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Destroying Beauty
killing Boy

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青野圭祐─2012.6.19─


ここのところ、邦楽・洋楽ともにレコメンドさせていただきたくなるような良盤のリリースが多く、個人的にいちリスナーとしてもワクワクしております。

今回は、約1年ぶりにニューアルバムをリリースされたkilling Boy、の新作『Destroying Beauty』についてのレコメンドです!

いきなり僕個人の話で恐縮ですが、僕はonly in dreamsの2011年ベストアルバムの特集でも彼らのデビューアルバム『killing Boy』を3番目に挙げさせていてだいており、'11年のベストアルバムの中で邦楽アーティストとしてはトップに挙げさせていただいているくらい去年の邦楽シーンで個人的に注目していたバンドが彼ら、killing Boyだったのです。

only in dreamsの他でお世話になっている幾つかのメディアでは、昨年は彼らをかなりプッシュしていたのですが、タイミングが微妙に合わなかったこともあり、残念ながらonly in dreamsではレコメンドできていない状態でした。と言う事で、killing Boyをonly in dreamsとしてイントロデュースさせていただきながら、新作『Destroying Beauty』をレコメンドさせていただきたいと思います。

あえて先に結論から少し書かせていただくと、このアルバムもデビューアルバム同様に、めちゃくちゃプッシュさせていただきたいような、とても素晴らしい作品です!


まずは、killing Boyというバンドそのもののイントロデュースをさせていただきます。

killing BoyはART-SCHOOLのフロントマンの木下理樹さんと2003年にART-SCHOOLを去られていた日向秀和さん(現在ではストレイテナーやNothing's Carved In Stoneを中心に、多種多様なバンドで活動されているので、ご存知の方がほとんどかと思います)が、改めてタッグを組まれたバンドです。

始まりは、一昨年の中頃に木下さんがTwitter上にて「ソロ活動がしたい」といった旨のツイートをされていたのに対して、日向さんが「是非バックで弾かせてほしい」といった旨のリプライを返されたことで、その後、日向さんがNothing's Carved In Stoneから大喜多崇規さんをドラマーとして、木下さんが旧友の元SPARTA LOCALSで現在はHINTOとして活動されている伊東真一さんをギタリストとして、それぞれレギュラー・サポート・メンバーとして誘われたことから、バンドとして本格的に始動されました。


当初は木下さんが、先の日向さんのリプライに対してのさらにリプライで「初期のDeath Cab For Cutieみたいな暗い感じのをやろうよ」と返されていたのが印象的でしたが、実際にkilling Boyとしての曲を聴いてみるとビックリでした。

と言う事で、まずはデビューアルバム『killing Boy』からの必殺チューン「Frozen Music」のMVと同時に彼らのサウンドを体感してみて下さい!



劇画のようなクールな映像が素敵ですが、何と言っても、超絶グルーヴィと言うしかないまでにうねりまくるベースラインを基軸に、アフリカ音楽を思わせるようなリズミカルでタイトなドラムといった強靭なリズム隊とゴシックロックを思わせるような妖しく鳴り響くギター。全編を通してダークな世界観なのに、重苦しさよりも、むしろ気が付けば踊り出してしまいそうなサウンド。

Death Cab For Cutieという感じよりは、海外のアーティストで言えばTalking HeadsやVampire Weekendなんかを思い出してしまいます。

 そう、この、ただ安直にハッピーに踊るのではなく「暗く悩み閉じ込みがちながらも、その内省的な感情を抱えたまま踊らせてしまう」スタイルはkilling Boyの大きな魅力の一つでしょう。


 ART-SCHOOLを愛聴されている方はご存知かと思われますが、そもそも木下さんは昔から一貫して大の洋楽愛聴家(もちろん洋楽だけでなく、邦楽もかなりの数の音楽を咀嚼されています!)。このkilling Boyにおいても、過去・現在の海外からの音楽の影響を強く打ち出されています。

