7月の初旬に発売されたアルバムですし、あちこちで紹介されているので、もう聴いてる人もたくさんいるかも知れませんが、どうしてもここにレコメンドとして残しておきたい一枚なので改めて書かせてもらっています。
これは傑作です。今年のベストアルバムに入る一枚です。いま、日本中の人たちみんな、老いも若きも関係なく、すべての人たちに聴いて欲しいアルバムです。
誤解を恐れずに言えば、この作品からは死の匂いがします。そして、そこから転じて生まれる、死のときを迎えるまでの生きている時間の尊さ、大切さを唄っているアルバムでもあります。
ここには、女性目線からの恋の歌が多く収められています。乙女心のときめきを唄った歌に混じって、別れの物語がいくつか綴られています。一見すると普通の恋愛模様のようにも読めますが、二階堂さんの歌声を聴いていると、別れた「あなた」が男性を指しているだけでなく、もういなくなってしまった家族や自分の身の回りの大切な人たち、そしてその人たちとのかけがえのない時間…そういったことを歌っているようにも聴こえます。
シンガーとして活動する一方、二階堂さんは実家の浄土真宗本願寺派の僧侶の仕事もしています。お寺で生まれ育つと、自然と老いや死、親しい人との別れというものが身近なものになります。筆者も寺の生まれということもあって勝手に親近感を持ってる部分もありますが、歌詞にはその影響、仏教の考え方もそこかしこに見て取れます。
二階堂さんは恋の喜びや愛おしさを唄う中に、いくつもの後悔や諦め、儚さ、そして別れの歌を差し込みます。喜びと悲しみの交錯、それは人生そのものです。そして最後の曲で「この世の全てはどうにもならない」と唄います。そう現実を直視した上で「それでも生きる わたしは生きる」と唄い切ります。そしてその曲のタイトルを「めざめの歌」と名付けています。
震災以降、無力さに苛まれる中で安易に「頑張れ」とも「大丈夫」とも言えない自分にとって、その凛とした力強さが、根拠が曖昧な「どうにかなる」「ひとりじゃない」という言葉や励ましよりも、ずっと深く心に突き刺さりました。ソウル・フラワー・ユニオンは「死ぬまで生きろ!」と唄いました。RADWIMPSも同じメッセージを込めてツアーを回りました。同じチカラがこの作品にはあります。3.11以降で一番心にスッと沁み入って来たアルバムです。ぜひ、CDで買って歌詞を読みながら聴くことをお勧めします。
先日のNANO-MUGEN FES.でのステージを観てても思ったんですが、星野源くんが好きな人、それから、SAKEROCK(ハマケンからの熱い推薦メッセージはこちら)や最近のくるり、EGO-WRAPPIN'等が好きな人にはかなり引っかかる部分があると思います。昭和歌謡、ジャズ、演歌、民謡、童謡、ラテン・ポップス、ブルース…そういったジャンルを縦断しながら(しかもどの曲もとても耳と心に馴染み易いメロディばかり)、ときに可愛く、ときにしっとりと、ときにコミカルに、自由に泳ぎ回る歌声――「萌芽恋唄」でのハイトーンのファルセットはテルミンの響きのよう――『にじみ』はシンガー・二階堂和美の懐の深さと凄さも改めて知ることが出来るアルバムでもあります。
「女はつらいよ」
「お別れの時」
(これほど明るく軽快に別れを唄った歌はキャンディーズの「微笑がえし」以来ではないでしょうか)
キュートさとパワフルさとエキセントリシティに溢れてるライヴも最高です。
導入としてMVを貼りましたが、この作品はぜひアルバムを通して聴いて欲しい一枚です。
二階堂さんは冒頭で「考えをふかめるとき 歌はいらない」と歌っています。
でもこれほど今、考えをふかめさせてくれて、必要と感じる歌も他にはない。音楽の持つ力・大切さを改めて教えてくれました。大河のようにすべてを飲み込んで行くような、圧倒的な歌がここにはあります。