青野圭祐─2013.9. 5─
昨年、
『ミュージックシーン』をレコメンドさせていただきまして、自分の
2012年ベストアルバムにも同盤を選出させていただいておりましたメレンゲが約1年ぶりに新作を発表されました!それが今作、シングルの「クレーター」です。
スピッツ
「さらさら/僕はきっと旅に出る」のレコメンドでも書かせていただきましたが、普段僕はoidのレコメンドページでは、シングルよりもアルバムをリリースされたアーティストについて、より書かせていただこうと思っているのですが、今回の「クレーター」も、その自分ルール(??)のようなものを破ってレコメンドさせていただきたい!と思い、今回書かせていただきました(だんだんこの自分ルール、なくなっていくかも知れませんね。苦笑)。
今作、「クレーター」はアニメ『宇宙兄弟』のOPテーマとしてメレンゲ×『宇宙兄弟』のコラボレーションといったように展開されている…のですが、ごめんなさい!現時点で僕は『宇宙兄弟』について、観られておりません。。ですので、今作の曲自体と『宇宙兄弟』がいかに世界観を共有しているかという視点ではレコメンドさせていただくことができません…。
しかし、このメレンゲ×『宇宙兄弟』というアナウンスを聞いた際に、思い浮かんだことがあります。それは、「アニメ『宇宙兄弟』といえばたしか、メレンゲの盟友、フジファブリックがシングル「Small World」で同じくOPテーマを担当した作品では!?」ということでした。oidではなくて大変恐縮なのですが、僕は今年上旬、フジファブリックのアルバム『Voyager』とそれに収録されているシングル曲を他のメディアで特集しておりましたので、「Small World」でOPを担った場所に、彼らの盟友でもあり、(フジファブリックの逝去されたフロントマンの)志村正彦さんと「大親友」でもあった、クボケンジさん率いるメレンゲも曲を提供すると聞いた時は、思わず、なんて幸福な連鎖!と思ってしまいました。
そんな今作「クレーター」の大きなテーマの一つは、まさしく宇宙!
早速、MVの方をご覧下さいませ。
2トーンの白黒の床、機材やおもちゃ、家具が浮かんでいる部屋の中でベッドに寝転ぶクボさんとイスに腰掛けてしたたかにベースを弾くタケシタツヨシさん、少ないドラムセットを叩くヤマザキタケシさん…3人とも、とってもクール!
しかも歌詞に連動するかのように、照明が落ちてプラネタリウムのように光る部屋の演出や最後には物がどんどん吹っ飛んでいって、遂には宇宙空間に投げ出されるクボさん…と映像面でも、これから地球の小部屋から浮かび上がって宇宙探索へ向かうかのようなワクワクした気持ちと緊張が伝わってきます。
サウンドと歌詞については後ほど書かせていただくとして、その前に少しコラム的なものを書かせてください。
『ミュージックシーン』のレコメンドでも書かせていただいたものを、ほとんどそのまま引用させていただきますと、メレンゲと言えば、
海沿いの景色や甘酸っぱい時間、切ない恋心とそれに揺れる感情を、優しく繊細な言葉と外側からは見えにくい場所にハッキリと爪痕を残すようなチクリと刺す言葉で綴り、それをフロントマン、クボさんの紡ぎ出す豊かなメロディ、実直なリズム隊で鳴らすのが持ち味のバンド…なのですが、ここで大事な側面を書いておくことを忘れておりました。
メレンゲの映し出す風景と言えば、海沿いの景色…と、もう一つ大きく描かれる情景、それが今作のテーマでもある宇宙との景色でした。
思い返せば、まだ「メレンゲ」が、クボさんのソロユニットとしての名義だった頃にリリースされていたデビュー・ミニアルバム『ギンガ』もタイトルから直球で宇宙を匂わせるタイトルでしたし、そこに収録されていて、今でもライヴで頻繁にプレイされるリード・トラック的な曲「チーコ」では、"チーコとのことは誰にも内緒 NASAに聞かれても何にも喋らないよ"なんて言葉が出てきて、チーコという謎の人物(生物??)が宇宙からきたものであるかのように描かれています。
インディーの頃にリリースされたシングル「カッシーニ」(後にミニアルバム『少女プラシーボ』にも収録されました)のタイトルは、NASAとESAによって開発された土星探査機の名前からとられています。また、同じく『少女プラシーボ』に収録された「輝く蛍の輪」では、サビの最後で "宇宙の瞬きでキラッ!!" という、思わず嬌声が飛んできそうな必殺(??)のフレーズが歌われています。
