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鈴木 絵美里 が選ぶ2016年 ベストアルバム

ハンドルを放す前に─ OGRE YOU ASSHOLE

Many Shapes─ Taiko Super Kicks

Don't Know Where It Is─DYGL

23区─ bonobos

Sing Street O.S.T─Various Artists

Pushin'─STUTS

COLD DISC─ストレイテナー

GOTTA-NI─ 二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band

SUPERFINE─冨田ラボ

ソルファ (2016)─Asian Kung-Fu Generation


2016年は小沢健二の「魔法的」やくるり「NOW and 弦」など印象的なライブをいくつか体験できた一年でしたが、それらと並び、自分的・今年一番のライブ体験のひとつだったのがOGRE YOU ASSHOLEが山梨県甲府市の「桜座」という芝居小屋で行ったライブ。この「ハンドルを放す前に」のリリースツアーの一環でした。今の彼らの音楽が都会から離れたところで暮らし制作しているからこそ生まれてくるものであることは確実で、その音の一粒一粒を、東京よりも冷たい空気の漂う、音の良い畳空間で体験できたことで、このアルバムへの理解が少しだけ深められたような気がしています。

東京の4人組、Taiko Super KicksはファーストE.P「霊感」からとても好きで愛聴していましたが、2015年最後の1週にリリースされたこの作品がまた格別で、2016年を通して聴き続けました。音も、彼ら自身の佇まいにも、心の落ち着きどころを感じるような、自分にとって非常に“ちょうどよい温度”を感じるバンドなのですが、なんといってもボーカルの伊藤くんによる詩が…!このバンドの“文学的ちょうどよさ”とでもいうようなものを纏め上げている気がしています。まだ聴いたことのない方は是非。ジャケットも素敵で、LPで持って家に飾りたい。

昨年一世を風靡したYkiki Beatのメンバー3人を含む4人組、DYGL(デイグロー)のファーストリリースは、今年とても嬉しかった出来事でした。彼らは現在アメリカと日本を行き来しながら制作やライブを続けていて、そのスタイルだからこそ本場の空気をパッケージできる、という証明とでもいうような1枚。今年自分もニューヨークに行った際、たまたまタイミングが合い彼らのライブを観ることができ、現地のライブハウスやそこにいる10代、20代の雰囲気丸ごと、楽しませてもらいました。1のオウガユーアスホールしかりですが、東京にこだわらない音楽家がさらに増えることを願いつつ。

…と、東京にこだわるとかこだわらないとか書いておいてあれですが、bonobosの「23区」はまさに“東京”の今を体現するバンド像が刷新されたような、感動を覚える1枚でした。前作「HYPER FOLK」も本当に素晴らしくて、リリースから2年経っても飽きずに聴いていますが、あの頃のbonobosは“楽団”的要素が強かった。そこから、新メンバーも加入した今作には都会的な香りが盛り込まれ、2016年現在が滲みて出ている、新生bonobosの姿が嬉しいです。夏の終わりに初めて聴いたとき「Late Summer Dawn」がしみました。来世では蔡さんの声に生まれたい。

“洋楽”“邦楽”となるべく分けずに聴けたらいいと思いながら日々過ごしているものの、正直国内の身近なところだけでも素晴しい音がどんどん生まれていて、なかなか追いつかないのが正直なところです。そんななかで今回10枚に絞る中で唯一入れることができた“洋楽”は、ジョン・カーニー監督の映画「SING STREET」オリジナルサウンドトラックでした。80年代のアイルランド ダブリンを舞台にバンドを組む高校生たちの青春映画、劇中で流れる当時のUKヒットソングはもちろん、それに影響を受けまくった彼らが作ったオリジナルソングが愛おしすぎる!それをちゃんと収録してくれていて、聴くたびに映画を思い出してニヤニヤ。主人公のお兄ちゃんが劇中で発する名言から始まるアルバム、たまらないです。

STUTSくんは、夏に初めてパフォーマンスを見てすぐに音源も聴き、以来、仕事の作業中など流しています。Alfred Beach SandalやPUNPEEなどのボーカルフィーチャーものもそうじゃないのもアルバム全体の流れが心地よく、とてもかっこいい。STUTSさん、このニューヨークでの路上パフォーマンス動画が話題となりました。↓

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ストレイテナーは10年来の大ファンなので、もうどうしても入れてしまうんですが9作目となる今年の「COLD DISC」は、誰もが歌いたくなるような先行シングル曲も多数入っているものの、アルバム全体としてはかなりコンテンポラリーな印象でした。一方で、10年以上前の彼らを彷彿とさせるような、初期衝動感を携えた曲も混ざっていたりする。カッコイイ大人のバンドになられてきたからこその成熟の1枚、という感じで、いやはや確実に、ますますこれからも、好きです。

ニカさんとGentle Forest Jazz Bandの豪華な歌謡アルバムは、家で夜にかけているとまるで大人のためのよき子守唄のように、心を落ち着けてくれます。ビッグバンドの豪華なふかふかの演奏とともに、日常の全部がニカさんの歌のパワーでひっくるめられていくのを感じるのが本当に心地よい時間。年末年始にもぴったりなのでこれから聴いてくれる方がまた増えたらいいなという想いも込めて。

冨田ラボの新作は、毎度のことながら「東京の今!!!」が詰め込まれていて洗練されています。Suchmos YONCEによる「Radio体操ガール」やコムアイ嬢の「冨田魚店」、cero高城さんの「ふたりは空気の底に」など豪華なボーカルを“フィーチャー”しながらも完全に彼・彼女らの個性を150%くらい活かしきっていて冨田ビートがたまらぬ感じです。

そしてこの2016年を締めくくるのはもちろん我らがアジカン。学生時代の終わりに聴いていた「ソルファ」という作品に、12年経ってこういった形で触れ合えるとは…感動です。先日、横浜の匂いのあるなかでこの作品を聴いていたら、いろいろな記憶がぶわっと蘇ってきて、やっぱり音楽ってすごいなと思いましたし、音楽をずっと聴き続けてきたからこそ、こうしてまた“今年のソルファ”に巡り会えるということが奇跡のように愛おしい、と感じました。


Profile

鈴木 絵美里

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WEB
Twitter:@emr_81

BIO
ディレクター・編集者として広告代理店、出版社にて10年間の勤務の後、独立。現在はWEB、紙、イベントを軸としたコンテンツの企画編集および執筆に携わっています。後藤さんにはTHE FUTURE TIMES編集部でも、いつもお世話になっています!


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