いきなりクリシェな書き出しで恐縮なのですが、ポップ・ミュージック(もちろんロック・ミュージックも含みます)というのは、その音が鳴った瞬間に別の世界に連れて行ってくれる魔法のようなもの…とよく言いますよね。自分も中学生のときから、多くのアーティストの音楽に、自分が知らなかったいろんな世界に連れて行ってもらいました。それは今も続いていて、日々新しいポップ・ミュージックを探し続けています。このサイトを見ている人たちも、きっとそういう魔法を追いかけ続けている人たちなのではないでしょうか。
輸入盤が早くから出ていて、日本盤も先日発売されたので、知ってる人も多いかと思いますが、今回紹介したいのは、HURTSというポップ・アーティストです。
セオ・ハッチクラフト(Vo)とアダム・アンダーソン(Key, Gt)からなるHURTSはマンチェスターで結成された2人組です。マンチェスター発とは言っても、例えばオアシスのようなラッド・イメージとは正反対の、スタイリッシュで美意識に溢れたアーティストです。
まずはこのPVを。
「Blood, Tears & Gold」
ムダ毛処理をし、ネイルを塗り、ブーツを履く女性の足…ただそれだけのことを、ストーリー性とアート性を伴った映像に変えてしまうセンス。そこに絡むのがレトロな映画から抜け出てきたような端正な顔立ち&スタイリングの男子2人。ドラマティックなサウンドと凛々しい歌声。これだけでも圧倒的な美意識を感じます。
「デビュー以前、絶望的に貧しい生活を送っていた頃、失業手当をもらいに行く時でさえ、決して惨めな気持ちにならないように、自分たちの誇りを保つために、フォーマルな服装で出かけていた」「この夏、フェス(Summer Sonic)で来日した際でも、ステージではスーツを着て、髪はいつも整え、取材の際にはシャワーを浴びるためだけにレコード会社のすぐそばにホテルを借りた」というエピソードからも伺えるように、そのヴィジュアルに対する意識の高さは徹底しています。
最高のポップ・ミュージックを鳴らしているアーティストには、揺るぎない強い信念と意志を感じます。ポップ・ミュージック界のマエストロ・Prefab Sproutは、本気で音楽の力を信じ、その信念を『Let's Change The World With Music』というアルバム・タイトルに託して「Let There Be Music」(そこに音楽を!)と高々と歌い上げました。音楽で出来ることは何かを考え、自分の誇りを信じ失わず、幸せな瞬間の追求をテーマに掲げてタイトルを『HAPPINESS』と名付けたHURTSの世界にも、ポップ界の偉大な先達同様に意志の強さを感じます。
そのサウンドから思い起こすのは、Depeche Mode、Pet Shop Boys、Eurythmics、Tears For Fearsといった、80年代にビッグヒットを飛ばしたエレクトロ・ポップなアーティストたち。そういったアーティストたちも高い美意識とオリジナルの世界観やスタイルを持っていました。その影響下にあるとはいえ、HURTSのサウンドは、もちろん80年代の水増しコピーに終わらず、2010年の現代でも充分にモダンな音楽として響くものになっています。
痛みを知り、傷ついた者たち(HURTS)が強い意志を持って鳴らし目指している幸福(『HAPPINESS』)。そのアーティスト名とアルバム・タイトルを聞いただけでも、これまでに音楽に何度も救われてきた自分は泣けてきてしまうのです。
そして、繰り返しになりますが、良質なポップ・ミュージックは、味わったことがないような気持ちを抱かせてくれて、いままで知らなかった世界や夢を見せてくれるものです。そしてその世界は聴き手次第で何色にでも塗り替えることが出来る。そういった意味でも、このアルバムのアートワークがモノクロームで構成されていることは圧倒的に正しいと思うのです。そんなところにも彼等のこだわりとセンスを感じます。
アルバムには、ここに映像を上げることが出来なかった名曲が多く収録されてます。よりアップ・テンポでドラマティックな4曲目、ゴスペルのようでもあり心の叫びのようでもある5曲目は特にお勧めです。英国ポップ・シーンのプリンセス・Kaylie Minogueも参加しています。ぜひ聴いてみてください。1月には初の単独公演もあります!Summer Sonicを見逃してしまった自分のような人はぜひ。
蛇足のようになってしまいますが、もうひとつPVを。
「Wonderful Life」
http://www.youtube.com/user/videohurts#p/u/2/PIJXqOvXb1A
このPVの中の、いまひとつ垢抜けない気もするダンサーたちのスタイリングとダンスは、Robert Palmerの1986年のビッグヒット作「Addicted to Love」の影響も見て取れます(と勝手に思っている)。80年代万歳!
1