8otto マエノソノマサキ&TORAインタビュー
ざらっとローファイな音像の中でクール&ワイルドに躍動する、ロックの核心を研ぎ澄ませたようなタイトでストイックなビート感。紛れもなく日本発のロックでありながら、洋邦の枠を越えたユニバーサルな訴求力を備えた音世界――。2006年にアルバム『we do vibration』でのデビュー以降、シーンにおいて唯一無二の存在感を放ってきた8otto(オットー)の新曲“Ganges-Fox(ガンジス・フォックス)”が、6月9日に配信リリースされた。ダイナミックなタムワークが印象的なソリッドな導入から、多彩な展開を経て大河の如き悠久の景色を繰り広げてみせるこの楽曲は、8ottoの開放感あふれる「今」を如実に物語っている。
ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文のプロデュースのもと、“Ganges-Fox”を含む新作アルバムのレコーディングを完了させているという8otto。デビュー当初は驚くほどのペースでリリースにツアーにと駆け回っていた8ottoだが、現時点での最新アルバム『Ashes to Ashes』から実に6年の時間が経過している。しかし、そんな活動のタイム感まで含めて、現在の8ottoの音楽を構成する一部である――ということが、以下のマエノソノ&TORAの発言からも伝わることと思う。
(取材・文:高橋智樹)
もうアルバムのレコーディングも終わっているそうですね。2015年の『SRKEEN』(『ニンジャスレイヤー フロムアニメイション』第4話エンディングテーマ書き下ろし曲)を挟みつつ、アルバムとしては6年ぶりになるわけで。制作が終わってみての実感はどうでした?
マエノソノ「こんなに素晴らしい形で、こんなに良い音で、こんなにカッコいい形でレコーディングできるとは思ってなかったので、まずそこに感謝というか。いろんな人のおかげで帰ってこさしてもらったかな、っていうのは感じてます」
TORA「アルバムで考えたら40分くらいなんですけど、おっさん4人が40分作るのに6年かかったと思うと、我ながら感慨深いなと(笑)。そこの感動がやっぱり、できあがってからじわじわ来てるというか。それは一番思いましたね」
デビュー当時はかなりのペースで作品をリリースしてツアーも行ってましたけども、『Ashes to Ashes』(2011年)の前に1年間ライブ活動休止期間がありましたよね。
TORA「『Ashes〜』を出した時も、1年休む前とは作り方というか、バンドに対する姿勢というか、そういうものはちょっと変わった気はしてたんですよ。まあ1年休んで、『自分たちのペースで音楽ができたらいいよね』っていうところがあって。決して動いてなかったわけではないんですけど、本当にゆっくり、『この1年でなんとか2曲できたね』ぐらいの(笑)。4人全員で集まれない時は、それこそマエソンと2人で集まってとか、僕がいない時はマエソンと誰かがやって、とか……ほんとゆっくりではあるけど、そんな感じでやろうよ、っていうところに変わっていった感じですね」
マエノソノ「もともと〆切を守れないタイプの人間なんで――夏休みの宿題を、8月31日の昼1時ぐらいから焦ってやり始めるような感じだったんで(笑)。結構無理してたもんな? 『アルバムの曲が10曲必要』とかで頑張って作って、ツアーして、また頑張って作ってツアーして。1年の半分以上……一番多い時で3分の2ぐらいライブしてた時もあったし。そればっかりやってた時期が続いていって、何がカッコよくて何がカッコ悪いとかも全然わからなくなって(笑)。けど、やっていくごとに――僕的には『8ottoはこうあるべきだ』とか『こうでなければならない』っていうのが強くなりすぎてて、無意識的に。視野がどんどん狭くなっていくイメージがあったんですけど……『Ashes to Ashes』を出した後ぐらいに、いっぺんそういうのを全部取っ払って、何やったかて自分らの音楽になるし、自分らのペースで『音楽って楽しいよな』っていうスタンスでやっていこう、ってなって……もう、すっごいゆっくり歩き始めたんで(笑)。で、ようやく何年か前からこういう話をもらって、それがようやく形になったっていう」
それこそ8ottoって、バンドにとって必要だと思えばNYに行ったりもするし、「こう」と決めた方向性がすごく重要でもあると思うんですけど。そのベクトルが相当大きく変わったっていうことですね。
