INTERVIEW
田中「じゃあ、NOWEARMANの話を。初めて観させてもらった時に、ア・サーテン・レイシオなりジョイ・ディヴィジョンなりイギリスのバンドと、ニューヨークのバンドが浮かんだところがあったんですけど。その時に思ったのが、温度で言うとホットというよりコールド。ジャンルで言うと、すごく乱暴だけど、ア・サーテン・レイシオが出てきた時にホワイト・ファンクって言われたみたいに、やっぱりこれはファンクの一種である、と思ったんです。そのコールドっていう部分は、まあ冷たいとも言えるし、冷めているとも言える。ファンクっていう部分は、要するにねじれのあるビートみたいなものですよね。で、そういうふうに、NOWEARMANがタグ付けされた時にどう感じますか?」
長野「あまり熱くなり過ぎないような音楽の作り方というか、それこそクラウト・ロックとか、デトロイト・テクノみたいな、美学があった上でそこにディティールとしての情熱、熱さを乗せる意識で作っているので、温度感がすごく熱くはない、って言われることに関しては、まったくその通りだと思います。ファンクに関しては......音楽性云々ではなく、自分たちが音を出す上で面白いというか、美学とは別の部分での音楽に求めるものがあると思うので、その部分がビートのねじれ感に繋がっているんだと思うんですけど。どちらも言われて嫌な気はしないですね」
高藤「たぶん、コールド・ファンクって、うちらを聴いて言ってくれたのがタナソウさんだけだと思うんです。僕はそれがすごい嬉しかったんですよね。NOWEARMANは、熱いものを敢えて殻みたいなもので隠して、クールに見せているところがあって。で、僕自身も自分の中にはドラマーとしてのファンキーな部分がすごくあるんですよ。細かい16ビートとかが実は全部隠されてる8ビート、みたいなものを意識して演奏しているんです。そこを見抜いてもらったのが、すごく嬉しかったですね。本当の黒人にはかなわないけど、そういうのを大好きでやってるのをここに出して演奏している、っていうのをわかってもらえたって。普段はあんまり言われないけど(笑)」
長野「言われないね(笑)」
田中「わりとよく言われるのって、どういうこと? いい部分も含めて」
長野「それこそ、『洋楽っぽい』(笑)」
高藤「あ~、言われるねえ」
長野「形容しがたいんですかね? あんまり知らない、って感じで」
高藤「で、結局、シンプルとかタイトとか、そういうことになるけど。実は内側にあるカオスなものっていうか、すごい細かいものっていうのは、なかなか」
田中「でも実際、今回のタイコの金物とかの録り方って、すごく意識的ですよね? スネアとかキックのちょっとリヴァーブ音が少なめで、アタック音がクリアになる鳴り方とか。ベースのアタック感ある感じの録り方も。ああいう録りって日本のレコードにはないな、っていう感想は持ちました。今回みたいな音作りって結構大変なんですか?」
高藤「いや、基本的はいつもライヴでもそうなんですけど。必ずミュートはして、倍音なく、っていうのは意識してやってる感じです。ハイハットも敢えて強弱をそんなにつけないで、あんまりバウンスしないように叩くとか。ただ、レコーディングではそれをよりいい感じにしてもらっていて」
田中「NOWEARMANみたいな音楽性の場合、曲作りはどこから始めるんですか? ベース・ライン、リズムのパターン、もしくはある程度ジャムでリズムを決めていくとか」
長野「いろんな作り方があるんですけど、ジャムをやって、モチーフが何か一個固まったら、そこに繋げていく感じで作っていますね。曲ごとにバラバラなんですけど、三人で全部鳴らしてやるのが一番多いです」
高藤「一周したりするよね。誰かが最初作って、みんなが乗っかったけど、結果的に一周してみたら、最初に作ったやつを変えた方がいいんじゃない? ってグルグルと周って。結局は全部変わって、またみんなでジャムって作って、みたいな感じが多いですね」
田中「ヴォーカル・メロディなり歌詞なりっていうのは、ある程度トラックが見えてきてから?」
