INTERVIEW
――今回のアルバムのほとんどをレコーディングした後藤くんのスタジオ『Cold Brain』は、いつ頃作られたものなのですか?
後藤「去年の1月くらいかな。とにかくまずは地下室がいいなと思って探したらいいところが見つかって。地下だからほとんど防音もしてないんだけど、特に音響面でこだわったところもなくて、フラっと音が出せるところにしたかったんです。俺が本当に欲しかったのは、そうやって音を出しながら作っていくことができるプライベートなスペースですね。実際、卓とかはあるけどそんなに立派なものじゃないし、大きさも普通、本当に普通のハコみたいなところで、階段の下のところにヘコんだスペースがあって、そこがアンプの鳴らし場になってる、みたいな。ありものでいいものを作るために、自由に使える場所が欲しかったって感じですね。時間制限がないから始めるのもやめるのも好きなタイミングでできるでしょ」
井上「間接照明とかあってオシャレだけど(笑)、すごく居心地いいですよ。結局どのくらいレコーディングしていたんでしたっけ?」
後藤「去年の夏からだからそれなりにはスタジオに入っていたと思うけど、結局、実働では30日くらいだったと思う。シモリョー(the chef cooks meの下村亮介)もTORAちゃんも時間をみつけて来てもらったから全員が一同に集まったりはしなかったけど、結構ギュッと詰めて集中して作業できたと思うよ。とりあえずまずは12月にジョンにミックスしてもらうまで録りは終らせないといけなかったわけなんだけど、でも、自分でも驚くくらいうまくいったと思う。無駄な作業もなかったし、井上くんを含めたメンバーの参加配分とかも絶妙だったと思うな」
――では、ミックスをそのジョン・マッケンタイアに依頼したのはどういう部分に期待してのことだったのですか?
後藤「ジョンっていわゆるトータスとかザ・シー&ケイクのイメージがあるけど、僕はブロークン・ソーシャル・シーンとかパステルズとかヨ・ラ・テンゴとか、近年の彼の仕事がいいなって思ったんですよね。派手じゃないけど、ちゃんと奥行きのある仕上がりになってる。俺が整理し切れないものをイコライザーできっちり整理してくれるんじゃないかなってところには期待しましたね(笑)」 ――ジョンのミックスって本当に波形がキレイだって言われますね。 井上「自分が参加した曲もそうですけど、どれもバランスがすごくいいんですよ。ギターが出過ぎていない」 後藤「ほんとにギター出てないよね。思わずシカゴのソーマ・スタジオに行ってちょっとだけ上げたもん、俺(笑)。『Stray Cats〜』とかはちょっと上げたよ。でも、聴こえてはいるんだよね、ちゃんと」 井上「そう、埋もれてるわけじゃないの。ドラムとかも生に差し替えたんじゃないの?って思えるくらい生っぽく聴こえたりして......」 後藤「ドラムに関してはジョンに任せたから差し替えたかも(笑)」 ――やっぱりジョンはドラマーだから。 後藤「そうだね。でも、そこもさりげないんだよね。あんまり"俺印"的な音作りをする人じゃないんだけど、しっかり音を交通整理してくれる。最終的には俺がシカゴのソーマに飛んで、そこでジョンと直接会ったんだけど、基本はお任せ。でも、それで、やっぱりお願いして良かった!って結果になった。結局、どのエンジニアと組むか、どのメンバーと組むかを決めた段階で8割方は完成形が見えるんだよね」 井上「へえ! そういうもんですか」 後藤「うん。PVを監督さんにお願いする時もそうで。"どういう感じがいいですか?"って監督さんに訊ねられても"貴方にお願いした時点で、もう信用していますから。お任せですから"って答えるの。今回、ジョンに頼む際も、"あなたの最近の仕事では、ブロークン・ソーシャル・シーンとパステルズとヨ・ラ・テンゴが素晴らしかったです"とだけ伝えてそれで終り。ジョン、すっごいいい笑顔で、本当に嬉しそうにしてたけどね(笑)。物静かな方だったけど、すごく喜んでくれたよ」 ――しかも、今回はジョンのそのミックスが活きる、アナログ・レコードでまず先行発売されますね。このアイデアは制作前の段階で決めていたことなのですか? 後藤「ソロを作るって決めた時にはアナログ・レコードで出したいなとは思っていました。今年、レコード・ストア・デイの日本版のアンバサダーになったので、実施日である4月19日にリリースしましょうということになったって感じですね。実は、この前、アナログ盤のジャケット1500枚にサインをしたんですけど、その時思ったのは、MP3にサインなんてできないなってことなんですよ。MP3だと音楽を所有するって感覚がないでしょ。そういうことを考えた時に、ヴァイナルっていうものはすごく意味があるように思えるんですよ。僕は好きなバンドのCDとかレコードが買えなくなったらイヤだなって思うし。それに、人のiPodって簡単に覗けないけど、人の家に遊びに行ったら、やっぱりCD棚とか気になって覗いちゃうもん(笑)。それってコミュニケーションの一端ですよね」 井上「Gotchさんのスタジオにはターンテーブルもありますからね。レコードもたくさんあったなあ。その場でパッと聴けるのもいいですよね」 後藤「スタジオにあるCDは2000枚くらい、レコードは300枚くらいかな。