後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)─2012.11.26─
アイヌの聖地白老(シラオイ)で行われる『
TOBIU CAMP』というフェスティバルに、ここ2年連続で出演させてもらっている。そのきっかけを作ってくれたのが、このMAREWREW(マレウレウ)というグループ。僕が
安東ウメ子さんのアルバムを気に入っていることを知って、ツイッター上でコンタクトを取ってくれたのが繋がりも持つきっかけだったと思う。
多くのアジアの民族的な音楽がそうであるように、アイヌの音楽もコード(和声)がない。なので、ハーモニーがない。コードはもともと西洋音楽のものなので、それが万国共通でないのは当たり前のことなのかもしれないけれど、小学校の頃からドレミファソラシドの平均律での教育を受けている僕らにとっては、ハーモニーのない音楽があるっていうのが驚きかもしれない。
でも、例えば、この国には尺八という楽器があって、ヴォゥエ〜ォ〜と、擬音にするのも難しいくらい、もの凄く複雑な倍音が鳴る。ドレミファソラシドというのは倍音の重なりを合理的に、シンプルに分けていって、それを積み直して楽しむという、そういうもので(だと僕は考えているけれど)、実は1音で宇宙を感じてしまう尺八の音色のほうを豊かだと考えることもできる。
マレウレウは、ウコウクという輪唱を得意としているグループだ。西洋の合唱のようにハモったりはしない。ひとりが歌うとそれを隣りの人が繰り返し、また隣りの人が受け継いでと、4人でずっと輪唱を行う。この繰り返しがある種の陶酔感を生んで、とても面白い。ずっと聴いているとフワフワといい気持ちになってくる。溶けてしまいそうな気分にもなる。
このアルバムでは、ダブアイヌのOKIさんのプロデュースのもとでバンドアンサンブルなんかも試みられている。「コードなんてないから、KマイナーとかPメジャーとか、勝手に作って弾いてる」とOKIさんは冗談混じりにおっしゃっていたけれど、確かにギターでコードを合わせるというのではなくて、トンコリという民族楽器の単音のフレーズが重ねられている。そういう、ポップスに落とし込むような試みも面白い。
こういう音楽に興味を持つと、自然とアイヌ民族の歴史についても興味が湧く。音楽は本来、ロックやレゲエやヒップホップ、クラシックやジャズだって、その土地と結びついているものだと思う。だから、その土地のことや国のこと、文化のこと、大きく言えば歴史を学ぶことに直結する。
そういう音楽との接し方も、生活を豊かにすると思う。
僕はこういうウコウクが、どんな場所で鳴っていたものなのかを想像しながら聴いています。
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