マエノソノ「不器用ですからね。こう思ったらこう、みたいなところは結構あるんで。いろんな気づきがたくさんありましたね。『自分たち、思いのほかゆるいところいっぱいあるのに、ストイックぶってたんじゃないか?』って思ったりとか……面白い中に、ゆるさとか遊びとかを含んで、ひとつの音楽になって、それが楽しくてカッコいい、みたいな。そういうのをもともとやりたかったんちゃうかな?っていうのは思い出したっていうか。それは感じてるんですよね。自分の感覚的には、1stアルバムをNYで作ってる時に通ずる部分が、やっと取り戻せたかなっていうところはありますね。『前やってて、できなくなってて、できるようになった』っていうよりも、純粋に『楽しいと思う音楽』を……いろんなアイデアを詰め込めたかな、っていう感じですかね」
『HYPER,HYP8R,HYPER』の時はストイックの極致でしたからね。まあ、ストイックに突き詰めたからこその良さもある作品ではあるんですけども。
TORA「まあ、『今、自分たちがやりたい感じ』と『音楽と向き合ってる時間』とのズレが出てきたというか。そんな感じがしてて。たとえば『家族と過ごす時間を犠牲にしてライブをやります』とか――それもいいことやと思うんですけど、それでずっとやってきてたのが多かったと思うんで。これも他のみんなはどう思ってるかわかんないですけど……ライブの本数も少なくて、アルバムも今回6年ぶりとかなった時に、周りの友達とか知り合いとかにも『8otto全然動いてないけど、大丈夫? 解散すんじゃないの?』みたいなことを言われてたんですけど……俺はわりと、『いや、これで解散せえへんかったら、もう絶対解散せんと思うけど』ぐらいの感じなんですよね(笑)。この動き方でずっとできてるから――逆に昔のほうが危うかったと思うけどなあ、みたいな」
マエノソノ「まあ、今が一番いい感じっていうのは思いますね。みんなの関係とか、心のゆとりとか、創作意欲とか」
確かに、以前インタビューさせてもらってた時と、マエノソノさんの表情が違いますもんね。
マエノソノ「あの時は僕、1970年代が一番カッコいいとほんまに思ってたんですよ。ほんまに信じてて。それが間違いだっていうことに、最近気づいて。『今って2010年代やんな?』っていうことに、やっと気づいたんです(笑)。その時代の曲じゃないといけないよな、って」
“1977”っていう曲もあったぐらいですからね。
マエノソノ「そうですね(笑)。なんか、太いっていうか、泥臭いっていうか――そんな中でも、アナログの質感でドンドンドンドンみたいなのがカッコいいと、本気で思ってたんで。あの時代の先にあった未来と、今の時代に抱えてる未来像と、全然違うじゃないですか。今って、よりキラキラしたものっていうか――音質がキラキラしてるっていうよりも、やっぱり『未来は真っ暗』っていう音楽はしないほうがいいと思うんですよ。未来に届けるような、キラキラした質感の音楽が必要なのかなと思ってて……それは変わりましたね。70年代って言ったら、ベトナム戦争とか、世界中に不満があって――要はその不満をぶつけて、パンクとか反体制とか、そういうので表現してた人が多かったと思うんですけど。もちろんそういう側面もあるけど、今はそんなことよりも、みんなが抱えてる不安をいかに消化できるか、みたいなほうが大事なんじゃないか、っていうのはすごく思って」
それはすごい大転換ですよね。
マエノソノ「今ももちろん、『社会に対してこんなメッセージを』っていうのはあると思うんですけど。昔みたいに『革命を起こそう』とか『ひっくり返す』っていうエネルギーじゃなくて、今は希望とか、幸せとか、愛とか、そういうものをドーンとこう、包みこんででっかくするようなエネルギーが必要なんじゃないか?って思い始めてて」
そういう、「今バンドは何を鳴らすべきか?」を考え抜いた先の景色が、“Ganges-Fox”にもある気がして。
マエノソノ「そうですね。丸いような、広がるようなイメージというか――
TORA「あ、丸いイメージやったんや?(笑)」
マエノソノ「丸いというか、一方向にドカーンっていうよりは、全体的に広がるようなイメージはありますね。尖ってるところは残ってても、そんなに痛くないというか。あったかさはあってほしいかな、っていう」
ロックもポップスも含めて、どんどんエッジーだったりエクストリームだったりっていう方向に向かってますけど、そういうものを目指す音楽では表現できない、どれだけ大きなエネルギーを見せられるか、っていうことですよね。そういうところじゃないと“Ganges-Fox”みたいな曲って鳴らないと思うし。
TORA「そうですね。でも、結構この曲は一番揉めたよな? 実は。今思い出したわ(笑)。ゆるゆると『ウェーイ』って作ってたようなイメージがあったんですけど、わりと揉めてたな。最初に思ってたアレンジと、結構ギリギリで変わったもんな? マエソンは『これで完璧』みたいな感じやったんですけど、僕は『なんか違う。このままやったら嫌や』って。その言い合いで、スタジオでわりと取っ組み合いの大喧嘩したよな。思い出したわ!」
マエノソノ「スタジオの子、引いてたよな?
