僕はonly in dreamsレコメンドページでの海外アーティストではインディー・ロック界隈のアーティストをレコメンドさせていただくことが多いですが、そんなインディー・ロック・シーンの中でも特に初期から活動しており、今や世界中の(インディー・ロックの枠組みをも超えた)多くのアーティストからリスペクトと賛辞の念が送られている米国のインディー・ロック・シーンのドン、Superchunkが新作を発表しました!
そのタイトルも『I Hate Music』。後にも書かせていただきますが、パワフルなサウンドとDIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)精神に満ちたエネルギッシュでかつインテリジェントなサウンドと活動が魅力の彼らとしては、少し異色なタイトルです。
その『I Hate Music』についてレコメンドさせていただく前に、Superchunkというアーティストについて、かなり簡単に紹介させていただきたいと思います(いかんせん、彼らは活動期間が長いため、時系列に沿って紹介していくと『I Hate Music』のレコメンドまでかなり冗長に書いてしまいそうです…笑)。
Superchunkは89年に、ノースカロライナ州のチャペルヒルという大学街で結成されたオルタナ/パンク/パワーポップバンドです。先程、インディー・ロックとして、すごく色んなアーティストから尊敬されていると書かせていただきましたが、特に初期から脈々と続いているサウンドの特徴をあえて挙げるとすれば、その3つの感覚が色濃いアーティストになるかと思います。
彼らが特に精力的に活動していたのは90年代なのですが、90年代のアメリカと言えば、
Death Cab For Cutieや
The Posiesのレコメンドでも書かせていただきましたが、かなりオルタナティヴ・ロックやグランジの熱が暑かった頃。グランジの誕生の地はシアトル(大きな目でみればワシントン州)なのですが、チャペルヒルはそこから遠く離れています。そんな中で最初期はあまり陽の目が見られず地道に活動してきたSuperchunk。
最初のアルバムで、セルフタイトルの『Superchunk』(このアルバムには今でもライヴで頻繁に演奏されるパワフルな名曲、その名も「Slack Motherfucker」が収録されています)は、インディーロックのオリジネイターの1バンドとして有名なPavementやGuided by Voicesなど数々のインディー/オルタナなエッセンスをもったアーティストが所属するインディー・レーベル、Matador Recordsからリリースされました。少し、というか、かなり余談になってしまいますが、このMatadorには日本人アーティストのアルバムをリリースしていたこともあり、Pizzicato FiveやCorneliusこと小山田圭吾さんのアルバムは米国ではMatadorから発売されました。
以降も3rdアルバム『On The Mouth』まで、Matadorからリリースしていたのですが、Matadorが大手レーベルのAtlanticと提携することになったので、Matadorを離れることになります。
ここからがSuperchunkの神髄!
実はフロントマンのMac McCaughanと紅一点のベーシスト、Laura Ballanceは3rdアルバムをリリースするまでの間にSuperchunkで出してきたシングルを集めたコンピ(とそれぞれのメンバーのソロ作品やお友達の音源)を出すために自主レーベル、Merge Recordsを設立していたのですが、このMergeを本格始動!以降、今回の『I Hate Music』に至るまで全てのアルバムを最初はただの自主レーベルだったMergeからリリースすることになりました。
このスタイルを見たファンやアーティストから支持が高まり、どんどんMergeには素晴らしいアーティストが集まり、今ではArcade FireやDinosaur.Jr、Teenage Fanclub、Camera Obscuraなど名バンドが集まるクールなインディーレーベルにまで成長しました!
…とここまで、文続きも堅苦しくなるので、このあたりで数曲、MVを観てみたいと思います。
彼らの名盤の中の一枚(Superchunkって名盤と言えるアルバムが良い意味で異様に多いのですよね…笑)、5thアルバムの『Here's Where The Strings Come In』から「Hyper Enough」のMVをどうぞ!
ステージではなく部屋の一室で演奏するメンバー…もう何と言ってもとてつもなくパワフルで観ているこちらまで飛び跳ねたくならんばかりのエネルギッシュな演奏、Macの甲高い絶唱もパンキッシュにピッキングをくり返すLauraももう最高!
