特異年というがあると僕は思っていて、なぜか歴史的事象が頻繁に起こる転換点の年のこと。
今年2016年は確実に歴史が動いた特異年だ。未来から見て、確実に歴史の転換点だと言われる年だったと思う。世界でも日本でも、あらゆる社会の今まで信じてきたあらゆるモノがどんどん“不確か”になっていってる。それは芸能界でもマスコミ業界でも起こったし、それは僕個人の人生にも影響して、22年も在籍したTBSという放送局を退社したし。
そんな“不確か”な世界の中で、だからこそ音楽が持つ“確かさ”が、僕らを勇気付けて欲しいと心の底から思っている。
2016年は特にそんな“確かなアルバム”が多かった気がする。
何年かぶりに復活したり、過去を再解釈したり。新しい曲を出して、売って、もしかしたらヒットして、という今までの“不確か”な音楽ビジネスとは違った、ミュージシャンの方々の素晴らしさと、生み出された音楽の“確かさ”を再確認させられたような年だった。懐古モードとも言えるけど、それは今までのリバイバル的な感じではなく、音楽の再生というか。かつて聞いていた過去の思い出を懐かしく感じつつ、人生の新たな萌芽と出会うでも言うような。
すごく稚拙な言い方だけど、僕は世界が平和になるために、音楽は存在していると思っている。
だって音楽聞いてると、楽しいから。落ち込んでる時、大好きなロックンロールを聞いてると、勇気が湧いてくるから。苦しい時、大好きなミュージシャンの曲を聞いてると、なにくそ、やってやる!って自分が再生するから。
不確かな世界で、音楽は確かな未来だと思う。
「Blackstar」 David Bowie
今年の初めにズドンと巨星が落ちた。自分の死をも最後の作品にしてしまった男。そのアーティストとしての生き様に哀悼の意を表します。
なんかその後の2016年を暗示したような作品。プリンスも亡くなり、蜷川幸雄さんも亡くなり、僕の人生に多大な影響を与えてくれた人々がたくさん逝ってしまった。そのたびに、自分は生きなきゃって思いながらこのアルバムを聴いた。
「META」 METAFIVE
最初に「Don't Move」の動画を見た時、「なんだこの洋楽は!」って思った。80年代のロバート・パーマーみたいで、めちゃめちゃ(メタメタ)かっこよくて学生時代を思い出した、高橋幸宏さんだし、小山田圭吾さんだし、まりんさんだしってのもある。かっこいいオトナが本気出しました、ってオトナの本気度がすごくカッコイイ。自分の主催した最後の【オトナの!フェス2016】に出演していただいた。
「A Moon Shaped Pool」Radiohead
5年ぶりのレディオヘッドの新作。僕は好き嫌いは別にしてレディオヘッドって“難しい”って思っている。今年のサマソニでライブを初めて観た。マリンステージの皆が全員熱狂していた。僕も熱狂した。この難しい音楽に皆が熱狂するって現象が、すごい可能性を感じるのだ。難しいを敬遠しない。それってこれからの重要な鍵だと思う。
「Weezer(White Album)」Weezer
待ってました!って感じで待ってたアルバム。今度は白い!
元気が出て、気持ちいい。ガンガンかけちゃうアルバム。Weezerはどのアルバムもイイけど、僕はこのアルバム過去にも比べても、とってもイイと思う。最新作が最高傑作ってのが、さらに気持ち良さを増す。歳を取るのは悪くないのだ。
「Light Upon the Lake」Whitney
今年新しく出会った数少ないアーティスト。そう言えば、他にいたかな?(ピコ太郎くらいかな)。
年の後半は、ずーっと聴いていたヘビロテアルバム。すごく気持ちイイ。そして懐かしい感じがするサウンド。これは僕が歳を食ったからなのか、世界が歳を食ったからなのか。
「Tの肖像」 岡田徹
2016年が活動40周年の敬愛するムーンラーダーズのキーボーディスト岡田徹さんの初ボーカルアルバム。ライダーズの名曲も何曲か収録されていて、1998年発表の名インスト曲「月面讃歌」の作詞を、なんと僕がさせていただいたのだ。初めて彼らの音楽に出会って以来の30年の夢が叶う。詞なんて書いたことない。書けるかなって思ったけど、やってみたら15分で書けた。
「昨日、夢を見た 明日と同じ夢 暗く静かな月面で 僕は跳ねてる
星がまたたかず 風も起こらない そんな砂の月面で 僕は寝ている
もしも僕たちが この惑星で いつか尽きるとしても 月を見てるよ
キミはボクを、今も好きでいるのかい?