TORA「引いてたな。ガンガラガッシャーン!ってなってたもんな(笑)」
マエノソノ「僕はこれ、すごい好きな曲で。TORAはそんな気に入ってなかったんやけど、『マエソンがそんなに好きな曲やから、採用してあげたいけど、気に入らん』みたいな感じになって。その時はストーン・ローゼズとかフィッシュマンズみたいなイメージの曲やったんですけど、僕らがやるとそのノリが半分ぐらいしか出せてなくて。『どうしようか?』ってなった時に、ちょうどゴッチが『新しいアルバムに向けて、こういうアレンジも入れられたらいいんじゃないか』みたいな――誰の曲か忘れたんですけど、洋楽の、タムワークがすごい曲があって、それの動画を送ってくれて。すごいベタやけど、自分らこういうのできてなかったと思って。『確かに僕らの曲って、全部リズムがドッタンドッタンやなあ』とか思いながら、この曲でちょっとやってみようと思って。普通やったら全然合わないようなタイミングで入れてみたんですけど、そしたら思いのほかみんなも気に入ってくれて」
同じ4ピースのバンドでも、「このリズムとこのアレンジで鳴ってたら心細いなあ、もうちょっと音足そうか」みたいなことを思うバンドがほとんどだと思うんですよね。
TORA「それはでも、作ってる時にゴッチにも言われたかな。『これだけで行けるのはいいよね』って(笑)。『いや、でも要らんっしょ』っていう感じやったんで、いろんなところで」
マエノソノ「それでも、この曲は足したり省いたりとか、結構やりましたね。もうちょっと普通の曲やったんですけど、最初は。普通にドラムで始まって、ギターが入ってきて、みたいな。ちょうどできあがるかできあがらないかぐらいの頃に、デヴィッド・ボウイが亡くなって――やっぱり自分も好きやったから、“Space Oddity”とか聴いて『やっぱりすげえなあ』と思って。そういう気分もこの曲に入れられたし。曲名とかも、ただのインスピレーションっていうか……ギターのセイくん(セイエイ ヨシムラ)がスタジオでリフを弾いてる時に『ああ、それすごいカッコいいな』ってできあがった曲なんですけど、洋楽っぽいけど日本っぽいというか、寺社仏閣っぽい響きもあるし、すごいカッコいいなあと思って。で、曲にしてみると、なんでかわかんないですけど、ガンジス川のようなイメージで。それで“Ganges-Fox”って名付けたんですけど」
TORA「今の若い子らって、ほんまにパッと聴き『これ洋楽やん!』っていう子らっていっぱいいてるじゃないですか。そういうバンドも好きですけど、僕ら8ottoに関しては、どっか日本人っぽいっていう感じは、どうしたって日本人やから出るんで。そこは逆に出したいなあと思うんですよね。セイちゃんのリフの雰囲気とか、どっかちょっと和っぽいし、リズムも実はどっか和っぽいと思うんですよ。それも味なのかなあって」
マエノソノ「アイヌ民族の音楽とかもすごい好きなんですけど――」
TORA「そうなんや? 初めて聞いたけど、俺(笑)」
マエノソノ「いや、沖縄の音楽も好きやし、アイヌ民族の音楽も好きやねんけど、8ottoでそういうのってできてないなあって漠然と思ってたんですけど、初めて『っぽい』感じにできたかなあって。自己満足度の高い曲になってます」
TORA「『っぽい』のかどうかはわかれへんけど……(笑)。でも、ゴッチのアイデアで、今まで試してないこともいっぱい試せたので。自分らだけやったらたぶん、試そうともしてなかったと思うけど、やってみたら『めっちゃカッコええやん!』みたいなことがあって。結構いろんないい形に、さらになってるんじゃないかなって」
ゴッチからのアドバイスで印象的だったことは?
