INTERVIEW
思えば数年前、後藤正文が弾き語りライブを行なうようになった頃から、いつかはこういう時が来るだろうとは想像していたが、ついにソロ名義=Gotchとして初のアルバムをリリースすることになった。タイトルは『Can't Be Forever Young』。4月19日、レコード・ストア・デイにまずはアナログ・レコード2枚組(同内容のバックアックCDつき)として先行発売され、30日に通常盤CDが届けられる。いずれも、自らのレーベル=only in dreamsからの発売だ。
だが、初のソロ作と言ってもどこにも無駄な力が入っていない、ポップで親しみやすい後藤のソングライターとしての持ち味がいかんなく発揮されたアルバムになっている。もちろんサウンド・プロダクション面では様々なアイデアが盛り込まれているし、ストレイテナーのホリエアツシ、Turntable Filmsの井上陽介、the chef cooks meの下村亮介、8ottoのTORA、YeYeら仲間ミュージシャンも多数参加。後藤自らがプログラミングやシンセサイザーを担当した曲もあるし、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのようなシンプルなバンド・サウンドとは言い切れないギミックもあるにはある。
しかしながら、それでも本作は後藤が生来の音楽家であり、いくつになってもピュアな音楽ファンであることを再認識させてくれるにふさわしい、実に一本気なアルバムだと断言できる。ひとりの人間として社会にしっかりと対峙する姿勢を自身の活動の中に落とし込んでいる現在の後藤正文は、ある側面ではミュージシャンとしての領域を遥かに超えた影響力を持つに至っていると言っていい。だが、本作を聴けば、今もレコードショップで時間を忘れて新作や中古盤を漁ったり、好きなアーティストのライブで体を揺らす、もうひとつの......いや、本来の素顔がクッキリと浮かび上がってくる。どうしようもなく音楽を作ることが好きで、音楽を聴くこともまた同じくらい好きというあまりにも無垢な素顔が。そんな後藤が、あくまで素材を活かした誠実なミックス作業をする現在のジョン・マッケンタイア(トータス、ザ・シー&ケイク他)にミックスを依頼したのも至極当然と言えるだろう。
そこで、今回は後藤とアルバムにもギタリストとして参加、この後展開されるツアーにも帯同することが決定しているTurntable Filmsの井上陽介との対談を敢行した。ふたりは世代こそやや異なるが、共に洋楽指向が強く、また、大のアナログ・レコード好きでもある。対談は井上が作品を出す京都のレーベル=Second Royalのオフィス兼ショップに後藤が出向いて行なわれたが、後藤はショップに入るなり一目散に売り場のCD棚に駆け寄り、井上は後藤がアメリカはシカゴで買ってきたアンクル・テュペロ(ウィルコの前身バンド)のレコードをお土産として貰って狂喜乱舞だ。ミュージシャンである以前に、無邪気な音楽ファンであるそんなふたりに、最初に出会ったいきさつから話を聞いてみた。
(取材・文:岡村詩野/撮影:成田舞/協力:Second Royal)
後藤「大阪で俺が弾き語りしたことがあって、確か2010年だったかな、『FLAKE RECORDS』と『digmeout ART&DINNER』の共同開催のイベントで。その時に一緒だったのがTurntable Filmsだったんです。それまで僕は名前くらいしか知らなかったんだけど、周囲の知り合いが勧めてくれていたんですよ。そしたらライブ見て、"メチャクチャいいな、このバンド!"って。まだ自主制作のミニ・アルバムしか出てなかった頃だったと思うけど、音源もすごく良かったんだよね。そこからなんとなく薄いつきあいが始まっていきましたね(笑)」
井上「ほんと、最初は薄かったです(笑)」
後藤「演奏とかもうすごくうまくて、井上くんはギターうまいし、バンドのアンサンブルもまとまっていて、このバンドは確かにすごいなって驚きました」
井上「で、その後、『NANO-MUGEN CIRCUIT』に出させてもらって......」
後藤「でも、その時は卑怯な編成だったんだよね(笑)。サポート・メンバー大勢の7人組フル装備で」
井上「『NANO-MUGEN〜』に呼ばれたんだけどって言ったら、(サポート・メンバーの)みんないっせいに"出る出る!"って...(笑)」
後藤「もちろんそれでもライブ自体はすごく良くって。井上くんのギターを見て改めていいなあって思いましたね。オルタナっぽいギターを弾くし、アブストラクトだったりもするんだけど、ちゃんとオーセンティックなフレーズも弾ける。ディレイとかフィードバックもするけどカントリーっぽい要素をしっかり身につけてる、おまけに自分で歌えるギタリスト、そんなにいないから。ただ、それ以前にこのバンドは曲がいいなっていうのが第一印象でしたけどね」
――井上くんはどこがギタリストとしての出発点だったのですか?
