噌のあらゆる神経系統や毛細血管までもチクチクと刺激されてしまいまして。音楽の、音の捉え方の根底を、改めて考えさせられる結果と相成りまして。いやぁ、凄まじい。90年代に、ヘッドフォン爆音状態で聴きまくって、“音楽の進化は何処まで行くのか?”とかを考えていたあの頃の自分を思い出すことになってしまいました次第です。感謝、感謝です。


 いやはや、ベストアルバムとして10枚を選ぶのは至難の業でした。今まで色んな場所でこういうことを書き連ねてきましたが、ここまで悩んだのは、初めてかも知れません。それだけ、沢山の素晴らしい音楽が溢れかえっていた年だったのではないでしょうか。

 邦楽洋楽ジャンルを飛び越えて、様々な、魅力的なアルバムがリリースされていた2013年。ベテランも中堅も新人も佳作がとっても多くて。最終的に、何を基準にして選べばいいのか解らなくなってしまいつつも、なんとか10枚を選んだ次第です。

 もしかしたら、このベストを選んだ今日という日から数日経ったら、また違った10枚になっているかもしれません。いやはや、そんなことを言ってしまったら、この企画自体が本末転倒になってしまいますよね。しかし、ほんと、そういう風に思ってしまうほど、試行錯誤して選び抜いた結果がこの10枚になったということなのです。

 兎にも角にも、傑作が多かった2013年であったということなので。来年以降も、更に音楽の力が増していくような気がします。2010年代に入ってから、僕らは絶望や諦念を抱えたまま日々を過ごすようになったにも関わらず、いや、そうなったからこそ、アーティストもリスナーも、音楽を鳴らす、音楽を求める思いが、想像以上に溢れてきているということだと思いますので。

 もし、今までも、これからも、音楽に託されたものが“希望”というものならば、僕はそれを信じる男なので。2013年同様に、2014年も音楽を楽しみにして生きていきます。これからもずっとずっと、音楽と戯れ続けながら、様々なかたちで音楽と人を繋げる、“架け橋的存在”として突っ走って行きます!

保坂 壮彦


Profile
保坂 壮彦(ALL IS LOVE IS ALL)
image_hosaka
1971年生まれ。1999年頃から本格的なDJ 活動をスタート。ロッキングオン主催の「ROCK IN JAPAN FES. 2001」、「COUNTDOWNJAPAN 03/04」にRESIDENT DJ として出演以降、現在に至るまで出演を続けている。

他にも、2004年から、オフィシャルサイト「ALL IS LOVE IS ALL」を立ち上げて、ライター、インタビュアーを中心として、音楽にまつわる様々な活動を行う。主な活動として、音楽専門誌「MUSICA」創刊号から現在に至るまで、ディスクレビューを執筆中。

DJ としては、類い稀なるビート感を駆使して、選曲した楽曲に込められたメッセージ性やクオリティを損なうこと無く、心や魂にまで響かせるプレイをもとに、フロアに歓喜の渦を巻き起こすテクニックで、様々なリスナーやオーディエンスに人気を博し続けている。
[Official HP]

前のページへ戻る

Copyright(C) Spectrum Management Co.,Ltd. All rights reserved.