TORA「前作から5〜6年あって、改めてやっていく上で……僕はちょっと『直接的に伝えたい』みたいな方向になっていってたんですよ。なるべくわかりやすいアレンジに、みたいな方向性にばっかりなっていってて。でも、それを聴いてもらった時に、ゴッチが『いや、全然こっちのほうがクールじゃない?』って引き戻してくれたっていうか。『ああ、やっぱりアリだよね』みたいな(笑)、その作業が結構できた感じがしたんで。すげえいい作用がいっぱい生まれたなあと思うんですよね。それはヴォーカルとか歌詞の部分でもあると思うし」
マエノソノ「めっちゃありましたね。リズムにすごくシビアやったんですよ、ゴッチは。タイミングさえ合ってれば、ちょっとぐらい音程外れててもカッコいいんだよ、みたいなことを言ってくれて。自分の中でグルーヴみたいなものがあって、僕も自信があったんですけど、全然気づかないようなところをいろいろ教えてもらって、さすがだなあと思いました。歌詞も、自分では『抽象的すぎて意味わからんのじゃないかなあ』と思ってたんですけど――ゴッチっていう、すごくたくさんの人と共鳴してるような歌詞を書いてきた人が、僕の書く歌詞は独特というか、『そういう歌詞はなかなか書けないから、自信持っていいよ』って言ってくれて。それで吹っ切れられた部分もあったし」
ちなみに、洋楽邦楽問わず、リスナーとして最近いいと思った作品を挙げるとすれば?
マエノソノ「最近、音楽を全然聴いてないんで……『めっちゃいいなあ』と思ったのが、2年前に出てた作品やった、とかいうのが多くて(笑)。今すごく好きなのは、ケミカル・ブラザーズの一番新しいやつ(『Born In The Echoes』/2015年)の最後の曲(“Wide Open”)で。女の人がレオタードみたいな感じで踊ってて、遠目になって消えていく、みたいなMVのやつですね。あと、ベースメント・ジャックスのめっちゃカッコいいなあと思った曲をiTunesに入れて聴いてたら、TORAが『古っ!』って(笑)」
TORA「車でかかってて、『ラジオ聴いてんのかな?』と思ったら、『俺のiPhoneからや』って(笑)」
マエノソノ「『HYPER,HYP8R,HYPER』出した後ぐらいのアルバム(『Scars』)の1曲目の、“Raindrops”っていう曲が――ウィーザーみたいなリフを、ハウスアンサンブルに乗せてて、めちゃめちゃカッコいいなあって。あとは、ディアンジェロも好きですね。TORAが最近カッコいいと思ってる人なんて、全然知らないです(笑)」
TORA「俺もあんまり新譜にこだわって聴いてるわけじゃないけどな。でも、『この感じやっぱり好きやなあ』と思ったのは、ヴァフペック(Vulfpeck)かなあ。あの、サッカーのジャケットのやつ(2ndアルバム『The Beautiful Game』)。こういうダンスミュージックの感じカッコええなあって。LCDサウンドシステムも――この間新曲(シングル『Call the Police / American Dream』)出たじゃないですか。若干の思い出補正ありかもしれないですけど(笑)、やっぱりいいなあって思ったし……あと、CHAIもよかったですね。さっきも話した通り、今の日本人の若い子のバンドって、本当に洋楽・邦楽の垣根ない感じでやってて。でもまあ、あれはあの世代の子がやるからカッコいいと思ってるんで。あれを俺らの年代がやってても、正直俺はグッと来ないんですよね(笑)」
今回はあえて“Ganges-Fox”1曲だけの印象でインタビューさせていただいたんですけど、「6年間で変わった部分」と「変わらないもの」が確かに宿ってる楽曲だと思うし、若い世代の子にも響くサウンドだと思いますね。
TORA「確かに。8ottoの根本の部分がしっかりあって、そこにいろんな色がついてるような――僕のイメージですけど、そんな感じがあるんで。すごい自信作ですね。『年相応』って言うとほんまに年寄りのバンドみたいで嫌なんですけど(笑)、『今こういうのが流行ってて』っていうのを――聴くのはもちろん好きですけど、それを追っかけてやるっていうのは違うなっていうのがあるし。たとえば安室ちゃん(安室奈美恵)って、何をやっても安室ちゃんやし、どの時代の安室ちゃんもカッコいいじゃないですか。あんな感じにならんかなあ、みたいなのはあるんですよね」
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