1.Arca『Arca』
ビョーク『Utopia』への共同制作者としての参加や坂本龍一『async』のリミックス盤への参加などでも注目を集め、乗りに乗っているアルカのキャリア最高傑作。セルフタイトルにも、その自信のほどが表れているように思います。繊細でミニマルなドローンの束の上に、アルカ自身の歌声が載せられた一曲目「Piel」の深々としたサウンドにはうならされました。ノーブルな電子歌曲集といったたたずまい。
2.坂本龍一『async』
来年でキャリア40年を迎える坂本龍一さんのソロ最高傑作。傾倒する映画監督アンドレイ・タルコフスキーの作品世界にインスパイアされた「架空のサウンドトラック」というコンセプトもあり、イマジネーションあふれる映像喚起的な楽曲が並びます。落ち葉を踏みしめる足音や雨の音など、楽器に限らずどんな種類の音であれ、魅力的な音響さえあれば「音楽」は生まれるのだという、原初的な音楽のあり方を、あらためて思い出させてくれているように思います。
3.Bjork『Utopia』
前作『Vulnicra』から参加していたアルカとのコラボレーションを、さらに本格化させた本作は、ビョークのキャリアの中では2001年の『Vespertine』以来の大傑作に。アルカ『Arca』と対をなし、2017年を代表する「顔」のような作品だと感じます。ビョーク自身がアレンジするフルートのアンサンブルは非クラシック的で、尺八や能管と聴きまごうような東洋的な響きを感じさせるのが印象的。また、鳥の鳴き声や風の音など繊細な自然音のさざめきは坂本龍一『async』とも通じるものがあります。
4.JJJ『HIKARI』
Fla$hBackSでの活動でも知られる若き日本人ラッパーJJJのセカンドソロアルバム。シティポップス的な響きで広いリスナー層にアピールしそうなオープニングトラック「BABE」もさることながら、ジミ・ヘンドリックス「If 6 Was 9」のノイズギターとジェイムス・ブラウンのヴォイスを大胆にサンプリングした「EXP」が白眉。ジミが生き延びて最晩年のファンク路線を推し進めてヒップホップをやっていたら、こんな風だったかもと思わせるほどに。
5.Prodigy『Hegelian Dialectic』
半世紀近くにわたるヒップホップの歴史の中で一番好きなモブ・ディープのMC プロディジーの遺作。「ヘーゲル弁証法」なる意味深なタイトルの本作は、続く三部作の一作目という位置づけだったようですが。残念ながら彼は今年6月に42歳の若さで亡くなってしまいました。まるで死期を予感していたかのような幽玄でミステリアスな雰囲気のバックトラックが印象的。トランプ政権批判の「Mafuckin' U$A」は最後の抵抗だったのか。
6.Jamire Williams『EFFECTUAL』
ロバート・グラスパーのバンドにも参加していたジャズドラマー ジャマイア・ウィリアムスのソロアルバム。ヒップホップやテクノ以降を感じさせる超絶テクニックのドラミングのみならず、音響的なアレンジを施した音楽的なトラックからは、総合的な音楽家としてのジャマイアの構成力を感じます。ドラムソロ主体ながら、アルバム一枚飽きることなく聴かせてくれる一枚。
7.Bullsxxt『BULLSXXT』
2015年の国会前デモの主役の一人としても注目を集めたUCDこと牛田悦正さん率いるヒップホップバンドのデビューアルバム。ディアンジェロ以降を感じさせるネオソウルやジャズ解釈によるクールなバンドサウンドと、ポリティカルでストレートなメッセージが印象的。4曲目「Sick Nation」の「広島、長崎、沖縄、福島…犠牲の上に立ち何を求めるのか?」「一人一人孤独に思考し判断しろ」というパンチラインからは、聴く度に様々なことを問われている気がします。
8.Phew『Light Sleep』
80年代初めの坂本龍一さんらとのコラボでも知られる歌姫 Phewの久しぶりのスタジオアルバム。スーサイドやジャーマンロックなどを思わせるミニマルで中毒性のあるマシンビートと、ニコを思わせるような深々とした呪術的なヴォーカルも健在。
9.Chuck Berry『Chuck』
今年3月に亡くなったR&Rの創始者チャック・ベリーの遺作。近年はストレートに「ロック」と呼べる作品を聴くことも少なくなり、まさか2017年にロックど真ん中の彼の作品を年間ベストに選ぶことになろうとは思いもしませんでした。とにかくリアルでエッジの立ったギターサウンドが素晴らしくて震えます。50年代の全盛期よりも良いのではと思えるほど。
10.高橋悠治『サティ:新ピアノ作品集』
79歳になるピアニスト 高橋悠治さんの約40年ぶりのエリック・サティ作品の録音。かつてサティ・ブームを牽引した70年代のドライで即物的な演奏からは一変し、テンポが大きく揺れるしっとりとロマンティックなピアニズムに変貌していることには驚かされました。新たなサティ解釈のスタンダードになるのではとさえ感じさせる名演。
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会社員 1973年生まれ