後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)─2016.4. 9─
本当に素晴らしいアルバムだと思う。
豪華なゲストミュージシャンがトピックになってしまうけれど(実際に豪華なのだけど)、まずはJamie Cruiseyによるミックスに驚いた。岩崎愛の楽曲はどれも、いわゆる日本語のポップスなのだけれど、Jamieのミックスによって、ユニバーサルな音像になっている。おそらく、USインディや海外のインディロックを中心にレコードを買っているような人にでも、すんなり届く音像に仕上がっている。もちろん、日本のスタジオで、良い音で録音したという前提があるのだけれども、それにしても素晴らしいミックスだと唸ってしまう。
そして、岩崎愛の声は何か特別なところにタッチしているように感じる。
はっきり言えば、世の中にシンガーソングライターというのは星の数ほどいる。女性シンガーとなると、これまた競争が激しいようにも感じる。次から次へと、いろいろな歌い手が登場するし、どれもまた世に出るなりの魅力があって、その中で突き抜けるというのはなかなか難しいのかもしれない。男女を問わず、歌い手そのもののキャラクターにも注目が集まるので、ええ声とええ歌だけみたいな、そういった魅力だけがブレイクにつながるわけではないけれど、そういう複雑なポップミュージックの複雑な入力と出力を、もしかしたら突き抜けて届く声と歌なんじゃないかと感じる。
僕が一緒に仕事をするミュージシャンたちは、どういうわけか長いトンネルのような時代に突入して、鬱屈としたメンタリティを煮詰めるような状況にはまり込んでしまっている。これはある程度、一般化して、もう少し広い範囲のミュージシャンたちに当てはまるようにも感じる。とにかく、自己評価に比べて機会が与えられず、いつのまにか疑心暗鬼になって、自信を失っていくひとが多い。このアルバムを作る以前の岩崎愛にはそういうフィーリングをよく感じた。オールライトと歌いながら、自虐的なところがあった。
今回のアルバムでは、新しいシーズンの始まりを感じさせるような「knock knock」から、これまでの殻を一枚一枚脱ぎ捨てるなんていうまどろっこしいものではなくて、バーンとTシャツごと破り捨てるようなパッションがある。ぶわーっと伸びて、どこまでも届くような声に景色が変わる。そのまま、真新しい衣装をまとってほしいと思う。もちろん、自嘲や卑下とは性質の違う色彩の布で作ったような。
どこかアメリカのカントリーを感じさせる楽曲が多いのも面白い。ギターのストロークも自然にハネたビートのものが多い。そういうところが、日本語の楽曲でありながら、どこか海外の音楽からの影響を思わせるし、そういうアレンジを呼び込んでいる。参加ミュージシャンたちの活躍も、あたらめて素晴らしい。
こういう音楽が、ちゃんと響く世の中だと良いなと思う。
たとえ状況が良くなくても、心を折らずに、こうして素晴らしいアルバムを世に送り出すのがミュージシャンのやるべきことでもあるのだけれど。掛け値なしに「It's Me」は素晴らしいアルバムだと思う。
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