メジャーに移籍されて2枚めのミニアルバム『初恋サンセット』には「星の屑」という曲が収録され、この曲は、後にシングル「カメレオン」のカップリングにおいて、インディトロニカ風にリミックスされて再収録されたり、『アポリア』のツアーにおいてアンビエント風に大きく色彩を変えてプレイされていました。
メジャーとなって初めてリリースされたフルアルバムのタイトルは、これまた直球とも言える『星の出来事』。ジャケットも宇宙服を着た人物が映されていて、宇宙との距離を感じさせるものでした。
2ndフルアルバム『シンメトリー』でも「スターライト」という曲が収録されていました。
…と、このレコメンドを書かせていただくにあたって、ザッとメレンゲのこれまでの作品のタイトルや歌詞で宇宙と関係を持っていると思われるものを挙げただけで、かなりの量になってしまいました。ザッと見返しただけでこれだけの量の作品が出てくるので、より緻密に作品ごとに掘り下げて聴いてみれば、もっと多くの関係が浮かび上がるかと思います。
さて、このように宇宙との距離を常に推し量ってきたメレンゲですが、改めまして、今作のタイトルは「クレーター」。既に「惑星」や「星」という言葉を使ってきたからか、「クレーター」というタイトルは一種の変化球のように響きます。
サウンド面はゆるやかなバンドアンサンブルからすぐに一転。一気に宇宙へ向かう飛行船に飛び乗ったかのように駆け抜けるように鳴らされるギターフレーズとそれを支えるリズム隊。メロで一旦落ち着いて、サビでは"夢と現実のプラネタリウム"から"空もない星をみにいく"ために加速していく少年的な衝動に満ちたものです。
こう書くとギターロック的な側面が強いように見えてしまうかも知れませんが、そこはメレンゲ。クボさんの鳴らす、きらめくシンセサイザーの音色が随所で鳴らされ、いつもはミニマルな心の機微をなぞっていた電子音が、今作では壮観な宇宙を映し出す効果音として輝きます。
サウンドの感触としては、『ミュージックシーン』でみせてくれた「夜のメレンゲ」のチクリと刺さるようでいて、きらきらしたシンセの感覚と初期の『サーチライト』の頃のギターロックの感覚が抜群のバランスで折衷していると言えるのではないでしょうか。
このサウンド面で過去の宇宙の感覚のある曲と対比するのに適していると思われる曲は、やはり「星の屑」でしょうか。イントロから、とてつもなく小気味良いシンセのフレーズとバンドアンサンブルが絶妙なバランスで混ざり合い、随所随所で前面に出てくるシンセの音色(特に間奏のミニマルに暴れ回るシンセは圧巻です)が素敵な「星の屑」は、サビで "今僕を惑星ごと射抜いて" と歌われているように、地球から惑星や星の屑に思いを馳せながら、その欠片が君にちょっとふりかかっていれば良いな…なんて、胸がきゅんとする世界観ですが、今作のタイトルにもなった「クレーター」とは、まさにその「星の屑」が当たってできたものです。
「星の屑」では、"飛び散る星の屑が君にちょっと当たればいい" なんて、くすぐったい祈りにも似た思いを抱いてたのですが、その景色から一転、「クレーター」では "この胸の高鳴り聴いたなら今出かけるのさ" とアグレッシブに目の前に広がる星を見に、受け止めに行く曲です。
期待を背負って、何度も自分自身で、それが正しいのか思い返して、歩んできた道を確かめながら、それでも"夢と現実のプラネタリウム"から "描いていた未来を更新中" と現在進行系で「想い」を持ち続ける人とその目の前にさんざめく星の光景。ロマンティックでありながら、どこかで自分の自信の足りなさを否定したいけれど、それでも受け入れていきながら、ゆっくりとでもどんどん夢に近づく…といった、成長劇がみられます。語弊を怖れずに言えば、国内のアーティストではBUMP OF CHICKENがお好きな方にも、ストレートに響く曲と言えるのではないでしょうか。
