NAHAVAND『Vandalism』オフィシャルインタビュー
ヒップホップとロックってもともと全く違う畑から出てきたものではあるけれど、欧米ではその文脈が交差し始めている。今作は、そこに対する素直なリアクションのようにも受け取れたんですよね。
Miyauchi「そうですね。俺がポスト・マローンが好きなのも、『こういう音楽がやりたい』じゃなくて、『自分達と同じだ』って思えたからで。そして彼が世界中で受け入れられてる様を見ていて、この時代に俺らがこのアルバムを出すことに意味があるし、運命を感じましたね。だからonly in dreamsが『どういう伝え方をすればこのアルバムの魅力が伝わるかな』って考えてくれたのは、嬉しかったです。先程話したようにサウンド面では間口が広く、入ると狭いものにしたくて。」
本作はラップもぜんぶ聴き取れるから、歌っている内容がどんどん身体の中に入ってくる。初期はラップも聴き取りづらくて、サウンドと一体化していましたもんね。あれもあれで意識的なものだと思っていましたが。
Miyauchi「俺はそもそもラップをしてるって意識はなくて、Veni Vidi Viciousの入江良介さんとかandymoriの小山田壮平さんは日本語を英語っぽく歌っていたじゃないですか。当時はそれがクールだと思ってた。歌詞も音の一部というか。でも、Gotchさんと関わるうち、『伝わるようにラップした方がいいよ。メッセージが大事なんだから。』って言われて。綺麗に発音できるまで録り直しているうちに、どんどんラップが上手くなっていくんです。それと発音を崩すだけがフロウじゃないというのもわかりましたね。」
NAHAVANDのリリックは常にMiyauchiくんの心象風景そのものなんだけど、今回はいつもに増して超パーソナルですよね。一人称が強いし、特にアルバム中盤で恋愛のラップが続いたのは意外すぎた。え、そこまでラップしちゃうの?っていう。
Miyauchi「「Vandalism」の生意気さも俺だし、「Montauk」の女々しい部分も俺なんですよ。相方にも恋愛相談乗ってもらったりとかしますよ。」
Tokisato「いつも同じような悩みなんですけど(笑)」
Miyauchi「聴いた人のリアクションが気になるね。どっちのモードのNAHAVANDが好きなのか、あるいはどっちも好きになってくれるのか。出してみないと反応はわからないんで。ただ色んな人に聴いてほしいと思っている反面、恋愛の歌詞に関しては、一人の女の子に向けて書いているような感覚もあって。」
Tokisato「あれ、矛盾してるね(笑)」
Miyauchi「書き終わった時点で作品になりますね。」
いったんは表現しきったわけね。とにもかくにも、アルバムが出てよかったです。だって、前作(自主制作のファーストアルバム『最強のふたり-Two Of Strongest-』)が2014年10月ということは、今作を出すまでに5年弱かかったわけですよね。「Hold On」でラップされているように音楽を辞めようと思った時期もあったみたいだけど、何か大きな挫折があったんですか?
Miyauchi「挫折なんか1週間に1回くらいありますけどね。俺は働きながらバンドやってるんですけど、音楽の才能あるのに働いてられっかよと思う時もあるし、次の瞬間には音楽なんか辞めて今の仕事を真っ当に続けようかとか(笑)その繰り返しっすね。俺は楽しみながらなんて音楽ができないから。苦しいし、悩みながらずっと続けてる。俺が尊敬しているミュージシャン、Gotchさんや(親交のあるTHE NOVEMBERSの)小林さんが俺に期待してるよって言い続けてくれるから、なんとかやれてるのかも。」
その気持ちを「Hold On」で正直にラップできたことは、次に進むきっかけになったんじゃないですか。
Miyauchi「ライブの最後の曲に「Hold On」を演る事が多いんですけど、お客さんに『最後の曲めっちゃよかったです』って言われる事がマジで多くて。俺は歌詞を書いた瞬間の自分に戻りながらラップするんですけど、「Hold On」を書いた頃は無職で、ポケモンGOが流行ってて、スポットになっている神社まで毎日散歩にいってたんです。Tシャツ半パンで。あの曲を歌う時はそんな情景を思い出すんですよ。その時の自分に上手く戻れた時は、特に反応がいいっすね。」
その時、Tokisatoさんは陰で支えていたんですか?
Tokisato「うーん、いや、半年に一曲くらいしか曲を作れてなかったから、俺にも原因があったんやと思う」
Miyauchi「彼の良い所は、冗談でも『やめる』と言わないところ。俺はなんかあったらすぐに『やめる』って言っちゃうから」
Tokisato「その性格もわかってるし。でも、彼が本気でやめるって言い出したらNAHAVANDは終わる。NAHAVANDが終わったら、自分の音楽人生も終わる。彼は俺の中で彼女じゃなくて嫁さんなんですよね。だから、マンネリでも一緒にいたい。」
じゃあやっぱり、Miyauchiくんにとっては周りの人たちの声が大きなサポートになったんだ。アルバムにせず、曲をどんどんリリースしていくっていう方法は考えなかったんですか?
Miyauchi「俺はシングル連発したかったんですけど、先行で「Vandalism」を出した時にクソほど反応がなかったんですよ。世界がひっくり返るって思ってたんですけど。」
Tokisato「あ、そう?俺はこのくらいやろなと思ったよ(笑)」
Miyauchi「俺もアホだからGotchさんに『すぐに次の曲もリリースしたいです』ってメールしたら、『急いでは事を仕損じる』から始まる返信がきて。要はまずアルバムを完成させろよっていう」
(実際の文面を読みながら)これは伝わるメールですね……。Miyauchiくんの性格をわかった上で、静かに諭している(笑)。
Miyauchi「Gotchさんから言われたことって、後から気づくことが多くて。俺らが初めてcold brain studioに遊びにいった時、いきなり『ソロアルバム出すからラップを入れてよ』って言われて、30秒くらいのバース蹴ったんです。で、発表された曲を聴いてみたら、バースの最後で「ありがとうございました」って言ってるとこだけサンプリングで使われてて(笑)後日レコードをくれたんですけど、そこに『Miyauchiくん、今回はアルバムに参加してくれてありがとう。俺は色んな人の手が加わったアルバムの方がクールだと思う』っていうメモが添えられてたんです。でも、当時の俺はそうは思わなかった。少数のチームの方が純度も高くなるし良いに決まってるって。でも今になって俺たちは沢山の人に囲まれてアルバムを作ってる。」
だから、Gotchさんはmabanuaさんとはまた別のレイヤーでプロデュースしてくれたんですね。
Miyauchi「そうですね、Gotchさんはミュージシャンとしての生き方、mabanuaさんはミュージシャンとしてのやり方を教えてくれました。それはリリックやサウンドに反映されてると思います。」
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