INTERVIEW
2016年ベストアルバム
2016年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。
jakagawa が選ぶ2016年 ベストアルバム
A Tribe Called Quest
宇多田ヒカル
D.A.N.
Frank Ocean
Radiohead
サニーデイ・サービス
James Blake
坂本慎太郎
大森靖子
世が暗い1年だった。
フジロックのステージ上からの菊地成孔氏曰く「世界は本当に惨憺たる状況だけどここから見える景色は最高だね」。
あるいは大森靖子のスミスのような冒頭曲曰く「地獄 地獄 見晴らしの良い地獄」。
ポップ音楽は時代を映す鏡で、原理的に存在自体がインスタントなので空気の反映が早い。
Brexitからトランプ政権が象徴する世の中の断絶や暗いムード、その中でのストラグル、意志・希望や絶望を作品に落とし込んだような傑作が多かったように思う。
(震災の空気をシン・ゴジラが完全に昇華するまでにかかったのが5年、と暴論してしまうと、つくづくミュージシャンの今年の反応は音楽らしかった)
そんな中、自分が今年一番心を動かされたのはわずか1日だけライブで聞けた小沢健二の7つの新曲群だった。
子供を持ったオザケンが作ったのは、落合陽一氏が「魔法の世紀」と喝破した物質と実質の境界線がなくなる時代に「魔法的」と銘打たれた、ファンタジーと現実が混ざりながら強い意志と躍動する、深い祈りのようなまったく新しい音楽だった。
ボブ・ディランがノーベル賞を取った年に、音楽と言葉の関係を革新するような歴史的な曲群が聞けたことに心から感動した。(来年に音源が出ることも願い、チャートからは除外)
*「魔法的」については大山卓也さんのブログのレビューが素晴らしく、少しでも感動が伝わると嬉しい
http://takuyaonline.hateblo.jp/entry/2016/07/06/125634
自分にとっては宇多田ヒカルやサニーデイ、坂本慎太郎、Gotch等の新譜も、2016年の世の中の虚無感や重苦しさを反映しつつ、ポップ音楽家としての矜持とイチ個人のOptimismがひしひしと伝わってくる、芸術家の意志の固まりみたいな作品だと感じた。
X-Dayの直後に最終作のリリースをあわせ(?)、黒人、メキシカン、ムスリム、ゲイに「we hate your ways, you must go」とジョークしながら「We the people」と連帯を呼びかけるTribe Called Questは完全にヒーローみたいだった(という文脈を置いておいても、圧倒的な音源の完成度でぶっ飛んだ)。
「True Love Waits」という20年来の反則技をRadioheadが今年あえて音源で使ったのも、トム・ヨークなりの願いみたいなものなのかもしれない。
一方でFrank Oceanのギタギタに切り刻まれた音像、不穏な抑揚、ソーシャルネットワークへの絶望、といった感覚が「落ち着く」という不思議な1年でもあった。
ここ数年の日本で最高の新人バンドだと感じたD.A.Nの高揚も、どこか内省的だった。
広がる格差が重い世界の変化を誘発した一方で、格差の象徴のようなKOHHの音楽が最高に刺激的だという矛盾は、まさにカウンターカルチャーとしての音楽の面白さそのものだとも思う。
宇多田ヒカルとFrank Oceanという今年の日米で最も「届いた」芸術作品2つにピックされながら、直後リリースが非正規流通のミックステープで、凱旋ライブをカラオケで締めるという掴みどころのなさ、来年が27歳でNirvanaを引用してくる危うさ、「今見ていないとヤバい」というKOHHの目の離せなさは、アルバムの出来を超えて2016年を通し最も興奮させられた存在で、1位とした。
シンプルな日本語がシンプルだから届くというコロンブスの卵。
なので自分にとってのKOHHは、ブルーハーツのようなもの…と肩肘を張ると次の瞬間かわされる感じがまたしびれた。
いわゆるロックバンドにあまり心が動かなかったが、年末にリリースされたthe xx「On Hold」とCloud Nothingsの新曲がどちらも素晴らしく、2017年が彼らの新譜で始まるのは最高に嬉しい。
(Clound Nothingsは新曲の「Anyone can turn the world to one worth living」という一節で「can turn the world」と「internal world」を押韻していると思われる…詩人)
オザケンの新曲群の1つ、「流動体について」の一節「だけど意思は言葉を変え 言葉は都市を変えてゆく」「神の手の中にあるのならその時々にできることは宇宙の中で良いことを決意するくらいだろう」、こんな感覚が2017年の中心にあることを祈りたい。
- 2024.12.04
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