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(2011.03.31)
石井光太 ×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤「僕は、いろいろな見方、考え方っていうのを許すような寛容な社会っていうのも絶対必要だと思うんですよね。ルサンチマンの吐き出し方も、ものすごいヒステリックというか。ぶつける相手がタレントだったりするのが、意味がわからないんです。その興味っていうのを、もう少し社会のほうに向けたらと思うんです。そこでも、もしかしたらある種のデジタル思考が立ち上がるような気がしていて。例えば、原発問題。"全部なくすの?できるかよ"って意見もあれば、"あれはもうダメでしょ"って意見もある。でもそれって、今日明日どうにかなる問題じゃなくて、なくすんだったら何十年、あるいは百年かけてやっていかなければいけない話だし。僕は、もちろんそうできたらなっていうのが理想だと、昔から思っているんですけど。でもそれって、最初におっしゃられたよう社会のあり方、経済のあり方とか、僕らの暮らし生き方をガラッと変えることだと思うし」

石井「ものすごいことですね。想像する以上のことですよ」

後藤「そそういうことに取り組まなきゃいけないんだけど、賛成にせよ反対にせよ、そこにある種のファシズム的な考え方が立ち上がるんだったら、そこに抗うような発言をしていかなきゃいけないと思うんですけどね」

石井「ノンフィクションの世界っていうのは、おっさん臭漂う世界なんです。自分はできるだけ若い読者を掴もうと志しているし、自分で言うのもなんですけど、僕の作品には若い読者が多いと思ってるんです。本の世界で仕事をしていて思うのは、結局おっさんに褒められても何も変わらないですよ。これは本当にそうなんですよ。変わるには中学生高校生、せめて大学生、最高でも25歳くらいの層に訴えられないと、物事は変えていくことができないんです。僕は自分でやっていて、そこにもどかしさがあります。音楽の世界って、聴く層が圧倒的に若いじゃないですか。そこには堅苦しい理屈も必要ない。これから何かを作っていこうって人に、直接訴えかけることができる。だからこそ、本当に後藤さんを羨ましく思うんです。後藤さんにできることは、たくさんあると思うんです。先ほどおっしゃっていたように、社会的な文脈を通す必要はなくて、後藤さんというごく個人のフィルターを通して、自分がどう思うかどう感じるか、何を大切にするかを発信することによって、聴いている人間がこれから何かを組み立てていこうとするときに、ひとつの大きな材料になり、指標になるわけじゃないですか。ファンに対してビシッとダイレクトに届けられる素晴らしさ、それが音楽の一番の強みだと思っているんです。各分野、そのフィールドでなければできないことはあると思うので、その中でいろいろ変えていくことができる今は、一番大切な時期だと思うんです。だからこそ、後藤さんにはいろいろ発信してほしいですね。それは救援するってことだけではなくて、日常の中に小さな神様を見つけることだってそうだし。詞を書く上で、僕の本を参考にしてもらえていたら、すれはすごく嬉しい。今回の話もそうだし、そういった中で何か一緒にできて、新しい価値観、世界像を作っていけたら幸せだなと思いますよね」

後藤「そうなったら僕も良いなと思います。僕達のような30代が、それぞれの持ち場でやりたいことやるべきことがあって。そういうことが打ち合わせなく、バラバラだけど何となく同じ方向を向いていてほしいなって思うんです」

