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Turntable Films

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後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)─2015.11. 4─


Turntable Filmsとの出会いは随分前だったように思う。2010年かな。「2steps」という曲を聴いて、なんて格好いいバンドなんだ!と驚いた記憶がある。改めてビデオを観たら、なんだこれ!?って感じだけれども。曲は素晴らしい。



その後、『digmeout ART&DINER』の周年イベントで一緒になった。その時はまだ四人組のバンドだった。ギターの井上君は飄々としていながら凛としたところもあり、京都の人という先入観もあって何を考えているのかよく分からず、恐らくJ-POPに片足を突っ込んでいる僕のようなミュージシャンはあまり好きではなかろうと遠慮してしまい、あまり話が盛り上がらなかったように記憶している。ベースの谷君とはいきなり話が合ったようにも記憶している。それは谷君の人懐っこいキャラのせいかもしれない。田村君は今も昔もシャイな印象。井上君からは、ある種の自信のようなものをビンビンと感じた。

そして、まあ、『digmeout ART&DINER』や『FLAKE RECORDS』の周辺でちょこちょこと顔を合わせたり、NANO-MUGENの京都公演に出演してもらったりしながら、谷君とはグングン距離を縮めたんだけれども(結構マニアックなUSギターポップの話などで)、井上君とは相変わらずの微妙な距離感だった。

でも、なんとかいうか、何度観ても彼のギターには吸い込まれるような魅力があった。なので、勝手にファンというか「俺の思う格好いいギタリストリスト(ダサい名前)」に名前を書き込んで、心の奥にそっとしまっておいた。

そのうちにソロをやることになって、パッと頭に浮かんだのが井上君と、当時はシガベッツというバンドをやっていた山本カンジで、そのふたりを誘ってソロアルバムを作った。ひとつ言えば10くらい返ってくるヤツらなので、作業はとても順調だった。結果、素晴らしいアルバムが完成した。

そのままソロはツアーに突入して、井上君にはバンマスを引き受けてもらった。本当に良いツアーだった。アルバムを幾重にもアップデートするような演奏をすることができたのは、メンバー皆の音楽的な能力によるところだけれども、多くを語らないが酒を飲んで打ち解けると底抜けに陽気なバンマス=井上君の力も大きかった。特に事前の準備、アレンジにおいて流石と言わざるを得ない活躍をしてくれて、とても助かった。




さて、時間軸的にはどっちが先でどっちが後かややこしいことになるけれども、その頃のTurntable Filmsはというと、なんというか静かだった。これは端的に僕から見た一方的な印象でしかないのだけれども、『Yellow Yesterday』という決定打のようなアルバムをリリースしたにもかかわらず、思ったよりも静かだった。僕はその年のベストアルバムに彼らの作品を選んだけれど、音楽好きや一部のインディファンの枠を越えて広く受け入れられたかどうかについては、もう少し時間の経過を待たないといけないのかもしれない。



僕が彼らの1stアルバムについて、oidの年間ベストで寄せた言葉はこちら。

Yellow Yesterday - Turntable Films
京都のバンド。本当に素晴らしいアルバム。俺がアントニオ猪木だったら、「迷わず行けよ、行けば分かるさ」と彼らに言いたい、そしてビンタのひとつも張りたい、そういう傑作です。


井上君はこのアルバムの後、ビンビンに漲っていた自信のようなオーラが少し減ったように感じられ、なんというか「猫背」みたいな成分が増えたように僕は思った。現在進行形で素晴らしいギタリストであり、優れたソングライターでもあるのに、どうしてか分からないけれど「あぐねる」という言葉を辞書で引いたらば書いてある通りのような、そんな印象を感じた。こんな良い曲をバンバン書けるのだから、胸を張ってやったらよろしいやんかと僕は思っていたけれども、理想と現実がいろいろと噛み合わないところがあったのかもしれない(思えば、僕の周りはそうして「あぐねた」天才が多い)。


前作から3年と7ヶ月が経って、ようやく世に放たれることになった今作。




行き先はことごとく邪魔が入り
転がる君の背中を見てる
憂鬱な日々に
記憶の庭に沈む
ノートと遠い時刻
風向きを変えるのはもうすぐ
All of my light goes through

"Light Through"


冒頭から、なんだかジーンと涙腺と胸に迫るものがある。

海外エンジニア(サンドロ・ペリ)のスケジュールやリリースの準備もあって、このアルバムは音源が完成してから随分と寝かされることになった。ファンは随分と待ったことだろうけれども、彼らも、ほとんど痺れが切れそうな思いをどうにかやり込めながら、この日を待ったんだと思う。

メロウでスウィート、そしてスマート。フォークからソフトなサイケを包摂した日本語ロック/ポップスという言葉が適切か分からないけれど、ゴリゴリの音圧で埋め尽くされるようにして疲れてしまった僕らの耳や身体を、そっと緩ませてくれるようなアルバムだと思う。丁寧に重ねられた和声と、相変わらずのグッドメロディ。

「風向きを変えるのはもうすぐ」という言葉の通りに、いろいろな場所でこの音楽が鳴ることを祈る。そして、本当に「風向き」は変わるんじゃないかと僕は思っている。

「俺たちは最高なんだ!」と胸を張って演奏して欲しい。



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