INTERVIEW
千葉「私もマラソンをするときに自分の身体と心と対話をしながらレースを組み立てていくんですよ」
後藤「素朴な疑問として、走っているときは何を考えているんですか?」
千葉「それは一番よく訊かれる質問です(笑)。ゆっくり走ったりジョギングをするときは音楽を聴いたりしますね。今回聴かせていただいたASIAN KUNG-FU GENERATIONの『マジックディスク』は、リズムが心拍と合っていて、そこまで激しすぎないので、すごく走るのに良さそうと思いましたよ。リラックスして走るときは、そうやって音楽を聴いたりしますけど、全力でスピードを上げて走るときは、あまり何も考えられないですね。ゆっくりのときは、"終わったら何食べたい"とか"終わったらどこいこうかな?"って、普通にいろいろ考えますけど。全力のときは、無に近いというか、自分の世界に入り込んでいますね。フルマラソンのレースのときは、30kmまでは後半の勝負に備えるために、できるだけ余力を残したいんですよ。だから、自ら無の世界を作り出して自分の世界に入り込むんです。考えるエネルギーももったいないから何も考えないし、視界には道しか入ってこないし、音もぼんやり聞こえるくらいです。瞑想に近いというか、かっこよく言えば"無"ですけど、ただひたすらボーッとして、走れたときは調子がいいというか。パッと気が付いたときに、"30kmだ、よしここから頑張ろう!"っていうのが、理想ですね。そこまでは、ボーッとできるくらい余裕を持っていけることが大事です」
後藤「なるほど。面白いですね。僕も、歌っているときに何も考えないでいれたときが一番いいんですよね」
千葉「心と身体が一体となっているんでしょうね」
後藤「多分そういうことでしょうね。僕は、例えば自分がマラソンしたとして、そのときは考えごととかしてましたね。電柱の数とか考えたりしていました」
千葉「学生時代は、ランニングっていうと罰ゲームとか嫌なトレーニングっていう感覚が大きいですよね」
後藤「そうですね。あとは、自分の中で実況中継し出すと嫌じゃなくなりました(笑)」
千葉「(笑)。"おっと、今日は足が軽いです"とか?」
後藤「そうです(笑)。"何km地点を通過しました"とか言っていると、辛いって回路から離れられるんでしょうね」
千葉「(笑)。最近は、何かスポーツはされていないんですか?」
後藤「最近は、スタジオに行くときに自転車に乗ったりしてます。一山越えなきゃいけないんですけど」
千葉「意外と坂が多かったりしますよね」
後藤「でも、自転車に乗っても痩せないなって思って」
千葉「でも、後藤さん痩せてません?」
後藤「お腹の方は、ちょっとついてきてますけど(笑)。でも、野球をやっているころはすごく痩せていましたね。体脂肪率とか5%くらいだったから」
千葉「後藤さん、細身で身軽だから、絶対マラソン向いてますよ!やりましょう!」
後藤「(笑)。みんな、マラソンをやっていますよね。友達も、直接走っている姿は見たことはないですけど、Twitterで"走ってきた"とか呟いていますね。ミュージシャンでも多いですよ。今、ランニングブームですよね」
千葉「そうですね、間違いなくランニングブームですね」
後藤「僕もマラソンに興味があって、例えばこれから始めるとして、注意点とかありますか?健康のためには、どれくらい走るのがちょうどいいのですか?毎朝走るとか?」
千葉「逆に、毎朝とかがんばり過ぎると長続きしないと思うんですよ。頑張り過ぎないことが大事ですね。走るペースもおしゃべりができるくらいのゆっくりとしたペースで、それくらいだったらそんなに苦しくないと思います。やり過ぎずに八分目くらい押さえておく、これを週に1回でも2回でも。継続することが大事です。走ることが習慣になったら、しめたものだと思いますね。別にフルマラソンに拘る必要もないですし、5kmから10kmくらいが健康には一番いいのかなと私は思います。ただ、42.195kmって人生の中で一度経験してみると、新たな世界が見えて、いろんなことに活かされるんじゃないかとは思いますけど」
後藤「そうですね。42.195km走ることってないですもんね。時々思うのは、普通に暮らしていて車を使えばピュッと行ける所でも、歩いてみると違うというか。距離を体感することって大事だなと思っているんです」
千葉「見える景色も全然違いますし、季節を肌で感じたり、いろんな発見がありますよね」
後藤「そうなんですよね。だから、走ってみるのはいいなと思ったんです」
