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(2011.04.29)
千葉真子 ×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤正文が同世代のゲストを招いて話をしていく同世代対談「TALKING ABOUT THE X」。3回目となる今回のゲストは、オリンピック出場経験もあり、数々の大会でメダルを手にしてきた元陸上競技選手で、現在はゲストランナーやスポーツコメンテーターなど幅広く活躍する千葉真子さん。マラソン選手ならではのストイックな過去のお話から、意外な一面、そしてスポーツを通して千葉さんが広めたい夢など語っていただきました。ランニング・ブームの昨今、初心者に向けたアドバイスもいただき、後藤も今年はマラソン・デビューをするとか、しないとか!?(文・構成/only in dreams編集部)

後藤正文「同世代のいろいろなジャンルの方々とお話できればと思って、今日は千葉さんをお招きしました。スポーツ選手の方とこうやってお話するのは初めてで、楽しみでしたけど、緊張しています(笑)」

千葉真子「私でよかったんでしょうか?(笑) よろしくお願い致します。後藤さんは、一番好きなスポーツは何ですか?」

後藤「野球ですかね。昔野球をやっていたんですよ」

千葉「そうなんですか。いつ頃ですか?」

後藤「中学生から高校生にかけて。甲子園を目指して頑張っていたんですけど、田舎町の野球部のベンチを温めていたんです(笑)」

千葉「(笑)」

後藤「野球の才能はなかったみたいです(笑)」

千葉「音楽はいつ頃から始められたんですか?」

後藤「野球を終えてからですね。それまで、あまり音楽に興味がなかったんです。18歳のときに初めてギターを買いました」

千葉「なんか、意外ですね。もう少し早くからやっていたのかと思っていました」

後藤「よく言われますね。ミュージシャンは、昔からやりたかったって人が多いですけど。僕は、高校野球で甲子園の夢も叶わず野球がなくなっちゃったんで」

千葉「野球という、今まで高校生活の中心になっていたものがなくなってしまったんですね」

後藤「そうですね。今から思うと、基本的にそういう構造じゃないですか、高校野球とかって。みんな、ものすごいのめり込んで野球をやって、高校3年生の夏を終えて、ポッカリと穴が空いてしまう。僕もそれと同じで。そのときに、たまたま音楽があって始めたんです」

千葉「たまたまあったんですか?(笑)」

後藤「本当にたまたまです(笑)。友達からCDを借りて、その何枚かにグッときました」

千葉「グッときた曲とかジャンルは何だったんですか?」

後藤「当時グッときたのは、イギリスやアメリカのロック・ミュージックですね。その当時は、ロックスターみたいな音楽じゃなくて、イギリスで言ったら労働者階級っていうか、働いても働いてもお金にならなくて生活保護を受けているような連中の中から、すごいバンドが出てきたり。アメリカで言ったら、ベックとか。"僕は負け犬だ ほら殺せ"みたいな歌で。当時のアメリカの若者のメンタリティを歌ったようなミュージシャンが出てきて。僕は、それに勇気付けられたっていうか、波長が合ったんですね。自分も野球を終えて、何にもないやって気分だったので。スポーツをやって得た物もたくさんありますけど」

千葉「スポーツで得たものって、例えば何ですか?」

後藤「僕は、チームプレイの競技だったから、補欠から見た人間関係とか、今でも活きている気がしますね。中学校まではレギュラーでやっていたんですけど、高校に入ってからは補欠になって。そこから見える人間関係というか」

千葉「なるほど。人の痛みがわかるというか。私自身も競技をやってきて、いいときばっかりではなくて。いい時期は本当に一握りで、十分の一くらいでしたから。あとは怪我とか全然走れないってことが多かったんで、やっぱりそういう挫折だとか落ち込んでいた時期に、大事なことを気がします。人の弱みとか自分自身の弱さとも向き合って、弱い人の立場に立つことでやさしい心を学べて、思いやりの気持ちを持てるようになりました。メダルを取るとか速く走るとか以上にすごく勉強になったし、心が豊かになれたかなって感じてますね」