長野「トラックが見えてきてからというよりかは、もうトラックを詰め詰めにしてからですね。それからメロディが出来て、最後に歌詞っていう感じです」
田中「たぶん、NOWEARMANは言いたいことが先にあるわけじゃないでしょ? やっぱり、自分たちが鳴らしたいフィーリングがあって、それにトラックを近づけていって、だったら、どういうメロディ、どういう言葉が必要か、っていう順番でしょ?」
高藤「そうです、そうです」
中村「うん」
長野「歌詞で悩むバンドもいると思うんですけど――別に悩まないわけでもないんですけど。歌詞とトラックをあまりに意識的に分け過ぎているバンドが多いのが邦楽の特徴なのかな、とも思いますね。本当はバンドのサウンドが打ち出しているものっていうのが、一番リスナーに伝えるべきもので。結局、歌詞って単独で聴こえてはいけないと思うし。やっぱりバンドのサウンドがあって、そこに歌としての言葉が乗っている、っていうことだと思うので」
田中「じゃあ、長野くんの中で歌詞を書く上での決まり事みたいなものはありますか? 情景描写とフィーリングっていうのが、ある意味、並列に描かれていることが多いと思うんですけど」
長野「歌詞に関しては、真理を――と言ったら、話がデカくなり過ぎちゃうんですけど(笑)、真理があるものがいいと思っていて。なので、ディティールをそれに付け加えることによって、その真理が、ユーモアだったり、物語だったり、散文的なものに変換されてる歌詞が優れていると思うので。そこの角度をちょっとつけることで、普通のことを言っているけど、少し歪に見えるというか。あまり言葉の意味が前面に出ていくようなものにしたくないと思ってるんですね。たとえば、『苦いコーヒー』だったら、そんなの普通のことだし、みんな感じることで。じゃあ、そこに色がついたら、で、順番を変えたらどうなるか。たとえば、『コーヒーは苦い、そして黒い』みたいなものだと、そこに何かが入り込む余地がある。でもそれは決して、自分の意志だとか言葉の意味が前面に押し出されたことによって、相手から引き出す何かではないと思うんですよね。言葉遊びともちょっと違うんですけど、そういう面白さは意識してます」
田中「ただ、どうですか? 歌詞のラインを見た時に、一曲の中で、すごくドライな現状認識みたいなものと、すごく理想主義的でロマンティックな視点みたいなものが、対比のようにワンセットになっているのって、何曲かあると思うんですけど、それは癖ですか? 意識的なものですか?」
高藤「なるほどねぇ(笑)」
長野「確かにそうですね。癖って言ってしまえば癖なんですけど(笑)。でも、やっぱり、ドライに努めたい、っていうことの表れっていうか。そこが割り切れてない部分かもわかんないですね。どうしても日本語を扱うので、日本語で何かを言うっていうのは、すごく自然なことだからこそ――」
高藤「思わず何かが出ちゃうっていうね」
長野「うん。無意識のうちに感情が反映されてしまうけれども、それをそのまま反映させたくないっていうか。そこに少しドライな認識――客観的で、ディティール的なものを入れたいっていうのがあって。でも、その角度のつけ方が見破られたというか(笑)」
田中「じゃあ、そんな素っ頓狂な分析ではなかった?」
長野「いや、全然。まさにその通りですね」
田中「そこは、さっき話してもらった、リズムとメロディの対比みたいなところと、感覚的には近かったりするんですか? どちらか一方だと自分たちが目指しているものではないっていう」
長野「そうですね。言いたいことがないっていうのと、またちょっと違うので。言いたいこととかは、勿論あった上でのそれ、っていう意識ですね、歌詞は」
田中「わかりました。じゃあ、今のところ、音楽的なことで何か訊き逃してしまっていることってあったりますか?」
長野「ギター・コード弾かないとか、そういうことはどうでもいいです」
高藤「アハハッ!」
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