1.坂本龍一/Alva Noto/Bryce Dessner
『The Revenant』OST
グラミー賞にもノミネートされた映画「レヴェナント:蘇りし者」のオリジナルサントラ。分かりやすいメロディーに頼ることなく「響き」や「音色」のみで構成され、劇中の風の音や水の音と測り合うかのような静謐で抽象度の高い音響作品。それにも関わらず、非常にエモーショナルな音楽でもあるあたりは、教授ならではの手腕ですね。かつての「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」をも超える、新たなキャリア最高傑作が生まれたと確信しています。
2.UA『Japo』
先行公開された「AUWA」のシャーマニスティックなサウンド聴いた時点で、もの凄いアルバムになろうと予感はしていましたが。その予想を裏切ることなく、ゼロ年代の『泥棒』『SUN』といった彼女のキャリアの転機となった傑作をも凌駕するクオリティに。世界各地の民族音楽の要素を援用しながらも、単なる借り物に終わらず、彼女でしかあり得ない有機的なサウンドとして昇華されています。
3.KOHH『Dirt ll』
ヘヴィなギターサウンドをフィーチャーした「Dirt Boys ll」「Die Young」といったトラックを聴いて思わず連想させられたのは、10代の終わりにリアルタイムで出会ったニルヴァーナのこと。果たしてこれらが、いわゆるヒップホップなのかどうかは置くとして、今一番ライヴを観てみたいアーティストの一人です。宇多田ヒカルが新作『Fant?me』の収録曲「忘却」でKOHHを招聘したのは慧眼かと。
4.Radiohead『A Moon Shaped Pool』
個人的に、前作『The King Of Limbs』があまりに好きだったこともあり、そう簡単に前作を超える作品など出てこないだろうと高をくくっていましたが。またまた驚きの最高傑作の誕生でした。とりわけ、どこまでも内省的で美しいバラード曲「Daydreaming」は白眉。これを聴きながら夜の街を歩きまわっていると、まるでPVのトム・ヨークになったような気分に。
5.Brian Eno『The Ship』
70年代以降40年以上にわたり、独自のアイデアに満ちた音響作品を発表し続けているブライアン・イーノ。本作は、少なくとも90年代以降の彼の作品の中では、最もコンセプチュアルで求心力に満ちた傑作でしょう。今年1月に亡くなった盟友デヴィッド・ボウイへの荘厳なレクイエムであると同時に、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「I 'm Set Free」のカバーからは、2013年に亡くなったルー・リードへの追悼の意も感じられます。
6.David Bowie『★(Blackstar)』
今年1月10日の衝撃的な訃報のわずか3日前に発表されたこともあり、その事件性ばかりが強調されがちですが。本作は彼の遺作だから重要なのではありません。70年代以降、数十年ぶりの彼の新たな最高傑作だったからです。ヒップホップやテクノに影響された新世代の若手ジャズミュージシャン達にも支えられ、これまでにない最新型のロックアルバムが生まれたことは、彼の訃報に勝るとも劣らない不意打ちでした。
7.Danny Brown『Atrocity Exhibition』
2011年デビューの気鋭ラッパーの第3作目。個人的に、今年出会った音源の中でも最も「異物感」が強く、これまで聴いたことがない刺激的な音楽でした。収録曲では、昨年度からシーンを席巻したケンドリック・ラマーとのコラボでもある「Really Doe」が最大の聞きもの。どす黒い瘴気にあてられるILLな一曲です。
8.Paul Simon『Stranger To Stranger』
ポール・サイモンが86年に南アフリカのミュージシャン達と作り上げた傑作『グレイスランド』の系譜を汲む新作。刺激的な音色やリズムからなる無国籍的な音楽は、更にアップデートされています。今年75歳の彼が、これだけみずみずしく新しい音楽を作り出したことは本当に驚きで。直後の引退宣言も含め、もう一枚の『★(Blackstar)』といった印象。
9.Gotch『Good New Times』
説明不要のGotchのセカンドアルバム。打ち込み主体で作られた前作『Can't Be Forever Young』を、ステージ上で再現するツアーの延長線上で生まれた、とても肉体的な音楽。個人的には、打ち込み主体だったトム・ヨーク『The Eraser』を、バンドサウンドで再現したAtoms For Peaceのことを連想させられたりもしました。
10.SALU『Good Morning』
多彩なゲストを迎え、従来と比べ格段にカラフルでポップな仕上がりとなったラッパー SALUの第5作。注目すべきは、本人も自信作だと語る「Nipponia Nippon」でしょう。「たまに本当に心配だよ日本」に始まり、「じゃあ何が出来る?」と繰り返す真摯なリリックは、Gotch『Good New Times』とも共振しているように感じられます。
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BIO
会社員 1973年生まれ