千葉「すごく手軽ですし、シューズさえあればドアを開けるとそこが練習場なので。その手軽さがマラソンの好きな所のひとつですね。マラソンを引退した後、他のスポーツも何度かトライはしたんですけど、それをするためにすごく遠くへ行かないといけなかったり、仲間を集めなければできなかったりとか、私は面倒くさがりやなんで、いろいろと大変だなと思って。走ることは、空いた時間にササッとできたり、一人でも大勢でも臨機応変に楽しめるのがいいです」
後藤「最近は、練習会をしたり講演活動をされているんですか?」
千葉「そうですね。スポーツ解説だったり、指導をさせていただいたり幅広く。スポーツで世の中を明るく元気になれるような活動をしています」
後藤「いいですよね、スポーツ。今は世の中に大変なことが起きてしまって、今まで通りにできないことも多いですけど、そんな中この前のサッカー(チャリティーマッチ)とか見て勇気付けられたりしました」
千葉「そうですね。みんなで頑張っていこうという絆が深まりましたよね」
後藤「震災の影響で、各地でマラソン大会も中止になったりしてましたね」
千葉「そうなんです。余震も続いたので、人を集めることが危険という判断もありましたし、マラソンなんかは、警察の方や警備や救護の方が被災地へ支援に行かれていて、ボランティアが集まらないとか、給水の水がないとかも影響していたようですね」
後藤「そういうことなんですね。その事情は、想像してみないとわからないですね」
千葉「現場の人しか、わかりえないかもしれないですね。傍から見たら全然できるのにって、思われているかもしれないですけど」
後藤「そうですね。お祭りなんかも、警察や救護のテントも必要ですもんね」
千葉「この前も募金活動を初めてやったんですけど、警察に届けを出さないとダメとか全然知らなくて」
後藤「場所によっては、そういうこともありますよね。千葉さんは高校から陸上を始めて、それをずっとやっていこうってそのときから思っていたんですか?」
千葉「高校生から始めて、3年生の進路を決めないといけないときに、大学からも陸上での推薦をいただいたんですけど、私は不器用なタイプでひとつのことに集中して頑張りたいタイプなので、勉強と陸上の両立が私には合ってないのかなと思って。陸上1本で生きていきたいなと思ったので、陸上が続けられる実業団に進んだんです。実業団に進んでも、実力がなければクビになる世界で、運良く活躍できたので長く続けることができたんですけど。ずっと陸上の世界に生きてきたので、周りのことがよくわかってない部分も多いんですよ。陸上の世界は、高校生の延長のような感じで、周りの人がいろいろお世話をしてくれたり、一応社会人なんですけど、海外合宿も多く、社会生活と切り離されている感じがします。旭化成と豊田自動織機っていう二つの会社に在籍させていただいた経験があるんですけど、それぞれ監督さんによって指導方法も違っていて。旭化成のときは、会社にも出勤するチームだったんですけど、私は会社に行ってもほとんど仕事はしていなくて。豊田自動織機のときは、全く会社には通わなかったんですね。小出監督の指導論の中にも、<パソコンはやってはいけない>っていうのがあって、<パソコンをやったら夜中までのめり込んで疲れるから>っていう思い込みのような(笑)ルールがあって。社会のことを全然わかっていない自分がいたりして、本当にお恥ずかしい話なんですけどね」
後藤「そういう世界なんですね」
千葉「そういう独特な世界ですね。門限は、21時とか、22時には寝ていてというような規則正しい、高校生のような生活をずっと送っていたんです」
後藤「トップアスリートっていう世界なんでしょうね、それが」
千葉「生活の乱れっていうのが、競技にものすごく影響する種目なので」
後藤「ストイックですね。マラソン選手ってそういう感じなんですね」
千葉「修行僧みたいな感じに近いですかね。人それぞれだとは思うんですけど、私はストイックにやっていました」
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千葉真子 -PROFILE-
1976年7月18日、京都府宇治市に生まれ、立命館宇治高で本格的に陸上を始める。1995年に旭化成に入社、1996年4月に1万メートルで日本新記録(当時)をマーク。同年アトランタ五輪1万メートルで5位入賞。1997年1月、東京シティーハーフマラソンで1時間6分43秒の日本最高をマークした、同年アテネ世界選手権で日本人トラック初となる1万メートルで銅メダル獲得。その後、マラソンへ転向し、2003年パリ世界選手権のマラソンで銅メダルに輝き、トラック、マラソン両方でメダルを手にした。2006年に現役選手を引退。以降、ゲストランナーやスポーツコメンテーターなど幅広く活躍中。
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