とにかく、どこを切りとっても素晴らしいアルバム。
Taylor Mcferrin / Postpartum
「現代ジャズの最重要音源」とか書かれてしまうと、なんだかものすごく敷居の高い武家屋敷の前で動けなくなった百姓みたいな気分になってしまうけれど、これは最新の技術とフィーリングで作られた自由な音楽なのだと思う。
HIP HOPや電子音楽を通過して、こういう地平に音楽の豊かさが花開いていることが、とても羨ましく思う。ギター、ベース、ドラムみたいな編成のロックバンドが、自由の名のもとにいかに不自由なのかってことはもう何年も前から白日の下にさらされているわけなんだけれども、こういう音楽を聴くとなんだか焦ってしまう。笑。
でもまあ、不自由なりのロマンがロックにはあるんだけれどもね(僕はそういうロマンの愛好家だ)。笑。というかロマンしかないんじゃないかとも思う。こんなことを書いたらロックファンに怒られるかも。
山下洋輔さんがTV番組で、最初のコードからとりとめもなくーーそれはほとんど無意味であるかのようにーー鍵盤の上で脱線し続けたあとで、最初のコードに着地して「これが僕にとってのジャズだ」とおっしゃっていた。若干、実際の発言とは言葉が違うかもしれないけれど。「自由」ってことなんだなと、僕は解釈した。でも、その自由は、知識と技術に裏付けられていることもよく分かった。
誰でも作家としての入口に立つことが自由になった現代は、本当に夢のような時代だと思う。だけれども、音楽を作るうえでの自由というのは、とても難しい。好き放題やることと自由であることは、まったくのイコールでは結べないんだけれども、そうだと勘違いしてしまうことがある。やりたいことをするためには、そうするための技術がいるのだ。そして技術は身体にだけ宿っていて、身体はその人そのものだ。そういうある種の厳しさはDAWやソフトシンセと同時に立ち上がっている。
なんてことを考えたりもするんだけれども、このアルバムは、とにかく底抜けに気持ち良い。それはこの作品が、音楽が自由であることを教えてくれるからだと思う。
えーと、そして、この音楽に対する誠実な回答っていうのは、このアルバムを聴きながら、まずは自由に身体を揺すってみるってことかもしれない。僕の能書きは無視して、ひとまず飛び込んでしまって大丈夫。笑。
いやいや、本当に毎日聴いてる。まったく飽きない。もう少し幅広い層に届いてもおかしくない作品だと思う。