石井「そうですよね。"後藤さん、何やってんだ!""石井、何やってるんだ、バカか!"とか、それでも良いと思うんですよね」

後藤「僕は、音楽は10年以上かけてやってきていることだけど、それ以外の分野を今やっている音楽以上に掘ることはできないから。そういうときは、音楽に集ってくる人達に対して、光太さんのような面白い人がいて、こういう面白い本がありますよってレコメンドするっていうか。そういう風に紹介すれば、中高生は読んでくれると思うんですよね。30代20代って、好きなものができあがっていて、人から勧められても、テコでも動かないところがあるから。小学校中学校で好きになったものって、一生好きなんですよね。だから、小学生とか中学生に届けることがロックンロールのあるべき姿っていうか。でも今は音楽が、洋楽邦楽とかいろんな断絶の仕方をしているところもあって、そういうところにひとつ杭を打ち込んでいけたら面白いなと思って、自分達でフェスを始め続けたら、何年かしたら一定層の同じような考え方の人達が出てきてくれるんですよね。種の蒔き方としては、そういうことだよなって確かに思っていて。自分が言ったりやったりすることって、ダイレクトに中高生に響きますよって、そういことを意識しなさいよって、自分に対して思いますね。そういう点においては、自分の行動の中である種自分の偶像と付き合わなければいけないという、最たるところではあるかなと思います」

石井「この歳になると、若い子を見ると無条件にかわいいなって思いますよね。僕達もあと10年したら、40代半ばのリアルおっさんですよね。そうなったらいろんなことが変わってきて、20代後半や30代の人間が前線で戦っているわけです。だからこそ、自分が苦労してでもその世代の人達が上手くいくような土壌を作りたいなと思っています。僕はタイプ的にブルドーザーなんですよ。ぐちゃぐちゃの中をグワッと掘り起こして、あとは次の人が耕して新しい畑を作ってくれたらうれしいなって意識があります。それは音楽の世界でも同様だと思うんです。後藤さんが他のミュージシャンと違う手法で畑を耕して、それを聴いて育った今の中高生が10年20年経ったときに、その畑でまた違うものを生み出していけたらいいと思うし。物事ってそうやって繋いでいくしかないと思うんですよ。そういう意味でいうと、僕も後藤さんも決して大きな存在なのではなくて、ある周期の中で耕すひとつのブルドーザーでしかないわけですから。でも、それができる幸せっていうのを最近感じている、それって面白いなって考えているんですね」

後藤「いいですね。楽しみですよね。僕はミュージシャンだから、音楽の世界だとミュージシャンとの対談しかないんだけど、こういう対談をしたかったのは、いろいろとやっていることが違う人と話してみたいっていう思いがあったんですよ。だから今日はおもしろいですね」

石井「僕もめちゃくちゃ面白いです」

後藤「自分がアップデートされる感じがします」

石井「違う脳みその部分を使いあってますね」

後藤「光太さん、実際に被災地に行かれていて、被災者にインタビューもされているんですよね?」

石井「してますね。怯えながら話すこともあるし」

後藤「僕、光太さんの被災地での取材のつぶやきを、どんどんリツイートしてますから。すぐにではないと思いますけど、またその被災地での取材を本にまとめられるのを楽しみにしています」

石井「はい。僕も、またお会いして何かできる機会を楽しみにしています。せっかくなんで、繋ぎあっていきたいなと思います」

後藤「僕はこのサイトを続けていきたいと思っていますし、光太さんが震災に関する本を出されるときに、またここでお話させてください。世間一般は、その事件はある程度風化しようとしているかもしれないし」

石井「ぜひ、やりましょう!」

後藤「今日はありがとうございました」

石井「こちらこそありがとうございました」

石井光太 -PROFILE-

1977年、東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。海外の生活や文化に関する作品を発表する他、ドキュメンタリ番組の制作、絵本や漫画原作、写真、ラジオなど幅広く活躍。
公式ホームページ

■主な作品
『物乞う仏陀』(文藝春秋)
『神の棄てた裸体-イスラームの夜を歩く』(新潮社)
『絶対貧困-世界最貧民の目線』(光文社)
『日本人だけが知らない 日本のうわさ-笑える あきれる 腹がたつ』(光文社)
『レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち』(新潮社)
『地を這う祈り』(徳間書店)
『感染宣告-エイズなんだから、抱かれたい』(講談社)

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人食い日本兵の亡霊、乳飲み子を抱くオカマ、奇形児を突き落とした産婆、人間の死体を食い漁る野犬......。世界の現実とは、人間が織りなす祈り、幻、流言によって成り立っている。棄民たちの世界を象るグロテスクな「幻」が露にする、戦場・密林・路上の実像。

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