スピッツ 「おるたな」
RECOMMENDER
青野圭祐─2012.2.15─
大変、遅くなりましたがonly in dreamsのウェブサイトをご覧の皆様、明けましておめでとうございます。
昨年に引き続き今年もレコメンドよろしくお願い致します。
さて、2012年、初めてレコメンドさせていただきたいアルバムは、スピッツ『おるたな』です。
レコメンドでいきなり言うのもナンですが、スピッツに関しましては、最早、言葉はいらないですよね。
現在の邦楽ロックシーンでポップかつオルタナティヴというスタンスを常に維持し続けて、ライトな音楽リスナーの方にもコアな方にも、愛され続けてきたロックバンドです。
そんな彼らが一昨年の前作『とげまる』に続けてリリースしたのが、このタイトル通り『おるたな』なシングルB面を中心に構成されたスペシャルアルバム第3弾が今作。ちなみにスペシャルアルバム第1弾には『花鳥風月』、第2弾には『色色衣』がそれぞれあります。
前々作にあたる『さざなみCD』からは一転、極上の純粋さとそれゆえの背徳を打ち鳴らした『とげまる』を彼らはリリースしていたのですが、今作はその『とげまる』のタイトルを踏襲した『おるたな』で、文字通り彼らのポップかつオルタナの後者の部分を大きく表しています。
また、前2作のスペシャルアルバムは同じくシングルB面を中心に、彼らのアマチュア時代やインディー時代の音源を再収録したものだったのですが、今作はそれらとは違い、収録曲の約半分の曲が他のアーティストのカヴァーで、中には、このアルバムのために新しく発表する曲もあります。
彼らがテーマにしたカヴァー元のアーティストの一覧は、奥田民生さん(「さすらい」)、松任谷由実さん(「14番目の月」)、原田真二さん(「タイム・トラベル」)、初恋の嵐(「初恋に捧ぐ」)、はっぴいえんど(「12月の雨の日」)、花*花(「さよなら大好きな人」)。この内、「タイム・トラベル」、「初恋に捧ぐ」、「さよなら大好きな人」の3曲が新録曲です。ちなみにスピッツがオフィシャル音源としてリリースしたカヴァー曲は全曲網羅していることになります(「スピッツとして」、としたのは、フロントマンの草野マサムネさんの個人名義では、過去に太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」をカヴァーしている(今作には未収録)からです)。
さらに、ちなみに、になりますが、奥田さんと松任谷さんは、『一期一会 Sweets for my SPITZ』というスピッツのカヴァーアルバムで、それぞれ「うめぼし」と「楓」をカヴァーされているので、今回はスピッツ側からお返しのカヴァーとも言えますね。
初回限定版を買うと紙ジャケにスピッツのディレクターの竹内修さんによる今作の制作ノートが特典でついてくるのですが、竹内さんもそこにも書かれておられますが、スピッツは実はイベントなどではカヴァー曲を披露することも多いアーティストの一つで、チャットモンチー「シャングリラ」やMichel Polnareff「シェリーに口づけ」などもカヴァーしてきました。スピッツは、そのパブリック・イメージに反してかなりの長丁場にツアーに出たりフェスにも積極的に出演する正真正銘のライヴ・バンドでもあるのですが、そのライヴで幸運にもカヴァーを聴くことができた方もおられるかと思います。
そういった意味でスピッツ×Somebodyのコラボレーションを楽しむことも、オルタナティヴな楽しみもありますが、やはりカップリング曲も注目したいです!!
