INTERVIEW
――今回のソロ・アルバムの方向性とかスタイルについては事前にどの程度共有していたのですか?
後藤「実はそこまで明確じゃなくて。そろそろソロを作りたいなあって思ってはいたんですよ。それこそ、最初に井上くんと会ったその大阪でのイベントの時にはぼんやりと考えていたんですけど、作るならギターは誰かに頼みたいなって思っていて。例えば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONはあの4人で作るからASIAN KUNG-FU GENERATION。あの4人じゃないと意味がない。だからレコーディングにはあまりゲストとかも呼ばない。こんな時代に、誰かとやること以外にバンドをやってる意味なんてないと思うんですよ。だって、今の時代、データの交換で遠くに住んでる人とも簡単に音源を作れるわけでしょう? でも、だからこそバンドはバンドでありたい。俺の作ったデモをそのままASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバムの中にいれるなんてイメージは全くないんです。ただ、ソロに関してはそうじゃないから、じゃあ、ギターはどうしよう?みたいなことから考えていく必要があったんですよね」
井上「なるほど。音楽性というより、バンドとソロの在り方の違いですね」
後藤「そう。だってさ、今のASIAN KUNG-FU GENERATIONって、物販のTシャツも自分でデザインしないと気がすまない!って初期の頃の感覚がもう通用しないっていうか、もうだんだんと巨大ロボットになってきてるからね(笑)。しかも、好きでいてくれてる人の幻想もそこに乗っかってきてるでしょ。アジカン好きな人のアジカン像みたいなものも背負って成立してるから、そこを極端に裏切りたいって気持ちもあんまりないんだよね」
――ある種、企業化、組織化しているということでもある。
後藤「そうそう。巨大ロボがどれだけデカいビルを壊したか?みたいな動きに対して興味がある。あんな巨大ロボがこんなことを!ってことが楽しみのひとつでもあるっていうか」
井上「アジカンで音楽的な新しいチャレンジをしたいという気持ちはどの程度あるんですか?」
後藤「もちろんないわけではないよ。歌詞なんかは特にそうで、みんなが自分のことしか歌っていない状況なら、アジカンでは違う歌詞を提案しようとかって思うし。でも、誰も聴いたことがなような新しいジャンルを打ち立てたい!というような気持ちよりも、自分たちが活動することによってどのくらい状況が変わったりするのか?ってことに興味があるよね。例えば、今年のレコード・ストア・デイでは、僕のソロ作も先行でアナログ盤の発売があるんだけど、アジカン・モデルのレコード・プレイヤーも発売するの。その効果とかにすごく関心があるよね。もちろんソニーっていう大企業だから制限はある。今回の僕のソロもソニーで出すとなると色々とコストも時間もかかる。でも、そういう決まり事が多い中で、どうやって崩していくのか?ということにチャレンジしていたいと思うんだよね。配信もやっちゃいけなかったんだけど、今は配信で買えるようになった。"YouTubeのチャンネルがないのはなぜなんだ?"って主張して作ってもらうとかね......」
――バンドがそのまま影響力のあるメディアになることの醍醐味を体現しているということですね。
後藤「そうそうそう」
井上「なるほどなあ〜。僕も一応ソロ(Subtle Control)をやってるんだけど、バンドと音楽性を分けてるところがあるんです。でも、Gotchさんはどこでその音楽性の違いが分かれていくのかなって、そこにすごく興味がありますね。もちろん、ソロではアジカンの時のようにパワー・コードは弾かないとか、そういう具体的なプレイの違いはあると思うんですけど、それ以外の線引きって曲作りの段階のどこに設けているんですか?」
