INTERVIEW
2019年ベストアルバム
2019年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。
保坂 壮彦 (ALL IS LOVE IS ALL)
『Titanic Rising』- Weyes Blood
切ないとか、愛おしいとか。そのような個人的感情とはまた違う。なんというべきか。尊いというか、聖なるものというような感覚か。ゴスペルやクラシックから強烈な影響を受けたミュージシャンだからこそなのかもしれないが。儚い歌から伝播する、なんとも言い難い“何か”が、音像に焼きついて。ポップミュージックたる姿へと化学反応を起こしたという奇跡。今年、僕の心に響き渡った、愛すべき、祈りのような名盤だ。
『エアにに』- 長谷川白紙
聴き手の僕らは、ここまでの音数を必要としているのか?と。楽曲構成や転調やあれやこれやが複雑に絡み合っていて、どう対処していいのか?と。そんな奇々怪々でもある音楽なのに、叙情的な歌詞とメロディー含めて全てが緻密に絡み合って。結果、心地よいポップミュージックとして成立している妙は、とんでもない。世紀的な、天才の誕生だ。
『7 Directions』- Nkisi
コンゴ生まれのベルギー育ちの女性アーティスト。ポリリズムなミニマルビートが、土着的な匂いを醸し出している魅力。それは、彼女の出自からくるものであるからこそだけど。ベルギーで活動しているということで、ハードコアな側面も音像に現れているところがキモだったりして。極私的な自分のテクノ耳を揺さぶられました。この中毒性の高い、脳内中枢をえぐりくすぐるミュージックの気持ちよさ。久しぶりに出逢えた感じ。最高です。
『Morbid Stuff』- PUP
激しくて。弾けていて。それでいてポップであって。所謂ロックというものとして。いや、パンクでもいい。そんな音楽を絶対的に欲してしまう僕みたいな人間は、いつもどこかでこんなバンドを捜し当てて捕まえて、感情の衝動を発散したくなる。喜怒哀楽全てを包み込んで解き放つ砲弾のような音楽だ。
『LIV TOWER』- 片想い
「2019年のサヨナラ(リリーへ)」を今聴かずして2020年には進めない。片想いというバンドは、作品ごとにいつも僕らに問う。音楽への愛、日々の暮らし、を。時にはユーモアに、時には生死をかけて、来る。だから大好きをやめられない。音楽で問われた答えが見つかるまでは。だからして僕は。これからも、いつまでも。彼等が存在する限り、音楽を聴き続けることになるのだろう。
『ツギハギカラフル』- 東京スカパラダイスオーケストラ
アルバム収録曲「風のプロフィール feat.習志野高校吹奏楽部」を聴いて、感極まった。様々なアーティストとのコラボ曲が多数収録されており。さすがスカパラ!!な作品なのだが。それよりも、なによりも。それ以上の沢山の彼等の歴史が、この1曲にギュッと凝縮されていて。自ずと泣けてくるのだ。そして、「Dale Dale! ~ダレ・ダレ!~ feat. チバユウスケ」におけるMVのチバの満開の笑顔がこれからの彼等の未来を祝福しているようで、これまた感極まるのです。
『So kakkoii 宇宙』- 小沢健二
あの小沢健二が、2019年にアルバムを出したということ自体が社会現象になったけど。その事実の巨大さ故に、作品の細部の細部までが伝わりきっていないという気もする。かの「LIFE」というアルバムの存在感がリアルタイムで売れたということ以上に、未だに時空を超えて、いつまでも聴き続かれて、紡がれて、リプレイされているということがそれを証明している。この作品もこれから延々と、様々な角度から、様々なリスナーから愛し愛されて、聴き続けられてゆくのだろうと思う。
『見っけ』- スピッツ
“スピッツはロックバンドである”“スピッツはパンクバンドである”と僕は思っている。それを音にするかしないか、それをいきり立って示すか示さないか、は関係無い。どんなにメロウでもキャッチーでもポップなものでも、スピッツの根底にはロックとパンクがある。それを解りやすく表に出すか出さないか、だけの違いなのだ。で。今作はというと、そう。出している。出しまくっている。もう痛快極まりないほどのロックがあからさまに鳴り響いている。アルバム1曲目のギターの鳴り一発でわかるロック・ミュージック満載のアルバム。朝ドラ主題歌「優しいあの子」さえもロックンロールしているように聴こえるほどなのだ。ほんとうに。
『PUNK』- CHAI
いつの時代においても、オルタナティヴなミュージック、オルタナティヴ・バンドという名称を授かっているバンドこそが、次世代の新機軸のミュージックシーンを創り上げるのだと。そんな過大なる過信を抱いている僕にとって。デビュー以来、ずっと、立ち止まらずに、僕の想像の進化以上の道程を切り拓いている彼女達の最新作を聴くほどに、ほんと、ニヤニヤがとまらないのです。何処まで行くのやら。追い続けますよ。
『No Geography』- The Chemical Brothers
あの時鳴らされた、ケミカル節の再来だ。彼等が発明したブレイクビーツは、いつのまにかダンスミュージックとして機能しないとも言われたらしく。やっぱ、規則的な四つ打ちこそがテクノでハウスであるということなのだろうと。EDMとやらを通り越して、昨今のクラブカルチャーとは一線を画するとされている節があろうとどうだろうと、そんなの関係ねぇだろう!と。この2019年に、そんな意気込みがようやく一気に爆発した。温故知新、原点回帰で何が悪い?と。満を持しての、本気の復活だとするよ、僕は。そう、爆音。爆音で聴けばわかる。あのフジロックでの大迫力の名演を思い起こすかのように…。
保坂 壮彦 (ALL IS LOVE IS ALL)
BIO
ロッキング・オン主催の「ROCK IN JAPAN FES. 2001」、「COUNTDOWNJAPAN 03/04」にRESIDENT DJ として出演以降、十数年に渡り出演を果たす。以後、ロケットダッシュレコード主催イベント「GFB(つくばロックフェス)」などで、DJ活動を続けている。他にも、2004年から、オフィシャルサイト「ALL IS LOVE IS ALL」を立ち上げてから、様々な音楽をあらゆる人に伝える架け橋として、多種多様な活動を行っている。
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