まあ、単純に僕とか井上くんとかがレコード好きっていうのが一番なんだよね。ミュージシャンである僕らが率先してアナログ盤を勧めたいっていう思いもあるけど、リスナーと自分の作品をレコードで持っていたいって気持ちが大きいんだよね。そうそう、今回、タワレコさんとヴェスタックスさんとアジカンとでコラボレートするんですよ。アジカン・モデルのポータブル・ターンテーブルを出すんです」 井上「えーっ! いいなあ!」 後藤「同じレコード・ストア・デイに発売するんですけど、これでレコードを聴ける環境にいない人も聴いてもらえるんじゃないかと。やっぱり、レコードって実際に盤をターンテーブルに乗せて、A面が終ったらひっくり返して...ってそういう手間ひまが一番面白いところでもあるからね」 ――集中して聴こうって気にもなる。 井上「うん、レコードは掃除をしながら聴こうとは思わないからなあ(笑)」 後藤「ただね、よくレコードは音がいいって言われるけど、それは実はマチマチなんだよね。いいものもあるけど、ヒドいものも多い。特に最近の海外プレスのものはマスターが悪い場合もあって必ずしもいい音とは言えなかったりする。最近の作品なんかはCDの方が音がいいことも多いから。なんでもかんでもアナログがイイわけじゃないけど、レコードを聴く楽しみは絶対にあるってことだよね。同じように、今ってなんでもかんでも東京に集中しちゃってるけど、もう少し地方に散らばってもいいんじゃないかなって気もしてて」 ――井上くんとTurntable Filmsは京都を拠点にしているバンドですし、今回の後藤くんのソロに参加している仲間も関西在住者が多いですね。 後藤「そう。今はどこにいても情報が得られるし、そもそも情報が早ければいいって時代でもなくなってきてると思うんだ。それよりもその土地、その場所で何が起こっているかをちゃんと理解して、そこにコミットすることの方が面白い。もっともっとどの町も成熟していけばいいのにね。京都とかも"京都っぽい"とかって言われるじゃない? それが正しいかどうかは別としても、そうやって町ごとのイメージが顕在化していくと面白くなると思うんだよね」 井上「町のヒーローみたいなのが生まれればもっと加速しますよね。僕は京都生まれ京都育ちで他に知らないっていうのもありますけど、東京にライブとかで行くたびに人が多くて疲れるんです。絶対に東京には住めないなって。だからって京都のシーンを盛り上げるぞ!って強い使命感があるわけでもなくって。ただ、自分が生活している場所が活動する場所になっているって感じなんですよ。でも、それが自然なんだろうなって気はしていますね。そういうことがどの町でももっと増えていくと面白くなりますよね」 後藤「どこでも面白い音楽は作れるし、面白い音楽は聴ける時代だからこそ、今は、場所というより、"あの人と一緒に何かやりたい""あの人が面白いことをしているよ"みたいなことの方が先行していくと自然と散らばっていくんじゃないかなって気はするね」 ――"個"への注力ですね。 後藤「そうそう。もしかしたら町とかローカルというより、そういうところなのかもしれないね。だって、定住しないノマドな人々が面白い音楽を作るって流れが昔はあったわけじゃない? ジプシー音楽なんてまさにそうでしょ。そういうことを思うと、面白い人がいるところが面白い場所。みんな、家なんて持たないで渡り歩きながら音楽作れば面白いんじゃない?(笑)」 井上「カッコい〜! やってみたい!」 後藤「だって俺、家を買うこととかに関心ないもん(笑)。生活って年齢とかその時々で変わるもんじゃん? それに応じて変えていけたらいいなって思う。まあ、とりあえず、東京にいないとダメだ、という状況ではなくなったよね。ローカルが最高だよ!ともまだ言えないけど、あとはここからどういう次の動きが出てくるかに注目していたいな。井上くんみたいなスタンスのミュージシャンがもっともっと増えれば面白い動きが見えてくるかもね」 井上「頑張りまーす!(笑)」 後藤「その人がやりやすい場所、面白いと思える場所こそが拠点だし、そこから面白い音楽も生まれるんだと思うよ」
井上陽介も参加するGotch Tour 2014 『Can't Be Forever Young』は、5月16日からスタート。 1982年京都生まれ。
また7月に開催される『FUJI ROCK FESTIVAL'14』にも、ツアーを共にしたメンバーで出演することが決定した!
こちらもお楽しみに!!
井上陽介 (Turntable Films/Subtle Control) -PROFILE-
Turntable Filmsのボーカル/ギター。
Turntable Filmsの作詞/作曲/プロデュースを担当し、バンド活動と平行して2011年からはソロ名義"Subtle Control"として音源制作、ライブを展開。
『SECOND ROYAL VOL.6』に初のソロ音源「Too Young」が収録。2013年4月にソロ作品集『Subtle Control Vol.1』をリリースした。 またYeYeやGotchの作品に演奏やプロデュースで参加するなど活動の幅を広げている。
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