ボクはキミを、ずっと好きでいるんだよ!」
最後の2行のサビの部分は、楽曲ではスカートの澤部渡さんの口笛になっています。脳内で、変換してください(笑)。
書くのに15分でも、30年間想い続けていたとも言えるかな。
「Blue & Lonesome」The Rolling Stones
年末になって、なんと11年ぶりのストーンズの新作。
もう新作出ないのかな?って思ってた。そしたらなんと彼らの原点とも言えるブルースのカバーアルバム。まだ1週間ぐらいしか聞いてないけど、ミックに子供も生まれて、やっぱりストーンズはこれからもガンガン行って欲しいのだ。そんな2017年への再生の期待も込めて。
「マンガをはみだした男 〜赤塚不二夫〜」オリジナル・サウンドトラック」 U-zhaan
赤塚不二夫さんのドキュメンタリー映画のサントラ。まず映画が素晴らしかった。その時の感想をフェイスブックに書いていた。
「5月6日、映画『マンガをはみだした男〜赤塚不二夫』観る@ポレポレ東中野。凄かった!!彼を知る方々は彼が芯では真面目だったと言う、それが最高のギャグマンガと破天荒な人生を産んだと。自分に芯の真面目さが足りないのだと痛感する。
アフタートークは京極夏彦さん。かなり面白かった。彼が赤塚フリークなのを知らなかった。水木しげるさんとの共通点と相違点の話がかなり興味深い。
そして2人の傑物を産んだのは戦争の原風景。その原風景が彼らの作品を傑出したものにしてるという。」
そして、音楽が良いのだ。U-zhaanさんのタブラ奏でる無国籍サウンドが気持ちよくて、BGMにすると書物作業がはかどるはかどる!
惜しむらくは、劇伴なので一曲一曲が短いのと、エンディング曲のタモリさんボーカル曲が入っていないこと。このタモリさんのインチキ外国語がこれまた無国籍で素晴らしかったのです。
「ソルファ」 Asian Kung-Fu Generation
アルバムを再創作しちゃうってのは、ライブで毎回違うアレンジで音楽を楽しもう、ってこととすごく共通点を感じる。もっとシンプルに音楽を演奏しよう、楽しもうって原点回帰になっている気がするのだ。 「今の最高のアレンジで聴かせてやるぜ!」って感じ。まさに音楽を再び生む=再生する。
そしてこの「新ソルファは」12年前の原曲と比べて、すごくアレンジが進化しているし、かっこいい。いや、12年前も勿論いい曲だけど、ものすごく洗練されている。なんか、この音楽の楽しみ方ってロックだと思うのだ。むしろ新しい。
ゴッチがどっかの番組で言ってた「新作を生み出すことだけが音楽じゃない。」
つまりスタンダードナンバーを持つこと.
これって音楽だけでなく、これからの未来の生き方全てにもすごく通じるところがあると思うのです。
「再建設的」 いとうせいこう&リビルダーズ
2016年の音楽の“再生”の象徴だったのが、このいとうせいこうさんのデビューアルバム「建設的」の30年を祝したトリビュート盤の「再建設的」。
並み居るミュージシャンがせいこうさんを寿ぐ。
せいこうさん曰く、30年前の1986年、世間ではヒップホップとは破壊的な音楽だと思われていた、そんな時にあえて建設的なヒップホップがあったっていいじゃないか!と作ったアルバムだそうだ。
そして最初に書いたように2016年は特異年だ。どんどん既存のものが壊れていくそんな不確かな時代、あえて「再建設的」とのテーゼを投げかけるいとうせいこうに僕は尊敬を覚えてならない。
僕が最初に「東京ブロンクス」を聞いたのは、30年前の1986年ではもちろんなく、2013年に開催した第1回目の【オトナの!フェス】。最後にライムスターの「ONCE AGAIN」を皆で歌う時に、せいこうさんパートを相談した時、
「”東京ブロンクス”をやろうと思う。震災以後、またこのラップの歌詞が、重なるんだよ」とおっしゃっていた。
「崩れたビルから ひしゃげた鉄骨 壊れ果てたブティック
何日寝たのかわからない 壁にスプレー 誰かが残した"NO FUTURE IS MY FUTURE"」
多分、震災を経験して、僕らはこの歌詞を以前の発表時の世紀末的バブル的80年代の意味で聞くことはもはや、無いんだと思った。
この「再建設的」の「東京ブロンクス」は、すごく再生的で、本当に建設的だ、いや再建設的だ。
全てのものは、壊れても、破壊されても、また再生されるのだ。
僕たちは、そんな破壊と建設を繰り返して、生きていくんだ。
そんなせいこうさんからのメッセージに聞こえる。
僕らは、これからの未来を”再建設”するのだ。
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BIO
バラエティプロデューサー
著書「最速で身につく世界史」「成功の神はネガティブな狩人に降臨する-バラエティ的企画術」「究極の人間関係分析学カテゴライズド」「オトナの!格言」発売中!
"cakes"にて「世界はすべてバラエティになる」連載中!
"水道橋博士のメルマ旬報"にて「テレビの果てはこの目の前に」連載中!