木下さんはデビューアルバムを制作されている時に、Twitterにて「このプロジェクトはリズム、ループ感、グルーヴに重点を置いている。それはアフリカ音楽の理解を探求していく作業でもある。(中略)その反復するリズムに俺はシューゲイズ(青野による注:シューゲイズとは、とても簡略化して説明させていただくと、80年代末〜90年代初頭に英国で興った大轟音のギターサウンドで幻想的あるいは暴力的で内省的なサイケデリックなサウンド、ジャンルを指します。オリジナルのシューゲイズと呼ばれるようなバンド、My Bloody ValentineやRide、The Jesus & Mary Chainなど、と挙げさせていただくと、ご存知の方は多いのではないでしょうか。ギタリストが足下に配した大量のエフェクターを一心不乱に踏み変えて音色を変える様から、「シューゲイズ=足下を凝視する」というネーミングになりました)の感覚も残したい」とツイートされていたのですが、この「抑制されたループでたたき出されるグルーヴと内省的なギターのアンサンブル」もkilling Boyの大きな魅力だと思います。

そして、木下さんは、同じく「ダークなのにポップな」70年代後期から続いているポストパンク、ゴシックロックバンドのThe Cureの感覚も入れたいと仰っていました。The Cureについても以前のJoy Division同様に、僕自身とても大好きなバンドなのでイントロデュースし出したらめちゃくちゃに長くなってしまいますが(killing Boyに興味を持たれた方は是非、The Cureも聴いてみられることを全力でお薦めさせていただきます!お薦め盤は『Pornography』、『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』、『Wish』などです)、The Cureの最大の魅力も木下さんが仰っていたような「ダークなのにポップなところ」にあると思います。そして、それはkilling Boyも同じです!


killing Boyの魅力を大きく3つ挙げさせていただいたところで、続いて、同じく前作『killing Boy』から「Call 4 U」のMVをどうぞ。



こちらも劇画のようなクールな映像が映えますし、あえてドラマチックな曲の展開「ではない」感じのループ感と木下さんが鳴らすシンセサイザーの切ない音色のアンサンブルがダークなのにも関わらず、スタイリッシュにさえ聴こえます。

注目してみたいのはサウンドだけでなくタイトルもです…!!「Call 4 U」というタイトルですが、これ、ちゃんと英語にすれば、恐らく「Call For You」になるかと思います。ですので、ここで「For」は「4」、「You」は「U」となっていることが分かります。これは木下さんと日向さんが共通のお気に入りとして挙げられているMotion City Soundtrackと同じく米国ミネアポリス生まれのアーティスト、Princeのタイトルのネーミングセンスを拝借されたものだと思われます。


この様々なオマージュを感じさせるネーミングセンスもART-SCHOOLと同じようにkilling Boyの魅力でもあるでしょう(素敵なバンドなので魅力が多い!:笑)。killing Boyというバンド名も木下さんがお気に入りとART-SCHOOLの日記に書かれていた、カルト映画『キリング・ゾーイ』を思わせますし、前作のラスト曲「Sweet Sixteen」も同名の英国の映画を思わせます。


さて、ようやく新作『Destroying Beauty』のレコメンドをさせていただきます。

まず、変わらず、オマージュを感じさせもする各曲のネーミングの素晴らしさ!

僕の推測も含んでいて恐縮ですが、1曲めの「talking about angels」は、木下さんもお気に入りと日記に書かれていたこともある、米国シアトルのエモバンド、Sunny Day Real Estateの「Song About An Angel」を思わせますし、4曲めの「no love lost」はJoy Divisionの同名の曲を思わせるようで、音楽好きの方は思わずクスリと微笑んでしまうかも知れません。

「え!?じゃあ僕・私は洋楽にそんなに詳しくないからkilling Boyは楽しめないかも…」と思われた方がおられましたら、そんな心配は全くご無用です!

「you and me ,pills」のMVをご覧下さったらお分かりになるかと思います!



ジャケット同様のガスマスクをかぶった女性とウマやカバ、ブタなどのかぶり物をかぶった妖しげなメンバーとサイケデリックな幻想世界のような映像効果が素敵ですし、何より演奏!

洋楽を詳しくは知らない…なんて方も問題なく、奮い立つようなエッジの立ったオルタナティヴなサウンドと木下さん特有のダウナーで退廃的な歌詞が切り裂くようで、でも、ただ落ちるだけでなく、その強靭なグルーヴからダークに鼓舞してくれるような力強さがあるかと思います。


他の曲については現時点ではMVは公開されていないので言葉でしか表せない上に、only in dreamsは映像も使ってレコメンドできるメディア。長々と言葉を続けることはできるだけ避けますが、何より、全編を通して驚かされるのは、その音の緻密さです。

前作の時から音質へのこだわりは表明されていて、前作も所謂、邦楽ロックシーンの「ありがち」なサウンドとは全く違った洋楽でいうところのインディー・ロック的なアプローチを見せられていましたが、今作はさらに音の細部にまでこだわりが見られます。