井上「ベンチャーズですね。知り合いのおじさんに教えてもらって、3年間くらいベンチャーズしか弾かないくらい基礎を叩き込まれたんです。その基礎っていうのは、丁寧に弾くこと、という基礎中の基礎で。そこから、ブルーズとかジャズとかのギターを色々聴いて、自分の中に取り込む作業をしていったんです。最初はカントリーとか全然知らなかったんですよ。でも、アメリカの昔の音楽を勉強するようになってカントリーやフォークに出会ってどんどん吸収していったんです。ベンチャーズっていうインスト・バンドの音楽が入り口だったからギタリストとしての成長につながったんだと思います。最初に聴いたものが歌がなかったわけですからね」
――同世代の仲間が聴くようなロックは聴いてこなかった?
井上「いや、もちろん知ってましたよ。オアシスなんかもカッコいいなって思ったんですけど、ギターだけ聴いて"うわ、カッコいい!"っていうほどには......」
後藤「そうだね、あれはボーカルがカッコいいというのが最初のインパクトだもんね」
井上「そうそう、あと、バンドとしてカッコいいとかね」
後藤「ノエル・ギャラガーは手癖で弾いてるもんね」
井上「でもテクニック重視かって言ったらそうでもなく、メタル系のギターはスポーツっぽいからあまり馴染めなくて。速さとか重さとかを競う感じで......」
後藤「俺もメタルは通ってないなあ」
井上「ネルス・クライン(ウィルコのギタリスト)とかも速弾きするんですけど、なんか違うんですよね」
後藤「そもそもカントリー・ギターを弾ける若いギタリストってそんなにいないんだよね。僕は大学で"ブルース研究会"ってサークルに一応入っていたからブルース・ギターについては結構叩き込まれて。朝から晩までずっとブルース・ギターを弾いている先輩とかをたくさん見てきたんだよね。でも、僕はその頃からもうバンドをやっていたし、歌を歌いながらギターを弾くスタイルなので、自分でブルースやカントリー・スタイルのギターを弾くことはあまりない。歌の伴奏としてギターを必要としているって感じだから。それよりも、この曲にはこういうギターが欲しいなとか、ここは音が重なってるからギターは1本要らないなとか、そういう聴き方をすることの方が多い。プロデューサー的な目線で聴いたり作ったり。で、自分で弾けないなら上手い人に頼むとか、今回だったら井上くんに頼むとか(山本)幹宗に頼むとか。ASIAN KUNG-FU GENERATIONだったら喜多くんと相談して、フレーズを預けたりもするし。そうやって考えて作り上げていくのが好きなんですよね」
井上「そっかあ。僕は最初はギタリストになりたかったからなあ」
後藤「だってギタリストっぽいもん、スタジオに来ても(笑)」
井上「(笑)」
後藤「佇まいからしてギタリスト。エフェクトの置き方とか使い方とか......。ちゃんとギタリストのチャンネルでスタジオに来たなって感じがすごくした」
井上「それはあるなあ。曲作ってる時はソングライターのチャンネルが働くけど、スタジオではギタリストのチャンネルが働く。でも、Gotchさんとは感覚が合うっていうか、こういうギターが欲しいのかな?っていうのがすぐ理解できたんですよね」
後藤「意志疎通がしやすかったね」
井上陽介 (Turntable Films/Subtle Control) -PROFILE-
1982年京都生まれ。 |
Turntable Films
LIVE |
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