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フジファブリック 「FAB STEP」

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オフィシャルサイト(JP)マイスペース
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青野圭祐─2013.10. 6─

つい先日、メレンゲの2度目のレコメンドをさせていただきまして、そのレコメンド内でも(メレンゲの盟友として)名前を出させていただいていた、フジファブリックが、メジャーデビュー以降の彼らとしては初となるEPをリリースしました!

「旅人・航海人」を表すタイトルの、完全な3人体勢として制作された2枚目のアルバム、『VOYAGER』の次に彼らが取り組んだのは、ダンスチューン!今回レコメンドさせていただくEP『FAB STEP』は、4曲入りなのですが、一貫してダンサンブルな曲を収録しているコンセプチュアルなものです。

「フジファブリックが全編でダンス」と聞かれて、もしかして過度にアッパーなノリノリのテンションになってしまうんじゃ!?なんて思われる方もおられるかも知れませんが、そんな心配は全くありません!彼らが今回示してくれたダンスの方法はどれも、後ろ向きでも、クヨクヨしていても、傷口が開きそうでも、勘違いしても、踊る…むしろそんな弱さや繊細さがあるからこそ、踊れる、と言ったような、日常のビターでセンチメンタルな感覚を伴った泣き笑いの踊りです。

フジファブリックでダンスの曲と言えば、惜しくも夭折されてしまった才能、志村正彦さんがご存命の頃に「ダンス2000」や「パッション・フルーツ」などが、志村さんが逝去されてそれまでリードギターを担当されていた山内総一郎さんがギター/ヴォーカルのフロントマンの現体制になってからも「Magic」などがありましたが、今回収録された4曲のダンスはそれらともまた違う、新たなステップに進みながら、新たなステップを踏むような曲たちです。

またそれでいて『FAB STEP』というタイトルは、メジャー2ndアルバムの『FAB FOX』や生産限定のBOXセット『FAB BOX』を思い出されるもので、それまでの彼らと地続きな感覚も覚えます。

言葉を連ねるよりも早速、『FAB STEP』から、山内さんが作詞・作曲を手がけられた2曲目の「バタアシParty Night」のMV(ショート・バージョン)をご覧いただきましょう!



色とりどりのダンスフロアに降り立った山内さん、キーボード/シンセサイザーの金澤ダイスケさん、ベースの加藤慎一さんたちがキレッキレのスタイリッシュなダンスを披露されています。蝶ネクタイをされた金澤さんが特にキュート(余談ですが、このタイミングばっちしのダンスは相当練習されたのでは…なんて思ってしまいます。笑)!

合間合間に挟まれる演奏シーンは、とってもファンキーなベースを響かせる加藤さん、シンセのノブを緻密にいじる金澤さん、華麗なカッティングを披露する山内さん…と、これまたクールです。ライヴ映えしそうなサウンド(特にサビの「オーオーオーオー」というスキャットはオーディエンスの皆さんも含めてシンガロングして盛り上がりそうです)もかっこいい!

しかし、そんなクールでスタイリッシュなMVに反して山内さんの書かれた歌詞では、むしろ僕達の泥臭い日々が歌われています。

"悩める日々です"  "きっと僕らの9割、ほとんど負けてます 一瞬の喜びのため、日々負けてます" といった率直な言葉が重なりながらも" 一丁前にフラれて泣いたっていいんじゃない? 長所、短所、比べて嫉妬していいんじゃない?"と露骨なまでに日々の生々しさを表しています。
でも本当、言われてみればそうですよね。色んな「長所、短所、比べて嫉妬」する気持ちを隠せなくても踊り続ける=日々を乗り越えていくことができれば…

それに「バタアシParty Night」というタイトルからして、良い意味で僕達の不器用な日々の中で踊る意志のようなものが感じられます。だって、スマートに日々踊るなら、「バタアシ」じゃなくて「クロール」や「バタフライ」でも良いはずです。バタフライだったとしたら、それこそ蝶のように舞っていられるのですから。でも、そんなうまくはいかない「バタアシ」な僕達の日々を"君次第で 変えられるんだぜ 変われるんだぜ"なんて鼓舞してくれます。

続けて、作詞を加藤さんが、作曲を金澤さんが手がけられた1曲目の「フラッシュダンス」のMV(ショート・バージョン)をご覧ください。



海辺の風景から映し出される女性とシックなホワイトの部屋で佇む3人のメンバーさん。
こちらは、先の「バタアシParty Night」よりもエレクトロニックなサウンドながら落ち着いた曲調で、イントロから流れる金澤さんのシンセのフレーズが小気味良いですね。