アルバム『スーベニア』に収録された、シングル「春の歌」のカップリング曲である「テクテク」を聴いてみてください(実は「テクテク」は厳密にはカップリングではなく「春の歌」との両A面シングルなのですが、今までオリジナル・アルバムに収録されていなかったこともありカップリング曲のような様相になっています)。
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意図的にかなり単調にしたような、牧歌的なサウンドにのった草野さんの麗しい歌声が心地良く、全編アニメーションによるMVも可愛らしいですよね。
でも、その実、今作に収録されたカップリング曲はどの曲も、彼らがシングルやアルバム曲では試せなかったような遊び心(サウンドも歌詞もそうです!)たっぷりで、ほぼ全ての曲調はバラバラと言っても差し支えないでしょう。にも関わらず、アルバム全体を通して聴いた時のカップリング曲とカヴァー曲の曲順がとても素晴らしく、妙な統一感があります。その、言葉にしきれない、妙な統一感の感触こそが、「オルタナ」と言えると思えます。
曲調がバラバラな曲が多いのに、全体を見ると同じカラーに見えるというアルバムは、彼らはオリジナル・アルバム『フェイクファー』でもあったのですが(こちらも自信をもってレコメンドさせていただきたいかなりの名盤なので、ご機会があれば是非聴いてみて下さい!)、今作はそれとは違いつつも、近いトーンを持っているようにも聴こえます。
先に書かせていただきましたように、カップリング曲とカヴァー曲で構成されているので、現時点でMVが公開されている曲が「テクテク」しかなく、文だけでしかレコメンドできないのが残念ではありますが、カップリング曲は、彼らのパブリック・イメージを覆しそうな曲も多く(褒め言葉です!)、カヴァー曲の選曲もスピッツとのマッチングが絶妙で、とても素敵なアルバムになっています。
歌詞もサウンドも斬新な曲が多く、普段はスピッツは「空も飛べるはず」や「ロビンソン」といった有名な曲しか聴いたことないよ、というリスナーの皆さんにも自信をもってレコメンドさせていただきたいです(そして、あなた自身のスピッツのイメージも塗り替えられちゃってみて下さい!)。
1曲ずつ解説を交えつつ紹介することもできるのですが、長文になって評論調になってしまうのも、せっかくのonly in dreamsのレコメンドで味気ない(しかもoidはMVを用いて紹介もできるので言葉だけで長々と書き連ねるのも、もったいないですよね)ので、各曲の紹介は控えさせていただきますが、全編を通して聴いた時に感じられる究極にポップながらオルタナティヴな感覚こそ、『おるたな』の、スピッツの、真骨頂と思います。そう、スピッツは、オルタナティヴ・ロックバンドなのです!
最後に、今作には収録されていないですが、前作『とげまる』に収録されたシングル曲を2曲ほど紹介させていただいて、直近のスピッツのモードを感じ取っていただければと思います。
まずは37枚目のシングル、「シロクマ」をどうぞ。
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「テクテク」同様、アニメーションを用いながら演奏するスピッツをコラージュしたようなMVがキュートですよね。
サウンドは往年の彼らのエヴァーグリーンな輝きを発しつつ(三輪テツヤさんのアルペジオがとても良い味を醸しています)、ちくっと刺さって染み込むような歌詞も特徴的です。
続いて最後に、35枚目のシングル、「君は太陽」を。
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スタジオライヴのようなカメラワークとメンバー皆さんの真剣な演奏シーンが瑞々しいです。
パワーポップのような陽性のサウンドに、彼ら独特の親しみやすい曲調にさらっと溶け込みやすい毒を盛っているかのような歌詞『とげまる』のラストを素晴らしく飾る曲です。ちなみに、この「君は太陽」のカップリング曲の「オケラ」が『おるたな』のラスト曲でもあり、この曲のようにラストを至上のオルタナティヴに染め上げています。
さあ、皆さんも是非『おるたな』でスピッツのもう一つの一面を発見してみて下さい!!
きっと、あなたも彼らがそこかしこに詰め込んできた<<毒入りのケーキのカケラ>>(「海とピンク」)に埋もれてしまえるはずです!!
青野圭祐
Web https://twitter.com/ath_sj3
BIO 雑誌やウェブなど各メディアで音楽の書き物をしたり、Bathroom Sketchesというインディ・ロックバンドでギター/ヴォーカル/シンセサイザーをしたり、Moles Regimeというデジタルユニットで活動したりしている、京都の郊外出身の25歳です。 US北西部(ワシントン州シアトル)と愛媛県が好きです。 アイコンはイラストレーターの岩沢由子さんに描いていただいております。