INTERVIEW
石井「金を集めてナルシズムだけを満たして終わりじゃ辛いですよね。悪いわけじゃないですけど、その上で、自分は何をしたいのか?って考えること、悩むことが大事だと思うんですね。結論として何もしないっていうのもあると思うんです」
後藤「人生相談みたいになってますね(笑)。みんな、そうやって引き裂かれて自分の中で答えを出せばいいと思うし。"こうあるべきだ"って考え方がある人もたくさんいるし」
石井「そうですね。それもあって成り立つわけですし」
後藤「一番気になるのは、時間が経つとみんな忘れてしまうことなんですよね。例えば、2008年にチベットの問題が起きて、オリンピック、北京と合わせて、日本中が話題にしてたのに、今は誰も話題にしない。ダライ・ラマは広島にいらっしゃったりとか、チベットの僧侶が来てチベット蜂起記念日に合わせて祈りを捧げたりされていますけど、あまり報道されていないし。震災もそうやって忘れさられていく側面があると思っていて。それが一番よくないと思って。僕は、そういうところでは鈍足っていうか。2001年9.11のときも全く事態が飲み込めなくて。なんだかわからなくて。すぐに歌詞とかに書ける人ってすごいなと思ったんです。僕は、置いてけぼりをくらったような感じだったんですけど、何年かかけてやっと詞にできたんですね。こうなんじゃないかっていう気持ちっていうか、どこに向かっていこうかってところに辿り着いたんです」
石井「そういえば、震災の後にホームページで『砂の上』っていう詞を発表されていましたよね。あれはどういう経緯で?」
後藤「あれは、今の自分を赤裸々に書こうと思って。無力さとか不確かさとか、それで『砂の上』なんですけど。人のために曲を書くことって、今まではやりたくなかったんですよ、正直言って。そんなの思い上がりだと思って。僕は、歌っていうのは自分の中の感情に捧げてきているし、そういうものでしかないと思っていて。それが、どこかで誰かの助けになればいいと思うんですけど。今回は初めて、これを聴く人達を意識しようと思ったんです。でも多分、音楽家として鳴らす自分を肯定したかったんだと思います。はっきり言えば、僕が鳴らしているあの曲がすぐに被災地に届くとは思ってないですし。だって聴きたいと思ってもらえたとしても、術がきっとないですから。聴くことができる人達に向けて歌おう、立ち上がろうと思っている人達に届けばいいと思ったんです。あとは、同じミュージシャン達への思いもあるし。あの地震で歌う場所がなくなって、スタッフ達も働く場所もなくなって、収入がなくなっているに等しい人もいる。でも多分、そういうことは想像されずに、「節電」とか「不謹慎」っていう言葉が出てくる。だから、そういう仲間達を勇気付けたいっていう気持ちもあったし。ああいう曲を作って、怒られても「不謹慎だ」と言われてもいいと思ったんです。ミュージシャンも「お前ら不謹慎だ」と言われてナンボだってところもあるし。こんなに、アーティスト様みたいになっているのがおかしいと思うし。ミュージシャンって、神様みたいに扱われたりすることもあって。でも、僕は前からそういうことに否定的で、「僕は普通の人間だよ」って思っていますから。僕もできるなら被災地に行ってみたいって気持ちはありますけど、行ったら行ったで、「飯どうしよう?トイレどうしよう?帰りどうしよう?」ってオロオロするだけでしょうね。だから、自分の暮らしている街で、オロオロすればいいと思っているんです。雨が降ったら放射能のことにビクついて、そうやって生きるのが僕にとっての今回の震災との向き合い方っていうか」
石井「正直に体感する、実感するということですよね」
後藤「スーパーやコンビニに行って何にもないことに、僕はオロオロと困ればいいんだって思って。またそれを綴って行けばいいし」
石井「ミュージシャンも作家もそうですが、書いたり作ったりする人ってただの人間じゃないですか。先生ではない。むしろ社会的不適合者かもしれない。僕はスーツを着て会社勤めをしたら、数日以内で辞めてしまうかもしれない。でも、聴く人とか読む人って、その作者をある種の神様だと思っていないと、聴けないし読めない部分がありますよね。そのギャップを感じませんか? 例えば、本は買ったら1500円、CDだったら2000~3000円くらいしますよね。それ以外のエンターテインメントもたくさんあるし、ただで読めるものも聴けるものある。なのに、わざわざそれを毎回買って、読んだり聴いたりできるっていうのは、一種神格化していないと買うまでに至らないと思うんです。それで成り立っているのが、文化的なビジネスだったりするわけじゃないですか。だけど中にいる人間からすると、そうじゃないと抗いたい気持ちってあるじゃないですか? 勝手に自分像が作り上げられている。僕なんか、会うたびに"石井さん、意外と声高いね。もっと低いかと思った"って言われたり(笑)」
後藤「(笑)。僕も、テレビでお見かけして、意外と声が高い方なんだと思いました(笑)」
石井「(笑)。声だけじゃなくて、どこまで本当の自分でいていいのか? あるところでは、神様と言われる期待に応えなくてはいけない部分が、どうしても出てくるわけですよね。"震災のときに何をやってるのあなたは?"っていうのは、神様として期待されている声じゃないですか。現実としては、自宅にいて連載をこなしていたほうがお金になるけど、"神様、震災地に行ってくれよ"って声もあるわけです。そのバランスは非常に難しいですよね。その辺はどうですか? そのバランスを決断しなきゃいけない場面ってありませんか?」
後藤「アイドルって言葉があるように、偶像崇拝に近い部分はあるんで、その距離感は難しいですよね。でも、自分自身が見失わないようにしたいとは思ってますね。僕は、車を持ってないしスタッフが車で迎えに来てくれるとき以外は、普段は電車で移動するんですね。そうじゃないと曲も書けなくなると思うし、普通の人間として書かないと。そういう怖さはありますね。イメージが作られていってしまうというか」
石井「それって、さっきの社会の文脈が作られていく話と似ているかもしれないですね。社会の一時的な見方で、世界がどんどん成り立っていくっていう」
後藤「僕は、Twitterを始めたら、いくらかのファンに失望されましたね(笑)。それで逆に好きになってくれた人もいるとは思うんですけど。雑誌のインタビューだけ読んでいたら、この人は小難しいこと言って色々なことを考えていると思うかもしれないですけど、僕だって本当にくだらないギャグも言うし、下ネタだって言うこともあるし。情報が少ないと、それだけを真に受けて人物像を作り上げていってしまうんでしょうね」
石井「そうでしょうね。世界像とか社会像とかもそうやってできているんだと思うし、政治だって何だってそうだと思うんです。だけど、それに対して多様的な見方を与えるのは本当に良いのかどうかっていうのも、よくわからない部分ではあるんですよね。それだけ考えても結論は出ないですからね」
石井光太 -PROFILE-
1977年、東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。海外の生活や文化に関する作品を発表する他、ドキュメンタリ番組の制作、絵本や漫画原作、写真、ラジオなど幅広く活躍。 ■主な作品 |
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