後藤「そうですね。例えば、野球とかチームメイトがいて、失敗とか敗戦とかを分かちあえる人達がいるから、ある程度和らげられる部分があると思うんですけど、マラソンって個人競技じゃないですか。そういう気持ちのもっていきどころっていうのは?自分は個人競技をやったことがないので。歌を歌っているときは誰も助けてくれないけど、その気持ちと似ているんですかね?」

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千葉「私は、高校3年生のときに全国高校駅伝に出て第一区を走ったんですけど、私が走れなかったせいでチームが優勝を逃してしまってんですよ。そういう大失敗をして、それが結構トラウマになっていて。高校3年生でみんな最後の大会で二度と帰ってこない時間じゃないですか?自分ひとりの競技だったら、自分がひとり悲しめば済むけど、それなのにチームメイトや先生に悲しい思いをさせてしまって。チーム競技は大変だなって思ったんです。でも、そのとき仲間がいなかったら、そのまま競技を辞めてしまったかもしれないなとも思っています。チームメイトが"また頑張ればいいよ"って励ましてくれたことが、競技を続けていくきっかけにもなったし。それから社会人になって、辛くて逃げ出したいときにもあの失敗をあのままで終わらせてはいけいない。今自分が頑張ることによって、みんなに認めてもらいたいっていうのがあったので、その失敗が心の支えになっている部分もあったりします。マラソンをやり始めて、走っているときはひとりきりだけど、スタートラインに付くまでに監督やチームメイト、いろんな人に支えてもらって、やっとそこに立てる自分がいるんですよ。多分、ひとりきりだったら、スタートラインにすらたどり着けないでしょう。走っているときも、ひとりで走ってはいるけど全然孤独とか寂しいって気持ちもなくて、みんなの代表として走っているんだっていう思いでいます。"ベスト・スマイル"っていう言葉をモットーにしているんですけど、みんなで作り上げてきたマラソン・レースを走り終わった後に、みんなで最高の笑顔で喜び合えたらいいなって願いを込めた言葉なんです。ロックも、歌われるときはひとりかもしれないけど、バンドのメンバーやスタッフと一緒になって共有するっていうのはあるんじゃないですか?」

後藤「そういうのはありますね。けれど、一緒に音楽を鳴らす、合奏するって難しい部分もあります。人のことを構っている余裕があるのかって言ったらないときもあるし。難しいところがありますね」

千葉「一緒に奏でるっていうのは、音で対話をするって感じなんですか?」

後藤「本当にすごい人達はそうゆうふうにやっていると思いますね。どういう音を鳴らしているかを聴き分けあって」

千葉「何も言わなくても通じるみたいな?」

後藤「言葉は排除しているんじゃないですかね。感じるままにやっていけば、そういうことになるっていうか。言葉の代わりに鳴らしているような人達もいますね。自分達のバンドもそうなるのが理想ですけど、どこまでできているかどうかはわからないですね。でも試みてはいます」

千葉「自然にできているんでしょうね」

後藤「どうなんでしょうね。演奏中に話し合ったりはできないので」

千葉真子 -PROFILE-

1976年7月18日、京都府宇治市に生まれ、立命館宇治高で本格的に陸上を始める。1995年に旭化成に入社、1996年4月に1万メートルで日本新記録(当時)をマーク。同年アトランタ五輪1万メートルで5位入賞。1997年1月、東京シティーハーフマラソンで1時間6分43秒の日本最高をマークした、同年アテネ世界選手権で日本人トラック初となる1万メートルで銅メダル獲得。その後、マラソンへ転向し、2003年パリ世界選手権のマラソンで銅メダルに輝き、トラック、マラソン両方でメダルを手にした。2006年に現役選手を引退。以降、ゲストランナーやスポーツコメンテーターなど幅広く活躍中。
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