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さらさら/僕はきっと旅に出る
スピッツ

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青野圭祐─2013.5.26─


またしても多忙により、oidレコメンドをご無沙汰しておりましたが、レコメンドさせていただきたい作品が、かなり溜まってきましたので、折を見て、またじっくり、そしてどんどん、書かせていただこうかと考えております。宜しくお願い致します。

さて、今回レコメンドさせていただく作品は、以前もB面曲やカヴァー曲を集めたスペシャル・アルバム『おるたな』のレコメンドを書かせていただいたスピッツの両A面のニュー・シングル、「さらさら/僕はきっと旅に出る」です。

普段oidでのレコメンドでは、シングルよりもアルバムとしてリリースされた作品についてをより書かせていただこうと考えているのですが、この「さらさら/僕はきっと旅に出る」が、リリース前から聴かせていただいて、あまりに素晴らしかったので、アルバムとしてのリリースを待たずにレコメンドさせていただこう!と思いました。

今回の「さらさら/きっと僕は旅に出る」は、スピッツにとって2年8ヶ月ぶり、38枚目のシングルで、両A面のシングルとしては6枚目のシングルでもあります。

それでは早速、「さらさら」のMVをご覧下さいませ。



リハーサル・スタジオのような場所で淡々と演奏されるメンバー、微かに映るMacBookの画面に映し出されたDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)など、まるでスタジオライブを行っている様を録ったかのようなシンプルなMVです。

また、映される、澄んだ瞳で素朴に歌う様がセクシーな草野さん、今回は茶色に染めて無造作にしたようなヘアスタイルで繊細なプレイを魅せる三輪さん、ストールを巻いて座りながらも力強くベースを弾きこなす田村さん、淡々としかしタイトかつ情熱的にドラムを打ち鳴らす崎山さんと、それぞれのメンバーの真摯なプレイスタイル・表情も見所です。


シンプルなスタジオライブのように撮られたMVですが、曲の方も、非常に良い意味で、一聴すると、とてもシンプル。でも、しかし、その奥に数々のエッセンスが練り込まれた珠玉のインディー・ロック的なサウンドです。

三輪さんの緻密なアルペジオから淡々と歌い出される草野さん、そして崎山さんのドラムが重なりサビ前で田村さんのベースが入ってサビで一気にタイトなバンドアンサンブルへ…というイメージは、前々作のアルバム『さざなみCD』のタイトル・トラックとも言える「漣」に似た構成ですが、その『さざなみCD』にも収録されたシングル「群青」が、初期のアルバム『惑星のかけら』に収録された「アパート」や『Crispy!』に収録された「タイムトラベラー」といった過去の曲のエッセンスをより濃縮して新しく打ち出したように、または、『ハヤブサ』に収録された「Holiday」が『インディゴ地平線』に収録されたシングル「チェリー」のイントロをよりエロティックにして響かせたように、今回の「さらさら」も、「漣」のエッセンスを再び使いながらも、全く違った曲の世界を聴き手の景色に鮮やかに滲ませることに成功しているように思います。

何と言っても、草野さんが歌い出される前から流れるノイズのかかったようなコーラスのフレーズがとても心地よく、それが反復されて随所で流れるアレンジがリスナーを、さらさらの世界へ誘っているかのようです(そう言えば、『三日月ロック』に収録された「エスカルゴ」では"ざらざらの世界へ"なんて歌詞がありましたね)。

抑揚のきいた全体の質感も、どこかアメリカのメロディアスなローファイ・アーティスト、例えば、Death Cab For CutieやThe Shinsといったようなインディー・ロックからのテイストが感じられます。『おるたな』では、スタイルとしてオルタナティヴ・ロックをより強く前に出しつつも、ポップな感覚も併せ持っていたのですが、その感覚は今回の「さらさら」でも同じ。なので、インディー・ポップ的とも言えるかも知れません。


そして歌詞は、近いけれど、どこかやきもきしていて、切なく抱え込んでしまいつつも、お互いにズルい部分を持っていながら、それでも優しさを見せ合うような2人の関係を描いているかのようで、素敵です。

"君"に焦がれて、お互いのズルさを認めつつ、それを肯定して、「続けよう」としている様が、キュートで優しくセンチメンタルだけど、同時に残酷でもあります。まるで「恋のはじまり」と同時に恋が終わる寸前のような、しかし、それでも「続けたいと願ってしまう」といったような多くのアンビバレントな感情が光っているように思えます。

前作のアルバム『とげまる』をひっくるめてみて見ると、『とげまる』では、純粋な嘘や素直なフェイクといったものを見せてくれた草野さんが、それらを自ら認めて不器用でも"君"と向き合って進んでいこうとしているかのような感覚も覚えます。"見てない時は自由でいい"や"永遠なんてないから"なんて、あえてぶっきらぼうに、分かり合えやしないという本音を歌ってしまってでも、"君"とともに眠れる時のために、と言うような。

特にサビが素敵で"まだ続くと信じてる 朝が来るって信じてる 悲しみは忘れないまま"と、それでも信じずにはいられない儚い感情が鮮やかに滲み出しています。どこか、メレンゲやART-SCHOOLといったスピッツの後輩にあたるアーティストたちにも似た感覚も覚えます。


「僕はきっと旅に出る」の方は、残念ながらMVは現時点で公開されていないのですが、こちらも「さらさら」に負けず劣らず、どこかローファイな感覚がありつつも、ゆっくりと進んでいくような強かな感覚が光る曲です。

ピアノとシェイカーの牧歌的なイントロから始まり、カウベルのようなパーカッションが反復されつつも、歪んだギターが重なっていく、少し変わった曲構成ながら、「心のどこかで生まれた旅立つ意志」を自分で確認しているかのような、確固とした思いが鳴らされているようで、クールです。

今まで「旅人」、「旅の途中」(カヴァー曲も含めると「さすらい」、"君"のそれも含めると「魔女旅に出る」)とざっくりとタイトルを見返しただけでも、「旅」を匂わせる曲を多く歌ってこられた草野さんですが、今回のそれは、"君"との旅を思い出しつつ、今度は1人で、また旅に出ようとしている決意の曲です。旅立ち前夜や旅立ちの日の歌ではなく、旅立とうと決意している様を歌うところが草野さんらしいと言えるかも知れませんね。

"未知の歌や匂いや不思議な景色探しに"や"地図にも無い島へ 何を持っていこうかと"というサビの歌詞は無邪気な少年のようでもあり、より純粋で無垢な時に戻って、また旅に出たいという思いが表れているかのようです。

また"神様じゃなく たまたまじゃなく はばたくことを許されたら"という祈りにも似た間奏の歌詞も、昔の彼らの「クリスピー」のような感覚を思わせる、どこか日陰で生きながらも強かで、いつか「逆転勝ち」を狙っているかのような感覚を思い出させられます。刹那の一瞬のために今は虎視眈々と準備をしているんだ、その先が"約束した君"と繋がっていられれば…なんていう少年らしい感性が随所で光るのも素敵ですね。


前作のオリジナル・アルバム『とげまる』でも、かなりのボリュームと世界観を魅せてくれていたスピッツであるのに、それからリリースされたこの「さらさら/僕はきっと旅に出る」は、それぞれ1曲単位でも物凄い量のボリュームと世界観を魅せてくれて今からアルバムが楽しみでなりません!
その時、スピッツと「旅に出る」時までに、旅の準備を済ませておきたいです。 1

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  • 青野圭祐(2013.5.26)