INTERVIEW
――ネットをやってる30~40代の意識と、その親にあたる世代の意識の違いっていうのはよく言われましたね。TOSHI-LOWくんは雑誌で「考えたら自分たちが一番動ける世代だ」という発言をしてましたけど。
TOSHI-LOW「うん、やっぱり知力と体力のバランスが一番取れてるのが30代なんじゃないかと思って。40代はもっと知識も経験もあるだろうけど、やっぱり体力的には落ちてしまうから、行動したくてもできないかもしれない。で、20代だとガツガツしたものが出すぎてしまうし、むしろ混乱を招くっていう。俺が若い時は自信を持ってそうだった。被災地に行くだけ行って混乱を招いた自信があるから(笑)、だから今で良かったなぁと思って」
――あと我々30代にとって、自分たちがやんなきゃいけない、動くべきだろう、って積極的に思ったのは初めての経験かもしれない。
TOSHI-LOW「そうだよね、ほんと」
後藤「俺も、今もそう思ってます。それまでなーんもなかった世代じゃないですか。もちろん世界的に見れば悪い生活じゃないんだろうけど、バブルも関係ないし、就職も簡単にできなかったし、あんまりトピックがなかった。いろんなことをずっと流してきた世代だと思っていて。でも震災を経て、社会の仕組みって本当にめちゃくちゃなんだなって気づいた。思ってた以上にめちゃくちゃで、ほんともう笑ってらんないなって思いましたね。ここで流すと......これもまた流しちゃうと、本当に誰かが困ることになる」
TOSHI-LOW「そうだね。ここで流してしまうと、次の人達が本当に救われないっていうか。要は弱者が困るし、自分たちの子供たちが困ることになる」
後藤「そうそう。だからもう、やっぱり誰かが"変えよう"って言い出さないとダメなんだなと思っちゃって。それは別に原発に限った話じゃなくて、社会のいろんなことに関して。もちろん自分に何ができるかわかんないですけど、もう皆で言うしかないじゃん、みたいな。だからこそ今、いろんなところで闘ってる人、発言してる人を見ると心強いんですよね」
TOSHI-LOW「なのにさ、いろんな音楽家が最初に言ったのって白旗宣言じゃん。"僕たち無力です、音楽には何にもできません"みたいな。それを若いミュージシャンが言ってたのが俺ほんとにショックで。まぁ年寄りがそんなに動けないから助けられないっていうならわかるよ? でも一番今売れてる、一番動かなきゃいけない若い子たち、要は力を持ってる子たちが白旗っていうの、俺びっくりした。もちろんそうじゃない子もいるけど、俺の周りで多かったのが、自分の実家がある地域が被災してんのに"僕ん家は大丈夫でした"っていう子。"え......お前行ったの?""いや行ってないですけど、僕の家は津波来なくて大丈夫でした"みたいな。いやいや、そうじゃなくね? って俺は思うの」
後藤「うんうんうんうん」
TOSHI-LOW「お前ん家は大丈夫でも、その隣は流れてる、だったら隣の隣も流れてるわけで。想像力っちゅうものがあるでしょ、人間は。隣の隣がどんだけ困ってるかっていう、そのへんがトンチンカンなんだよね。"あ、大丈夫でした"って言える感覚。お前の家がある地域にまで物資持っていった俺がトンチンカンなのかって思うぐらい。あれ何なんだろう......教育かな? ゆとり教育の子たちって、他人のことをどうこう言うのはよろしくない、っていう感覚があるみたい。他のコミュニティに入っていって思想を言うのは良い事だとは思われないし、だから自分も言わないっていう」
後藤「一概には言えないですけどね。でもそれって親の世代にも問題がある気がして。コミュニティ自体をおざなりにしてきたっていうか、親の世代から近所付き合いもそんなにない。でも携帯はあるからとりあえず繋がれる、仲間はいるわけじゃないですか。でもそのコミュニティは地域に根ざしたものじゃなくて、職業とか趣味とかで形成されたコミュニティで。僕の田舎とか、本当に近所付き合いが凄いんですよ。何かあったらみんながワッと集まってきて」
TOSHI-LOW「じゃないと生きていけないからね、田舎とか自然の中では。でも地方都市に行くとそうじゃないでしょ。もう地方が都会化していって、その結果コミュニティがなくなっていって。結局は豊かな暮らしじゃない? 別に茨城だって東京と遜色なくいろんなもの買えるし、大型のショッピングモールもあるわけで。だったら助け合うことを第一に教育するよりは、自分が何になりたいか、自分がどうなりたいか、ってことを優先する風潮になるじゃん。それで自我が発達するのは悪いことじゃないと思うんだけど......結局この震災では役に立たないよね。自分のことばっかり、他人のことに干渉しませんっていう感覚は」
後藤「そうですよね」
TOSHI-LOW「今の日本って、戦前・戦後があったみたいに、ここからは震災前・震災後になってしまった。もちろん"普通"の暮らしをしましょうっていうのはいいんだけど、震災後の"普通"っていう新しいスタンダードができなければ、それは普通じゃないと思う。だって東北はざっくりやられてて、日本は半分死にかけてるわけで。今までの、震災前の普通を語ることは決して普通じゃないんですよっていうことが、若い世代の子たち、いまいちまだわかってない」
後藤「ツイッターでも、原発の話なんかすると若い子のほうが割とネガティヴに食ってかかってきますね。"脱原発できんのかよ?"みたいな。それはすごく不思議で。30代くらいだと、変えようよ、って気分がある人が多いんだけど」
TOSHI-LOW「変わった経験がないし、変えるっていうことを実感してない世代なんだと思う。俺らも別にないけどさ、なんとなく肌で感じてきたっていうか、まず昭和っていう、いろんなことが変わっていった激動の時代を知っていて。だってソビエトがロシアになるなんて思った? 俺ちっちゃい時、世界地図が変わるなんて思ってなかったもん」
後藤「思ってないですね」
TOSHI-LOW「あとドルが100円になるとか。俺ちっちゃい頃360円だったもん。そうやってすべてのものは変わっていくっていうのを、なんとなく見てたし感じてたと思う。それが今、ここ10年とか考えるとあんまり動いてない。世界的にはもちろん動いてるんだけど、日本からは見えづらくて。大きく変わるっていうの、わかんないんじゃないかなぁ。だから"言ったってしょうがないでしょ?"ってなっちゃう。根底には、今のことが変わるのが怖いって感覚があるのかな。今ここでこうしていたい、それを変えないで欲しい、ここが安心なんだ、っていう」
後藤「わかります。そういう論調ですよね、真ん中にあるものは。なんか、"今"っていうものにしがみついてる感じ。」
――前に10代のバンドに取材した時、社会に出たくないし、社会に夢を持つという感覚がわからない、って言われて驚いたことがある。不満を言ったってしょうがない、社会に順応するしかないんでしょう、みたいなことを話してて。
TOSHI-LOW「それで、パンクだ、ファックオフ!みたいなのもないの?」
――たぶん。ものすごい諦めが前提にあるというか、音楽が人生を変える、みたいな感覚すらないような感じだった。
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TOSHI-LOW -PROFILE-
BRAHMAN/OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのボーカル。オリジナル作としては、約3年半ぶりとなるBRAHMANのニュー・シングル『霹靂』を9/7(水)にリリース。同作を携えた『2011 TOUR 「霹靂」』を10/8(土)沖縄ミュージックタウン音市場からスタートさせる。 |
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