nerisuke─2013.1.21─
マッスル坂井という男がいる。というか、いた。
「マッスル」というプロレス団体を率い、00年代にどん詰りに陥っていたプロレス界に本当に1本だけの光を灯した異才、というか天才だ。
自分がプロレスを観始めたのは11歳の時。はっきり覚えていて、橋本真也とトニー・ホームというプロボクサー(後にプロではなかったことを知る。笑)の異種格闘技戦からだ。なんで橋本が修行僧のようなかっこうして入ってくるんだとか、そもそもなんでプロボクサーとレスラーが試合するんだとか頭はパニックだったけど、とりあえずすげぇカッコよかったのだ。
それからはビデオで漁りに漁り、昭和プロレス史をさかのぼり、革命戦士とドラゴンの勇姿に涙する日々。「メタリカ」と「ふしぎの海のナディア」と「プロレス」が好きな10代。ま、当然友達はいない。いたけど、壁を作っていたというか、見下していたというか。正直、嫌なやつだったと思う。
それから10年経ち、21歳の自分はPRIDEというか総合に夢中だった。 プロレスそのものに”プロレスの概念”を見いだせなくなっていた自分は、総合にそれを求めたし、実際そこにはあった。
そんな邪道プロレス生活が2、3年続いたある日、会社の上司(この先輩もホントに自分にとっては一本の光のような存在でした)が退勤時に「これからマッスル観にいくんだよ」と興奮気味に話してくれた。「なんじゃそりゃ」と思いつつも、その先輩の目利き (音楽もプロレスもサブカル全般も) は間違いはないので、とりあえずDVDで観てみると、驚愕の世界が待ち受けていた。
「マッスル」の説明は本当に長くなるので止めます。とにかく、とにかく面白いのでDVDでもなんでもいいので興味ある人はどうぞ。
何が言いたいかというと、でんぱ組.incの夢眠ねむを知った時に頭に浮かんだのが「マッスル坂井じゃん」っていうことだったのだ。
表現の道を模索して、模索し続けて、まったく思いもよらない道に活路を見出す。でも、結局人というのはそうそう簡単に変われるものではないので、
疑心暗鬼のまま進んでいく。確信の無いままでも畑違いの場所だからこそ、ダブーを恐れず、第三者的なメタ視点を持った全く新しい方法論でジャンルの閉塞を突破していく。
『でんぱ組.inc』は最初楽曲だけだとアクが強すぎて微妙だったけど、ねむきゅんのことを知ってからは「これは多分、自分にフィットする」って確信した。
とっかかりがあるともうハマるのは簡単で、メンバーそれぞれのストーリーも見えてくるとさらに楽曲にも感情移入してくる。
1月20日Zepp Tokyo。当日券も出ない状況の中、ツアーファイナルが行われた。
”でんぱれーどJAPAN”でスタート。続いて”Sabotage
”。くっそかっこいい。俺に鳥肌立たせたんだからたいしたもんだ。ま、何しててもすぐ立つんですけども。笑。”Kiss + Kiss で終わらない”のイントロで快感指数が上がりすぎて脳から変な信号出っぱなしになる。 ”Kiss + Kiss
〜”は聴くたびに毎回やばい。
そして今回のツアー中、ずっと行われていたという独白のコーナー。真っ暗なステージにピンスポットだけという状況で一人ずつ、過去の自分とこれからの自分を語っていく。会場からもこらえきれなくて嗚咽をあげる人が。
長い、長い6人の独白の後、リリースされたばかりの”W.W.D”が披露される。独白については
このインタビューとか読んでもらえるとなんとなく雰囲気だけでも掴めるかもしれません。
これは、思い出しただけでもかなりやばい。
神ライブという言葉は陳腐すぎて使いたくないけど、とりあえず今までのでんぱ組.incはこの曲にたどり着くまでのためにあったと言ってもいいと思う。
今までは、だ。
独白のコーナーはめちゃくちゃ長かった。ちょっと長すぎるくらい時間を取った。ハイライトではあったけど、正直やりすぎだとも思った。
でんぱ組は、いつまで「元全員引きこもりの〜」という枕詞と共に語られていくのだろう。これから、もっともっと色んな人に何かを”与えて”行かなければいけない存在になるためにはそんな枕は通り過ぎて行かなければいけない。
今回の長い長い独白とこの”W.W.D”はそのための禊ぎ(みそぎ)だったんだと思う。
こんくらいしないと、世間っていうものの見方は変わらないんだ。今後、この曲の存在っていうのは扱いに困るかもしれない。アンコールとか、特別な時にしか演れないようにも思う。名刺がわりであり、過ぎるべき場所なんだと思う。
そんなぐちゃぐちゃした感情、持ってたのは自分だけなのかな。そのために、ダブルアンコールの後に、こんな素晴らしい曲を持ってくるという演出をしたんだと思うのは個人的すぎるのかな。
2回やった”Future Diver
”で終わっても楽しかったと思うけど、この曲でのフィナーレはホントに綺麗だった。
この2曲が入ったシングル、どう考えてもやばいだろ。
マッスルは「行こうぜ、プロレスの向こう側」というアティテュードを掲げつつも、最終的には純プロレスに寄って行ってしまい頓挫してしまった。プロレスという概念に潰されたと言っても過言ではない(自分はまだ本当に終わったとは思っていなくて、いつの日かの再会を祈っている)。
でんぱ組.incはどこまで行けるんだろう。
とりあえず、9月の野音まで・・・、我慢できるかな笑 明日にでもまた観たい!
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