ここで面白いのは昔、『初恋サンセット』に収録された「きらめく世界」という曲では、"海が見える小さな街"で"ストロボできらめく世界"を映していた頃のメレンゲは、"どこにでも落ちてる"、ありふれた愛を抱えて「君」と限りある…いつかなくなってしまうかもしれない時間を遊ぶという無邪気に切ない光景を映し出していたのが、今作では"きらめく宇宙"と、同じ「きらめく」でも、メレンゲの映し出すもう一つの情景、宇宙を描いた「クレーター」は、「君との曲」と言うよりも、むしろ「僕自身の曲」となりうるところではないでしょうか。
さて、カップリングについて紹介させていただくと、今作の「Ladybird」は、てんとう虫を表す言葉です。
クボさんは「クレーター」がリリースされた際にTwitterにおいて「今回リリースしたシングルは再出発と挑戦という意味ではクレーターであり、メレンゲの本質という意味ではカップリングのLadybirdなんです。このあきらかな違いも楽しんでください。。」とツイートされていました。
そんなクボさんの言葉通り、こちらはカップリングにおけるメレンゲらしさが満点な曲で、決意の証明としての「クレーター」に対して、幾分、毒っ気が見え隠れする曲になっていて、対比が面白いです。
シンプルなバンドアンサンブルとキッチュなシンセの響きがゆったりした別れの曲ですが、思わず驚いてしまうのが、2番で"君なら誰にでも好かれると思う 顔で選んだ僕だから言える 真面目に見えてそうでもなくて 自分でもわかってるとこ"なんて身も蓋もないと言うか、かなりザックリとした一言を言っちゃっています。
メレンゲのカップリングと言えば、スーパーポップなシンセとギターが鳴り響く「July」・「ラララ」(前者は「アオバ」の、後者は「うつし絵」のB面です)、素朴なアコースティックの響きが温かみのあるタイトル通りの「再会のテーマ」(「スターフルーツ」のカップリング)がありましたが、その逆、切なく歪んだ「ムカデノエキ」(「君に春を思う」のB面)もありました。
今作での「Ladybird」は、どちらかと言えば「ムカエデノエキ」に近いタイプの曲。そこで歌われていた、歪んだ感傷のようなものを、意図的に意地悪で毒っ気をかなり前に出した言葉で彩っているようにも聴こえて素敵です。例えば"嬉しい事は笑顔で言わなきゃ おめでとうかな さようならかな こちらこそアリガトウ"と、わざわざ「アリガトウ」とカタカナ表記にしているところが、良い意味で悪意が見えて、不器用な別れの光景が見られて素敵です。これもあえて語弊を怖れずに言えば、どこか男の子っぽい感情と言うか、男の子特有の別れ際の嫌なヤツ感を出してしまうところではないでしょうか(そう言う意味では、『少女プラシーボ』に収録された「声」の"さよなら もう会えないな 忘れてあげるよ"なんていう、ぶきっちょな歌詞を思い出させます)。
最後に、このシングルの初回限定盤にはメレンゲ10周年記念として行われた、日比谷野外音楽堂でのパフォーマンスが3曲(「8月、落雷のストーリー」、「すみか」、「バンドワゴン」)、DVD映像として収録されています。この公演は、僕も観に行かせていただいたのですが、本当に心から感動的なステージでした。正直に言ってしまうと、あまりに素敵なショーだったゆえに、もっと曲数を多く収録してほしい!という気持ちもあるのですが、この公演を観ることのできた方は、それを思い返しながら、残念ながらその時は観られなかった方は当時のバイブレーションが伝わる映像となることかと思いますので、是非、鑑賞していただくことをお薦めさせていただきます。
"もうこれ以上は進めない" と思ってしまった時、"明け方の道" に "散らかってるゴミ" は "どうせ誰かが片付ける" のでしょう。多分、散らかったゴミはこれから星を見に行くために抱えて行くのは重すぎるでしょう。
でも、そんな夜明けが来る前に、僕達の目の前には自分の目では全貌を掴みきることもできない星が広がっています。"夢と現実の" そして "強がりと本音の" プラネタリウムは期待を持つと、どんどん膨らんでいきます。でも目前に、星がきらめている限り、その夢も希望もあなたの心の高鳴りとともに更新、そして交信されていくでしょう。
あなた自身の目前に広がる星を見上げに、手を伸ばしに、行ってみては、いかがでしょうか。でも "足下には充分気をつけて" 下さいね。
さあ、メレンゲと共に星を見にいくために、夢に少しでも近づくために、行ってらっしゃい!
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