印象的な鋭いギターフレーズが要所要所で前面に出てくるのもまたSuperchunkの魅力の一つです。
続けて、4thアルバム『Foolish』から「The First Part」のMVを。
こちらは「Hyper Enough」と比べるとややメロウな印象ですね。『Foolish』は少しローファイでメロディアスな曲が多いため、彼らのメロディーセンスの一端を感じることができるかと思います。
さて、そんな彼らですが、90年代には7枚のアルバムを出したにも関わらず、2000年代には2001年にそれまでのパンキッシュなサウンドからひと味ひねってストリングスやシンセ、アコースティックの音色を取り入れた『Here's To Shutting Up』をリリースしたのみで、アルバムとしての復活は2010年まで待たねばなりませんでした。そこで9年ぶりにリリースされたのが、only in dreamsレコメンドページでもjakagawaさんが取り上げられた
『Majesty Shredding』。このアルバムの魅力はjakagawaさんが存分に書かれているので是非参照していただきたいです。
そのレコメンドでも取り上げられていた9thアルバム『Majesty Shredding』の1曲目「Digging For Something」のMVをどうぞ。
「2010年、9年の時を経てSuperchunkはアルバムと共に帰ってきた」というテロップが最初に流れ、そこからは彼らの茶目っ気たっぷりなシーンが続くファニーなMVですが、曲の方は至って素晴らしい。jakagawaさんのレコメンドでも触れられていたように、「僕等はまだ何かをディグってるんだよ!」という好奇心と楽しく生き残って行く決意を歌った曲です。
さて、相変わらず少々前置きが長くなってしまいました。
そんな『Majesty Shredding』から3年経ってまたリリースされたのが今作『I Hate Music』。
そこには彼らのお得意のオルタナ感溢れるパンキッシュなサウンドと共に、どこかジャケットに見られるようなしんしんと雪が降り積もるのを見届けているような哀愁や寂寥感のようなものが漂うアルバムでした。
とは言え、アルバムリリースのアナウンスと共に届けられた新曲「FOH」は、『Majesty Shredding』の爆発感をそのままによりパワーポップに染め上げたような温かみもある曲でした。
そのアナウンスビデオをどうぞ。
相変わらず彼らお得意の印象的なギターリフとJon Wrusterの高く響くスネアの音が光るタイトなドラミングが素敵です。間奏の部分なんてライヴで演ったら確実にオーディエンスにハンドクラップの嵐が巻き起こりそうですよね。
とは言え、アルバムを通して感じる印象は『Majesty Shredding』のものとは少し違う、えも言われぬ寂しさ、先にも書きましたが寂寥感に似たような感覚です。
今回のアルバムと共に発表されたニュースとして、Lauraが聴力喪失に似た症状を訴えたことで、これより以降のライヴ活動には参加できない、というショッキングなものがありました。
このニュースから寂しさはそこにある…とは、実は僕自身はあまり思っていません。たしかにLauraは紅一点としてバンドの顔を担ってきただけでなくファニーな面をたくさん見せてくれました。先にも書かせていただいたようにMergeの設立当時からのメンバーでもあります。でも彼女は後に紹介させていただくMVでも相変わらずSuperchunkの一員として緑色に染め上げたロングヘアーとともに最高の表情を見せてくれています。
しかし、この寂しさはむしろ、エモーショナルに響いてより感傷的なものとして、Superchunkの一面を映し出しています。しかも、その寂しさは哀しみではなくて、どこか懐かしみもあるような、しんしんと浸っていく優しさのある寂しさとも言えます。それは僕達を不安にさせるようなものでなく、どこか切なくさせるようなものでもあると思います。もちろんパワフルな彼らを前にしんみりしすぎる必要は全くありませんが!
さて、最後に、タイトルにもなった"I hate music"という言葉が歌詞中に登場する「Me&You&Jackie Mittoo」のMVをどうぞ。
Bob Dylanの『The Freewheelin' Bob Dylan』から始まり、挙げ出せばキリがないほどに名盤のLPをどんどん掲げて行く人々をどんどん映した後に小部屋でのほんの短いセッションへ。"I Hate Music"という叫びからはじまるにも関わらずあまりに音楽愛に満ちたMVじゃないでしょうか!?しかもパワーポップなサウンドは変わらずなところがまた素敵です。タイトルにもなっているJackie Mittooはジャマイカのスカバンド、The Skatalitesのバンド創立メンバーです。
『Majesty Shredding』の地点をさらに進み、しんしんと雪の降る道路に到達しながらも相変わらず甲高い絶唱と共にパワフルなバンドアンサンブルを鳴り響かせる彼らに、これからも幸あれ!そう願っていたくなるようなアルバムです。