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Pinkerton (Deluxe Edition)
Weezer

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fyk(ニギリッペちゃん)─2010.11.29─

 『Pinkerton』がどれほど素晴らしく、オリジナリティに溢れた名盤であるかは今さら言うまでもないことで、Emoの礎となり多くのフォロワーを生んだことや、音楽誌で「90年代の名盤ベスト○○」なんて特集が組まれたら必ず上位に挙がることからも、その重要ぶりがお分かりいただけるだろう。

そんな不朽の名作が2010年の今。25曲のボーナストラックを追加し、2枚組みのデラックス盤として発売された。しかも、豪華ブックレット付きの日本盤まで発売された!そこで今回は、このリイシューに便乗し、個人的にも思い出深いアルバム『Pinkerton』について、思う存分書きたいと思う。

語弊を恐れず言わせてもらうと、1st『Weezer(通称:ブルー・アルバム)』が外に向け作られたポップな意欲作だとすれば、セルフ・プロデュースの2nd『Pinkerton』は、より内面を掘り下げ作られたヘビーな1枚。これが、ブルー・アルバムで一躍人気者となったリヴァースの“心に渦巻く暗部を吐き出したもの”…かどうかは本人のみぞ知るところだが。若き日のリヴァース青年の側面を切り取った貴重なアルバムであることは、拭いようのない事実であろう。

『Weezer(ブルー・アルバム)』『Pinkerton』。バンドの立ち位置を決定づけ、初期ウィーザーを象徴するこの2作は、今なお光と影のごとく寄り添い私達を惹きつける、鳥肌モノの傑作だ。

とりわけ『Pinkerton』は、ひと昔前のソフトロックやJAZZに傾倒し、現在進行形の王道ロックをどこか“こっぱずかしいもの”として捉えていた18歳の私を、ロック道に引きずり込んだ運命の1枚でもある。当時、再生すると同時に、それこそ鈍器でアタマを殴られたかのような衝撃が走った。「王道ロックでこんな事してるバンドが居るのか!」なんて興奮したのを今でもよく覚えてます。ハイ。

まず目につくのは黒地に豪雪を描いた浮世絵の、重暗く、侘びたジャケット。
安藤広重の代表作『東海道五十三次』から選ばれたこの絵が、アメリカのオルタナロックバンドのジャケになってる時点で「なんだコリャ」なのだが。ミスマッチのように思える要素がちゃんとハマる、とでも言おうか。バラバラに思える音やノイズが絡み合い、空気を震わせ、聴き手に迫りながら鳴る『Pinkerton』の「なんとも言えない魅力」が、このジャケットにうまく表れているように思う。

そして、タイトル。ウィーザーファンなら周知の事実だが、“ピンカートン”とは、長崎を舞台に“恋愛の悲劇”を描いた名作オペラ「蝶々婦人」の登場人物に由来している。
その誠実さ、一途さゆえ愛に翻弄され、後に自害してしまうヒロイン・蝶々と、本国に恋人を持ちながら赴任先の日本で蝶々と結婚し、子を儲け、「必ず戻る」と言いながら彼女を捨てたアメリカ人将校・ピンカートン。軽薄なヤリチン男の不毛な叫び『Tired of Sex』から始まり、ガラス瓶の中で傷つき死んでしまった蝶に独白する『Butterfly』で幕を閉じるこのアルバムは、単なるリヴァース・クオモの心情吐露ではなく、ある壮大なストーリーを描き作られたコンセプト・アルバムの一種だという事が、この辺りからも伺える(どこまでが本音で、どこまでが創作なのかは、本人にしか分からないが)。

 

※先行シングル『El Scorcho』の映像

 

そして本作の歌詞にはウソかまことか、“恋に悩み、もがく男の心情”があらゆる形で描かれる。
日本に住む女のコから届いたファンレターの匂いを嗅いだり、彼女が自慰にふける姿を妄想したり…。
そんな歌詞を、当時のPJハーヴェイやコートニー・ラヴが赤裸々に謳ったように、リヴァースもまた歌ったのだ。抑圧された感情や自己嫌悪を、エレキギターのリフとフックの効いたメロディに乗せて。

さらに、このアルバムの“音そのものが持つチカラ”にも言及したい。
曲の裏に流れる混沌をギュッと圧縮し、そこから増幅したような、パワフルでヒリヒリとした音触。一瞬一瞬耳にこびりつく、その彫刻的なサウンドは、本作でエンジニアを務めたデイヴ・フリッドマンの功績による所も大きいだろう。
蝶々婦人のコンセプトと鬱屈したリヴァースの楽曲。そして、デイヴ・フリッドマンのサウンド。少なくとも、この3つ以上の要素が化学反応を起こし『Pinkerton』は生まれた。だからこそ全ての楽曲がとても力強く、唯一無二の光を放っているのだ。

最後になったが、このアルバムにまだ出会っていない人はとても幸せだ。「初めてPinkertonを聴く喜び」そのチャンスを、あなたは持っている。ここまでいろいろ書いたけど、ぜひあなた自身が『Pinkerton』を味わってみてほしい。そこでもし、誰かが「名盤に出会う喜び」を感じてくれたなら、私がこの文章を書いたことにも意味が生まれるかもしれない。

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