五味岳久(LOSTAGE)
×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
五味
「うん。お金もなかったんすよ。全然。でも借金してもいいよと。だからほんまに、まずは今までやってきたやり方をモデルに、それを真似してやってみて。そこでおかしいと思うことがあったら、次にやる時にやらなければいい。一回失敗してもいいやと思って。ただ、あんまお金のこと考えてなかったから、どんどんどんどんマイナスになって、ヤバいなっていう時もありましたけど(笑)」
──ぶっちゃけ、どれくらいかかるものなんですか。
五味
「エンジニアは前やってもらったKJって奴に頼んだんですけど、彼に支払ったお金、っていうか彼が所属してる事務所に支払ったのが今回60万くらい。で、それとは別にレコーディングする場所に払うお金も必要で。普通はスタジオ借りるけど、僕らお金ないから地元のライブハウスでやったんすよね。そこは安くしてもらったんですけど。あとはマスタリングに8万とか。すごい具体的な話ですけど、でもやる前はそんなにかかると思ってなくて。しかも最初のの時点でバンドの貯金が60万なかったから(笑)」
後藤
「でも、60万だったら安いほうだと思うんだけど」
五味
「うん。そのKJも、前にやってもらった関係性があるし、まぁ強引に頼んだっていうか。僕らがKJに払った金額と他のバンドが払ってる金額、その相場って違うと思うんですよ」
後藤
「それってあんま触れちゃいけないとこだよね(笑)。でも多分違うよね」
五味
「そういうことも、やりながら一個ずつわかっていきましたね」
──そうやって音源を完成させた後は、ジャケットのデザイン、広告、プロモーションっていう作業が出てきますよね。
五味
「そうっすね。あの……僕お金の話しかしてないみたいでアレですけど(笑)、やっぱ人に頼むとお金かかるじゃないですか、デザインも。だから自分でやろうと。たまたま似顔絵の展示とかやらせてもらったから、今やったら僕の描いた絵でもいいんちゃうかと思って。それで自分で作ったんですけど、結局僕ら、基準が全部お金になってるんですよね、今は」
後藤
「なるほどね。でも、自分たちの音楽を自分たちで売る、お金の計算をするっていうの、俺はあんまり想像がつかないっていうか。逆にタッチしたくない、みたいなところもあって。実際にやってみてどうだった?」
五味
「まだ発売してないから何とも言えないけど、ただ、自分でやるって決めた時から変化があって。今までは音楽を作ってる自分がいて、それを売るための人が周りにいたわけじゃないですか。でも今は自分の中に、音楽を作る自分と、それを売る自分がいるっていうか。そのバランスをコントロールしきれてない部分もありますけど、二つの役割を自分の中に持つことで、逆に前よりスッキリした。売るためにやることをこれだけやれば、そのぶん音楽に集中できるっていう」
後藤
「なるほどね」
五味
「すごい健全、健康になったと思う。前は『あいつ、俺の作った音楽売るために何やってくれてんのやろ?』とか……まぁ実際言わないですけど、『そのやり方はどうなん?』っていうのは少しあったんですよね。そういうのが一切ない。自分の中に両方あるから、もう必死で作ったら必死で売るしかないし。あんまりそこにストレスはなくやれたのかな。逆に、今まで人にやってもらってんのが、ちょっとこそばい感じがしてたんですよね」
後藤
「逆に良かったんじゃない? 性格的に。自分でやって不健康になる人も絶対いるから。俺とかは自分のはやんないほうがいい性格だと思う」
五味
「あとは規模の問題もありますね。僕らぐらいの規模やと、シール作って送ることとかも、なんとか、めんどくさいけどなんとかなる範囲で。アジカンだともう無理じゃないですか。じゃあ次から自分でやるっていうのは」
後藤
「でもみんな、ロックバンドは最初全部自分でやりたいんだよね。なんでも自分でやりたい。Tシャツとかステッカーとかも」
五味
「そう。それが楽しいっていうのもあるし」
後藤
「いつの間にか自分の手から離れていっちゃう。それってでも望んでないわけじゃなくて……。なんて言うのかな、デカくなっていくと、コントロールできなくなっていく部分を受け入れていくしかないところがある。まぁアジカンもあったよ。最初は俺も同じように、こそばゆいっていうか、言葉悪いけど蹂躙されてるような気分になって。今まで全部俺がやってたんだけど、でもいつの間にか誰かに任せたTシャツを売るようになって、しかもそれがダサいとかディスられて(笑)。どういうことなんだと。そういうのあったけどね」
五味
「でも、チームでやる喜びってありますよね。今回あんまメンバーも手伝わなかったんですよ。みんな普段仕事してるし、僕に任せてくれてたし。それで僕は一人でやったけど、“できた!"っていう時の感動にメンバー間のズレがあって。完成した時の感動を同じように共有できなかった、それが寂しかったというか。だから、たとえば物販作るにも何人ものチームがいるような規模のバンド、その大きいチームをちゃんと回せてるバンドっていうのは、僕が知らない喜びのエネルギーがあるんやろうなって思う。だから今回は自分で全部やったけど、次はもうちょっと共有できるものにしたいっていうか、そっち側に行きたいなって思ったんですよ」
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