この曲も、そんな広がりのあるダンサンブルでエレクトロニックなサウンドに反して、"想像がよくない方になってく しんどいな離れてくようで""僕らいつもこうやって傷つくのが怖くて 繰り返すんだ 結局 傷つけてしまうんだ"なんて、センチメンタルな言葉が重なっていきます。

しかも、それが過剰に内省的なものでなくて、志村さんがご存命だった頃からの彼らの持ち味だった、繊細な感情の機微をなぞるかのような切ないもので素敵です。


MVのある曲は以上の2曲ですが、3曲目「Mystery Tour」や4曲目「しかたがないね」も素敵です。

作詞・作曲を山内さんが手がけられた3曲目「Mystery Tour」は、先の「バタアシParty Night」とはまた一味違ったファンキーな加藤さんのベースを基軸に、ドラムセットを一つ一つ分解した上でサンプリングして再構築されたブレイクビーツっぽいビートにのって、あえて感情的な歌い方を排したような山内さんのヴォーカルスタイルが鮮やかな曲です。サビでは"テンションギリ 背負っていくぜ Come on everybody"なんて、フロア映えしそうな言葉を、あえてローなテンションで歌っていて、アダルトな香りがクールです。タイトルは、The Beatlesの『Magical Mystery Tour』をどこか思い出しちゃいますね!

作詞・作曲を加藤さんが手がけられた4曲目「しかたがないね」は、僕個人としては今作で最もオススメさせていただきたい曲で、Yellow Magic Orchestraや日本のテクノポップ黎明期のテクノ御三家(P-MODEL、プラスチックス、ヒカシュー)なんかを思い出させる、ちょっとプログレッシヴでエキゾチックな金澤さんのシンセが響く上に、フジファブリックとしてはかなり珍しい女性視点での感情を歌った曲です。

しかも、その歌っている視点の女性のモチーフは「二番目の女」!浮気相手というよりも不倫に近い(?:そんな印象を受けます)ちょっといけない関係を断ち切りたい、でもどこかでお互い惹かれ合っていて、断ち切れないまま秘めた想いが重なっていく…という、どこかセクシャルな曲です。その一聴した時のサウンドの印象も相まって、少し昭和の古き良き歌謡曲を思わせる感じもありますね。しかも、それを過剰にドラマティックに歌うのではなく、あくまで日常的に使う言葉のみで悲哀(悲愛)を歌う様はとても清冽です。

"ハブラシは次何曜日に使われるの" なんて思わず、ドキッとさせられる日常の景色を描きながら、そこに本当は繋がりたくても繋がりきれない1人の切なさが浮かび上がってくるようです。男性でありながら、これほど繊細に「二番目の女」の叙情をなぞれる加藤さんの作詞センスに脱帽です。

最後に今作『FAB STEP』のトレーラー映像を観てみましょう。



以前のメレンゲのレコメンド記事で書かせていただきましたが、僕は今年上旬、oidではなくて大変恐縮ですが、前作のアルバム『VOYAGER』とそれに収録されているシングルとライヴについて、他のメディアにて特集させていただいていたのですが、その時に『VOYAGER』はアルバムの中で強烈なサウンドのバリエーションに満ちているのにも関わらず、アルバム全編を通して奇妙な、でも清々しいほどのポップセンスに満ちたアルバムになったなぁと感じておりました。

そのアルバムを引っさげて行われたホールツアー「TOUR VOYAGER」(今作の初回限定盤には、そのツアーのファイナルを飾ったNHKホールでの公演から6曲の模様を収録した特典DVDが付いています!)も、山内さんのホームタウン、大阪での公演にお伺いしたのですが、そこでのステージも「旅人」を表す『VOYAGER』という言葉にふさわしい、宇宙へショート・トリップするかのようなステージで、これからフジファブリックはどこに「旅」に出るのだろう、と思っていたのですが、彼らが降り立ったのは、ダンスフロアでした。

でも、アッパーで高揚感や酩酊感に満ちた狂騒のダンスフロアと言うよりも、むしろ日常の景色をそのまま切り取って、センチメンタルなまま踊るようなダンスフロアでした。改めて、フジファブリックの叙情性ここにあり!と思える作品で、今回レコメンドさせていただいた次第です。

さあ、『FAB STEP』と共に、感傷的な日常の風景の中をステップ踏んで、舞っていきましょう。


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青野圭祐

Web
https://twitter.com/ath_sj3

BIO
雑誌やウェブなど各メディアで音楽の書き物をしたり、Bathroom Sketchesというインディ・ロックバンドでギター/ヴォーカル/シンセサイザーをしたり、Moles Regimeというデジタルユニットで活動したりしている、京都の郊外出身の25歳です。
US北西部(ワシントン州シアトル)と愛媛県が好きです。
アイコンはイラストレーターの岩沢由子さんに描いていただいております。