後藤「実を言えば、そんなに違いはないんだよね。ソロでそんなに実験的なことをやってるわけでもないから、曲を作ってる段階で、そのままアジカンのスタジオに持っていったら、それはそれでアジカンっぽく仕上がったと思う。要はサウンド・プロダクションの違い。作りながら分かれていく感じかな。まあ、感覚なんだけど、これはアジカンでやった方が面白いかなとか、そういうのは自然と決まっていくことが多い。エモーショナルになりそうなものはアジカンに持って行くとか、そういうイメージで分かれるかなあ。イントロでピアニカが聴こえてくるようなアレンジが浮かんできたらやっぱりアジカンには持っていかない。横浜アリーナで演奏しているイメージって沸かないから(笑)。逆に言えば、どこで鳴らしてもいいというか、演奏することを想定せずに曲を作っていったものがソロになったというのはある。アジカンは鳴る場所や音の感じを想定しているところがあるから。あと、このメロディは多くの人と共有できそうだなって曲はアジカンの曲になっていくし......まあ、歌詞のフィーリングの問題ですね。例えば、今回のアルバムだと『A Girl in Love』はすごく個人的なフィーリングを歌った曲だから、これはソロ向きだなっていうのは最初から何となく見えていたんだよね」
井上「僕が今回のGotchさんのソロで参加したのはその『A Girl in Love』と『Stray Cats in the Rain』『Nervous Breakdown』なんだけど、特に『A Girl〜』と『Stray Cats〜』はバンドっぽくないかも。そういうことを感じながらできた曲なんですかね」
後藤「やっぱり最初に弾き語りでライブをやり始めたっていうのがきっかけとして大きかったかもしれないね。本当に色んなところでやらせてもらってきたんだよね。重要文化財のお寺とかでもやったし、普段やれないようなところで弾き語りをするようになって、アジカンで鳴らすこととは違う感覚というのがリアルになっていったのかもしれないな。2010年くらいから作っていた曲のフレーズを活かして完成させた曲もあるしね。でもね、結構成り行きではあって。どこに着地するかわからずに向かっていたってところはあったんだよね。ただ、打ち込みバリバリじゃなくて、生音、生楽器を重ねて作りたいって意識は結構最初からあったかも。人間が作った音楽として、その生っぽさを出したいっていうのは最初から考えていたかもしれない。でも、実際に井上くんに連絡して、録音するから手伝ってって頼んだのは......いつかなあ、確か去年の夏くらいだったと思う」
井上「うん、『NANO-MUGEN〜』終った後くらいだった。かなり前に"ソロ作るから手伝って"って言われていたのに、"どうなってるんだろう?"って思っていたんですよ」
後藤「うん、ずいぶん寝かしちゃったよね(笑)。メールはしてたと思うんだけど、こっちの準備がなかなかできなくて......」
井上「去年7インチ・シングル『The Long Goodbye』が出たでしょ? あれを聴いて、ああ、このシングルで終りなんだな、自分はもう呼ばれないんだなって思ってましたよ(笑)」
後藤「いやいや、アルバムにするイメージはちゃんとあったの(笑)。ただ、仰々しいプロジェクトじゃなくて、普段暮らしている中から自然と発生したものでありたいなというのがあって。ふっと浮かんだアイデアをすぐ友達に連絡してレコーディングして...って具合に進めたかった。井上くんもそうだしTORAちゃん(8otto)とかにも気軽に電話して"いつ空いてる?"って声かけて、"来月のこの日なら大丈夫です""じゃあ、その日までにトラック用意しておくよ"って感じ。アジカンだとそうはいかないんですよ。締め切りが決まってて、リリース日が確定して、そこから逆算してキッチリと進めていかないといけない。でも、今回のソロは、これが趣味かどうかの確認もできない......もっともっと日常的な作業として始まったの。納期がないから最初はそういうわけで井上くんにもなかなか連絡できなかったりしてユルかったんだと思う。でも、徐々に動いてきたらいよいよ完成に向けて襟を正していかなければいけない。その段階になって、ミックスはジョン・マッケンタイアがいいな、とかってアイデアを現実的なものにするために動かないといけなくなって、で、確認してみたら、ジョンは12月なら何とかスケジュールをとってもらえそうだから、11月には歌録りして、となると8月9月とかには録音も始めないとって感じで......」
井上「ああ、思い出した、そういうメールを貰ったこと。全然連絡なかったのに、メールが来たと思ったら急に具体的になってきたなって(笑)」
