いきなり僕個人の話で恐縮ですが、僕はonly in dreamsの2011年ベストアルバムの特集でも彼らのデビューアルバム『killing Boy』を3番目に挙げさせていてだいており、'11年のベストアルバムの中で邦楽アーティストとしてはトップに挙げさせていただいているくらい去年の邦楽シーンで個人的に注目していたバンドが彼ら、killing Boyだったのです。
only in dreamsの他でお世話になっている幾つかのメディアでは、昨年は彼らをかなりプッシュしていたのですが、タイミングが微妙に合わなかったこともあり、残念ながらonly in dreamsではレコメンドできていない状態でした。と言う事で、killing Boyをonly in dreamsとしてイントロデュースさせていただきながら、新作『Destroying Beauty』をレコメンドさせていただきたいと思います。
killing BoyはART-SCHOOLのフロントマンの木下理樹さんと2003年にART-SCHOOLを去られていた日向秀和さん(現在ではストレイテナーやNothing's Carved In Stoneを中心に、多種多様なバンドで活動されているので、ご存知の方がほとんどかと思います)が、改めてタッグを組まれたバンドです。
始まりは、一昨年の中頃に木下さんがTwitter上にて「ソロ活動がしたい」といった旨のツイートをされていたのに対して、日向さんが「是非バックで弾かせてほしい」といった旨のリプライを返されたことで、その後、日向さんがNothing's Carved In Stoneから大喜多崇規さんをドラマーとして、木下さんが旧友の元SPARTA LOCALSで現在はHINTOとして活動されている伊東真一さんをギタリストとして、それぞれレギュラー・サポート・メンバーとして誘われたことから、バンドとして本格的に始動されました。
当初は木下さんが、先の日向さんのリプライに対してのさらにリプライで「初期のDeath Cab For Cutieみたいな暗い感じのをやろうよ」と返されていたのが印象的でしたが、実際にkilling Boyとしての曲を聴いてみるとビックリでした。
木下さんはデビューアルバムを制作されている時に、Twitterにて「このプロジェクトはリズム、ループ感、グルーヴに重点を置いている。それはアフリカ音楽の理解を探求していく作業でもある。(中略)その反復するリズムに俺はシューゲイズ(青野による注:シューゲイズとは、とても簡略化して説明させていただくと、80年代末〜90年代初頭に英国で興った大轟音のギターサウンドで幻想的あるいは暴力的で内省的なサイケデリックなサウンド、ジャンルを指します。オリジナルのシューゲイズと呼ばれるようなバンド、My Bloody ValentineやRide、The Jesus & Mary Chainなど、と挙げさせていただくと、ご存知の方は多いのではないでしょうか。ギタリストが足下に配した大量のエフェクターを一心不乱に踏み変えて音色を変える様から、「シューゲイズ=足下を凝視する」というネーミングになりました)の感覚も残したい」とツイートされていたのですが、この「抑制されたループでたたき出されるグルーヴと内省的なギターのアンサンブル」もkilling Boyの大きな魅力だと思います。
そして、木下さんは、同じく「ダークなのにポップな」70年代後期から続いているポストパンク、ゴシックロックバンドのThe Cureの感覚も入れたいと仰っていました。The Cureについても以前のJoy Division同様に、僕自身とても大好きなバンドなのでイントロデュースし出したらめちゃくちゃに長くなってしまいますが(killing Boyに興味を持たれた方は是非、The Cureも聴いてみられることを全力でお薦めさせていただきます!お薦め盤は『Pornography』、『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』、『Wish』などです)、The Cureの最大の魅力も木下さんが仰っていたような「ダークなのにポップなところ」にあると思います。そして、それはkilling Boyも同じです!
注目してみたいのはサウンドだけでなくタイトルもです…!!「Call 4 U」というタイトルですが、これ、ちゃんと英語にすれば、恐らく「Call For You」になるかと思います。ですので、ここで「For」は「4」、「You」は「U」となっていることが分かります。これは木下さんと日向さんが共通のお気に入りとして挙げられているMotion City Soundtrackと同じく米国ミネアポリス生まれのアーティスト、Princeのタイトルのネーミングセンスを拝借されたものだと思われます。
僕の推測も含んでいて恐縮ですが、1曲めの「talking about angels」は、木下さんもお気に入りと日記に書かれていたこともある、米国シアトルのエモバンド、Sunny Day Real Estateの「Song About An Angel」を思わせますし、4曲めの「no love lost」はJoy Divisionの同名の曲を思わせるようで、音楽好きの方は思わずクスリと微笑んでしまうかも知れません。
それはRadioheadのフロントマン、Thom Yorkeのソロプロジェクトとして始まった、Atoms For Peaceです。Atoms For Peaceも憂鬱がちで繊細な印象の強いThomと、そんなThomとは正反対とさえ思えるRed Hot Chili Peppersの陽気な馬鹿テクベーシストFlea(日向さんはFleaのベースプレイなどから多大な影響を受けたとも仰ってます)の相性が意外にもバッチリなんです。
この構図はkilling Boyにもかなり似ていて、それぞれ各々の魅力や持ち味で邦楽ロックシーンを牽引されてきた木下さんと日向さんのベストマッチングなスタイルを見ていると、killing Boyは日本のAtoms For Peace…!?なんて大袈裟かも知れない考えさえ浮かんでしまうほどのポテンシャルを感じずにはいられません。