海外、特に米国ローカルのアンダーグラウンドのアーティストのような、リズム隊が歌やメロディー楽器に負けずバンバン鳴って、しかも高音域や低音域を上げてインパクトで攻めるのではない、中音域をしっかり出す感じがkilling Boyでも表れているように感じます。僕自身、もちろん、邦楽ロックのベーシックな音作りそのものを否定するつもりは一切ありませんが、それでも、このkilling Boyの中音域を活かした、良い意味でCMなどには使われなさそうな音質は、むしろ今の邦楽シーンでは新鮮にさえ聴こえます。

だからこそ、一聴すると激しく歪んだ音作りであっても耳が痛くなったりすることがない、かなり緻密なリスナーへの配慮もありながらオリジナリティを出されているのが感じられるかと思います。


これは木下さんがART-SCHOOLのメンバーが大きく変わった頃(現在はストレイテナーで活躍されている大山純さんと日向が脱退されて、新しく戸高賢史さんと宇野剛史さんが加入された頃)に、ART-SCHOOLのミニアルバムをリリースされていた自主レーベル、VeryApe Records(相変わらずこのレーベル名も木下さんの原点とも言える、Nirvanaの同名の曲を思わせるようで痛快です!)から再びリリースされていることも大きいと思います。

細部まで木下さんや日向さんが自身のこだわりを追究されていることが手に取るように分かって、めちゃくちゃにインディーロック感が出ています。


曲自体は、「病んでいる」とも捉えられそうな、内省的でダークな木下さんの心の奥を曝け出すような歌詞にも関わらず、そのまま踊れるサウンドは健在で、さらに木下さんのART-SCHOOLの時はあまり聴けなかった図太い歌声も魅力的です。しかも、前作以上に伊東さんと大喜多さんの存在感が増していて、最早、木下さんと日向さんによる2人のバンドと言うよりも4人集まってkilling Boyと言えてしまうんじゃないか…!なんて思ってしまうほど、チームワークと個々人のプレイが光っているのも印象的です。

また前作もそうでしたが、ダンス的なサウンドだけでなく米国のWashed Outのようなチルウェイブの感覚や同じく米国からのSparklehorseのようなミニマルな憂鬱な感覚、フランスのJamaicaのようなハッチャけたテクノっぽい感覚もあって多様な側面を見ることができます。


とにかく木下さんと日向さんの真摯な音楽愛を出しながら、「分かる人だけのお遊び」ではなく、多くのリスナーを踊らせつつ、新しい価値観を提案するようなスタンスが全面に出ていて何ともカッコ良い、ポストパンク・アルバムです。


最後に。

内省的で鬱屈した感情を曝け出す木下さんとは対照的とさえ思えるくらい躍動感溢れるパワフルな日向さん。
このお二人、音楽愛の深さの共通項と、ある海外の超有名バンドのサイドプロジェクトを思わせないでしょうか…?

それはRadioheadのフロントマン、Thom Yorkeのソロプロジェクトとして始まった、Atoms For Peaceです。Atoms For Peaceも憂鬱がちで繊細な印象の強いThomと、そんなThomとは正反対とさえ思えるRed Hot Chili Peppersの陽気な馬鹿テクベーシストFlea(日向さんはFleaのベースプレイなどから多大な影響を受けたとも仰ってます)の相性が意外にもバッチリなんです。

この構図はkilling Boyにもかなり似ていて、それぞれ各々の魅力や持ち味で邦楽ロックシーンを牽引されてきた木下さんと日向さんのベストマッチングなスタイルを見ていると、killing Boyは日本のAtoms For Peace…!?なんて大袈裟かも知れない考えさえ浮かんでしまうほどのポテンシャルを感じずにはいられません。

killing Boyは実直なまでに海外のシーンからのサウンドやレコーディングの影響を打ち出しながら、木下さんの自身の闇を曝け出す歌詞、突き詰められた自主レーベルからのリリースなど、新たな価値観を邦楽シーンに提示する「新人バンド」と思います。そして、それは何より古今東西の音楽を愛してやまない、お二人だからこそできるアプローチでもあると思います。

killing Boyを聴いて、彼らの源泉を辿りながら洋楽に入門してみるも良しでしょうし、改めて邦楽のシーンを見つめ直すも良しだと思います。

たくさんの可能性をもった、ダークなダンス・サウンドに是非、足を踏み入れてみて下さい!

 
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