後藤「でも、あの段階でもまだ曲数は決まってなかったんだけどね。10曲入れようと思ったんだけど、結局2曲追加したりして...。ただ、さっき言ったことにつながるけど、生っぽい音でありたいということと、着飾るような感じにはしたくなかったという方向性はこの段階で明確にはなってたと思う。生っぽいってっても民族音楽っぽい感じじゃなくて、ロックのフォーマットの中で普通に使われてるようなタンバリンとかタムのようなものをふんだんに使って生っぽさを出すような......普段着の感覚ですね。だから、いくら上手くても会ったこともないギタリストに連絡して頼むような感じにはしたくなかった。井上くんにお願いしたのもリラックスして笑ったりしながら作業できそうだったからっていうのが大きかったですね。そもそもウィルコが好きなんだから大丈夫でしょ!っていうか(笑)」
井上「まあ、確かにGotchさんのスタジオに行ったら自分のCD棚と同じようなものが並んでいたけど(笑)」
後藤「ベックとかニール・ヤングとかの話が普通にできるようなギタリストって認識だったからね。井上くんにお願いしたかった曲に関していうと、特に、どっちかっていったらアメリカのルーツ・ミュージックを吸収した、エッセンスとしてちゃんと理解できるサウンドをなんとなく考えていて。(山本)幹宗はもっとブリティッシュだけど、井上くんはアメリカのルーツが音で出せる人って感じ。自分の中でふたりのプレイをどう活かしていくかって想像しながら完成させてたからね。ただ、ひとつすごく意識をしていたのは、僕はやっぱり日本人だからアメリカのルーツ音楽は好きだし、例えばジャック・ホワイトがやっているようなことがカッコいいなとも思うんだけど、あれは彼がアメリカ人だからいいんであって、僕の場合、作品の中には大相撲や文楽が好きな自分というのが自然に現れたらいいな、そうでありたいなとは思ったりするんだよね。もちろん、相撲や文楽の要素がポップ・ミュージックに直結はしないわけだけど、今の僕の感覚、僕が感じるロックやポップスを作ったら、自然とそういう部分が入ってくるんじゃないかって思うんですよ。少なくとも日常的にそういうものに親しんでる自分が反映されるわけだから。だから、あくまで音楽性だけに共鳴してアメリカっぽい、イギリスっぽいってところにフォーカスさせたわけじゃないんですよね」
――例えば、かつてはっぴいえんどがバッファロー・スプリングフィールドなどの影響を受けて、日本語のロックを創成したという時代があった。あの時代の彼らの心意気と、今の後藤くんの意識に開きは感じますか?
後藤「いや、もちろんはっぴいえんどがやってきたことは素晴らしいですよ。僕も改めてバッファロー・スプリングフィールドを聴いたりしましたし。ただ、古い音楽遺産をそのまま受け継ぐんじゃなくて、もう少し今の時代っぽさを与えたいという気持ちもあるんです。そこは音作りも、歌詞も含めてかなり考えたところですね。でも、どっちかっていったら、やっぱり普段着のままの姿をいかに作品につなげるかの方が大事だったというのはあるかな」
――歌詞の面でも確かに日常感を伝えるものが多い印象です。『Wonderland』の中に"必死こいて一銭にもならない"という歌詞が出てきますが、"必死こく"なんて言い方、アジカンでは考えられないですよね。
後藤「確かにありえないですよ。でも、そういうチャレンジをソロだからこそできるかなって思っていたんです。実際、もっと砕いた言い回し、言葉使いができたらいいなってずっと思っていたんで......そうですね、そういう意味でも今回のソロは新しい自分の言葉使いに挑戦した作品と言えるかもしれないです」
井上「僕、一番新しいアジカンのアルバムの歌詞を読んで思っていたんですけど、自分には考えつかない歌詞なんですよね。僕だったら絶対にこの言葉じゃリズムに乗らない、でもGotchさんは見事にそれをやってのけてる。不思議だなあって思ったんですよね。言葉だけではリズムが想像できないのに、でも、曲になった時にはすごくピッタリくる。逆に言えば、音だけだったら自分とすごく近いところがあるんですよ。でも、その音にこの歌詞かあ!って後から歌詞がついた時に驚いたりするんですよね。今回もそうでしたよ」
後藤「歌詞がまだ乗ってない曲のデモだけを先に聴かせたことあったね」
井上「そうそう。でも、スタジオで合わせていく中で曲のイメージがどんどん変化していくんです。歌詞がついて歌が乗ると、最初の曲だけの印象が変わってくる。これは面白いなあって感じましたね」
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井上陽介 (Turntable Films/Subtle Control) -PROFILE-
1982年京都生まれ。 |
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